第9話イアンレ


民間ハローワークは、色々な求人がある。


サービスを受ける側とサービスをする側である。


「すみません、フレンドサービスはありますか?」


背の小さい女の子が神山斗真に聞いた。


「ありますよ。パソコンでどんな友達がいいか検索して絞れます。」


「あ、ありがとうございます。」


少し人間不信なのかもしれない。


「あの、神山斗真さんはどなたですか?」


「わたしですけど…。」


民間ハローワークには職員のプロフィールも公開されている。


「検索したら出てきました。わたしの友達になってくれますか?」


「良いですよ。」


民間ハローワークの儲けは寄付や国の助成金、大企業の下請けもする。


CMもしていてスポンサーがたくさんいるのである。



加賀友子24歳居酒屋チェーン店の店長をしている。


友達とはサービス業なので休みの日が合わない。


それでまだ学生の彼氏とはすれ違いの結果別れたばかりである。


平日の火曜日、駅前で待ち合わせた。


痩せていて背の小さい友子は水族館に行きたいと言った。


白イルカが大好きなので友子はずっと白イルカの水槽の前を動かない。


「本当に、白イルカが好きなんですね。」


「はい…。少し元カレと似てるんです。」


友子は泣きながらもずっと白イルカを見つめ続けていた。



人は何かを所有したがる。


それは人と人の心を。


いつか好きが境界線を飛び越える。


そして毎日が真っ白になる。


「斗真!ポエムの才能あるよ!」


風呂場から佐紀の声がした。


「ポエムじゃなくて詩だよ!」


今日は、佐紀を斗真の部屋に呼んだ。


「白イルカの彼女に感情移入しちゃったの?」


スーツから部屋着に着替えた斗真は


「何となくね。」


と答えた。


「浮気は許さないよ!」


佐紀は全裸で風呂から出て来て言った。


「あのさ、全裸の美しい女性に言われても説得力ないよ。」


斗真はエロい体をしてるなと思った。


すぐに佐紀は真っ赤な顔をして風呂場に戻った。


「白イルカに似てる彼氏って想像出来ない。」


「うーん、そうだよね。」


「斗真の処方箋効いたんじゃない。」


「そうかな?」


二人でビールを飲みながら話した。


「サービス業は大変よ。」


「でも、佐紀さんのお店って土日休みだよね?」


「うん、斗真の休みに合わせた。」


「さすが社長!」




「今日は、土曜日。わたしはわたしの性の解放をするの。斗真とね。」


苦いビールを佐紀は斗真に口移ししてからキスをした。


「今までで一番美味しいキスだよ。」


「斗真!大好き!」


佐紀は、満面の笑みを顔に浮かべた。


「君に今すぐ伝えたい世界一キミのキスに酔っている。」


「また、ポエム?」


「違うよ、詩だよ。」


「題名は?」


「愛してる。」


「ふーん、愛を語るにはまだまだ新人君だね。」


キミのほろ酔いした頬にキスをする。


心の斗真なりの詩だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る