第7話和菓子の花
僕、神山斗真は、民間ハローワークの新入社員です。
今日も迷える人達を少しばかり背中を押せれば良いと思っています。
さっそく僕の前には気難しそうな人が現れた。
「うちのあんこを作れる人間を探してくれ!」
「あんこ?というと…。」
「和菓子屋だ。うちは手作りであんこを製造してるんだ。人材を探してくれ!若くて和菓子に興味なんて無い人間で良いんだ!」
「分かりました。」
新井敦26歳、現在金属会社で派遣社員として働いている。
斗真は、迷いなく彼を引き抜いた。
彼は今の会社で冷遇されていた。
電話一本で彼は引き受けてくれた。
大学も出ているがメンタルがやや弱い。しかし、真面目で未来がある青年である。
斗真は、初日朝五時半に待ち合わせた。
敦は、バイクで眠そうな顔をして斗真を待っていた。
「お、おはようございます。」
「おはよう。緊張してます?」
「少し…。」
どこか世捨て人のような覇気の無い印象を受けた。
「あんたは、もう帰って良いぞ。」
旦那は、そう言うと敦を連れて作業場に引っ込んでしまった。
斗真は、心配だったがEランクの職場だから訳ありという事は無いだろう。
それから一ヶ月半が過ぎて旦那から電話が斗真にかかって来た。
「うちの社員にする。直接雇用したい。いくらあんたらに払えば良い?」
クレームかと思っていたので斗真は気が抜けた。
詳細な話をして直接雇用に切り替えた。
電話で敦に伝えると大喜びしていた。
親にもやっと伝えられると斗真に感謝していた。
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それから二ヶ月後、旦那が斗真の前に現れた。
「あいつは使えないからクビにした。誰かいないか?」
と少し影のさす言葉を出した。
「いますけど…。」
それから毎月のように旦那は斗真の前に現れて
「誰かいるか?」
と聞いて来た。
もうこれで三人目になる。
みんな辞めてしまうのだ。
そんな時に女将が斗真の前に現れた。
「すみません、うちの旦那がわがまま言ってしまって。」
「いえいえ、人材を送り出すのがわたしの仕事ですから…。」
「あの人、まだ新井敦さんを忘れられないのね…。」
「新井敦さんですか?」
「あの人が気に入る人間なんてそうそういなくて、でも敦さんなら店を任せても良いと言ってましたから。」
「でも、旦那さんがクビにしたんですよね?」
「え?聞いて無いんですか?」
「クビにしたとだけ…。」
「敦さん…朝、店に来る途中で飲酒運転をしていた車に正面衝突して即死でした。」
「じゃあ、何で旦那さんは嘘を?」
「今でも敦さんが朝早く来るんじゃないかと思ってるみたいで…。」
「そうですか…。」
斗真は言葉を失ってしまった。
「最近の若いのは根性が無い。」
また和菓子屋の旦那は斗真の前に立っていた。
「新井敦さんはどうでした?」
「あいつは…。根性があった。」
「女将さんから聞きましたよ、新井さんの事。」
「そうか…。あいつは不器用だったが純粋だった。」
旦那の喪失感は顔にも現れた。
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