第5話 知覚的恐怖に畏まる

 自分もメロディーは美しい方がいいと感じる。教授こと坂本龍一は音楽は美しくあるべきだと思う、というようなことをインタビューにて聞いた覚えもある。


 しかしながら、美しいものには棘もあるのだ。美しく儚いものは常に壊れる恐怖を内に孕んでいる。気がつかない振りをしても近付くとその強力な磁場に捕らえられ身動きが取れなくなってしまう。目も離せず耳も塞げず金縛りの恐慌が脳内を駆け巡るのだ。視覚と聴覚から這い登ってくる浄化の恐怖に絶え切れず、全知覚を張り巡らせたまま気絶をするしか残された方法は無かったのだ。


 ほんの一瞬の出来事、ナノ秒の記憶の断絶。それは夥しい細胞群が死に逝くメロディーと折り重なり濃密なる空間を埋め尽くすように覆いかぶさってくる漆黒の闇。美しさの極限での恐怖が静かに舞い降りるプレリュードが聴こえてくる。

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