夢のツバサ

そるふ

大空ドリーマー


「空は~飛べないけどー♪ 夢の~ツバサがある~♪」


 目の前ではファンが声援をあげていて、とても盛り上がっている。


 彼女らもそれに負けないように大空ドリーマーという曲を歌っていた。


 やっぱりこの時間が一番楽しいわね!


 ぺパプのリーダーであるプリンセスはそう心から思っていた。


 ここに辿り着くまでの過程は練習などで苦しくもなるが、ステージに立つと皆が喜んでくれる。

 そして、そのおかげでまた練習を頑張れる。

 アイドルをやっていて良かったと、一番思える瞬間だ。


 その快感を噛み締めている内にライブは終わりを迎えた。


「今日も楽しかったわね!」


 プリンセスは控え室でぺパプの4人へと声を掛ける。


「そうだなー! 疲れたけど!」

 そう言って快活な笑みを浮かべたのはイワビー。


「私も同じだな、楽しい方が大きいが」

 冷静に淡々と話すのはコウテイ。


「私も楽しかったですけど、まだまだ上手くならなきゃです……」

 丁寧な敬語で向上心を見せているのはジェーン。


「それより、お腹空いた~」

 おっとりとした独特の空気感を醸し出しているのはフルル。


「今日も良かったですよ!」

 嬉々ききとした表情で褒めてくれたのはマネージャーのマーゲイ。


 この様々な性格のメンバーをプリンセスはまとめている。


 昔は自分で色々な細かい事もやらなければいけなかったが、マーゲイがマネージャーとして加入した事で多少楽になった。


 それでも疲れる事はあるが、それ以上に皆が面白くて、毎日が楽しい。


「あのー……? すいません、聞きたいことがあるんですけど……?」


 その時、声が聞こえ入り口の扉を見ると、そーっと2つの顔が覗き込んでいた。

 サーバルとかばんだ。

 彼女らは自分が落ち込んでいた時に励ましてくれた心優しいフレンズである。


「良いわよ、入って……で、聞きたいことって?」


 プリンセスは彼女らを入室させ、尋ねる。


「ぺパプの皆って翼はあるのにどーして飛べないの?」


 サーバルは口を開いたかと思うと、そんな事を聞いてきた。


先程の大空ドリーマーの歌詞を聴いて、そう思ったのだろうか。


「そうね……私達も飛ぼうとした事はあるんだけど、どうも出来なくて……」


 ねぇ?とメンバーにも意見を求める。


「そうだなー、確かに飛べたことはないなー」

「飛べる感覚もしないしな……どうやったら飛べるんだ?」

「沢山訓練とかすれば、もしかしたら出来るようになるんですかね?」

「今、空にジャパりまんがあれば、私は飛べそうー」

「どうなんですかねぇ……ぺパプの皆さんだったら何でも出来そうですけど!」


 イワビー、コウテイ、ジェーン、フルル、マーゲイが口々に意見を出し合う。


「そうなんだー、飛ぶ所見てみたいんだけどなぁ……そうだ、かばんちゃん! どうにか飛ぶ方法ない?」


 メンバーが意見を言い合っている間にサーバルはかばんへと助けを乞う。


「そうだねぇ……僕も飛べないから分からないけど、例えば高い所から飛んでみるとか?」


 かばんは何気なくそう発した。本当に何気なく。


「なるほど!!!」


 ぺパプとサーバルも含めた皆が一斉にかばんへと顔を向ける。


「さっすがかばんちゃん! すごーい!」

「なるほど……わ、私は分かってたけどね……」

「やるなー! かばん!!」

「それは名案だな」

「凄いですねー、流石かばんさん!」

「はわぁ……何か眠くなってきちゃった……」

「やっぱりかばんさん凄い!」


 フルルだけは感心する余裕も無いのか、目を擦っていた。


「じゃあ、早速行くわよ!」





 一行は高い崖へと来ていた。


 下には湖が広がっているし、そこまで高くないので飛べなかった時も安全な場所だ。


「これ……本当に落ちても大丈夫……?」


 リーダーとしての意地で一番にプリンセスが名乗りを上げた。

 本当は足が震えるほど怖いが、彼女らの前で行かない訳には行かなかった。


 崖の下を覗き込むとその高さが垣間見える。湖が広がっているとはいえ、恐怖は抜けない。


「じゃ……じゃあ……行くわよ……?」


 若干涙目になりながら、崖の先に立つ。


「頑張れプリンセス! お前なら行けるぞー!」

「頑張れ、大丈夫だ」

「無理しないでくださいね!」

「きっと飛べるよ~」

「あのプリンセスさんなら絶対出来ます!」

「プリンセスなら出来るよ! だいじょーぶ! だいじょーぶ!」

「プリンセスさん! 怪我だけはないように気をつけて!」


 皆がそう声を掛けてくれて、少し勇気が出た。これだけ、応援してくれるフレンズの皆がいるのだ……大丈夫。


 そう自らに言い聞かせて、宙へと思いっきり跳躍した。


 短い翼を一生懸命に羽ばたかせるが、体は浮き上がることなく、湖へと落ちて行く。


「きゃあああああああああ!!」


 悲鳴をあげながら、身動きのとれない空中でもがき続ける。


「いやぁああああああ!!」


 落ちる、と覚悟を決め、目を瞑ったその時、体が謎の浮遊感に襲われた。


「えっ……?」


 目を開けてみると、目一杯の湖が飛び込んでくる。


 しかし、そこに落ちることは無く、湖の上空にいるのだと理解した。


 まさか……私、飛べてる……?


 翼をはためかせると体は浮き上がり、湖が遠ざかって行く。


 周りを見渡すと、森や川、そして先程までいたライブ会場も目に入る。


 間違いない……飛べてる……!!


 とてつもなく嬉しくなり、皆の元へ向かおうとしたその時だった。


 まるで自分を吊っていた糸がぷっつりと切られてしまったかのように地面へと急降下していく。


「きゃああああああああ!!」


 また飛ぼうと翼をはためかせるが、体が浮き上がることは無く、そのまま湖へと落ちて行った。


 今度こそ駄目だ。




「きゃああああああああ!!」


 プリンセスは勢い良く体を起き上がらせた。

 何が起きたのか分からず、辺りを見回す。


 そこは岩場になっており、近くにはぺパプの皆が眠っていた。


「夢ね……」


 ようやく理解し、安心する。それと同時に少しの空しさも感じた。


「やっぱり……飛べないのかな」


 夢だから飛べたのであって、やはり私達は飛べないのだろう。そう理解すると悲しくなった。


「空は~飛べないけどー♪ 夢の~ツバサがある~♪」


 ふと歌声が耳に入る。声を辿るとフルルの寝言らしい事が判明する。


 フルルが!?と驚きながらも、その大空ドリーマーの歌詞を反芻していた。


 そして、気づく。


 そうだ、飛べないからこそ、この曲は出来たのだ。

 私達は空へと飛び立てない。けれど夢のツバサがある。


 すると、先程と打って変わって太陽の光が差したように心に明るさが灯る。


「空は~飛べないけどー♪ 夢の~ツバサがある~♪」


 そうしてプリンセスはそう口ずさみながら、練習するのであった。



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