四神ロボ ジャパリオン

宇佐つき

最終回「大勝利! ジャパリオンよ永遠に」

 一同皆、息を飲んだ。四神を掲げた時、火口から這い出てきた巨大な影に。


《これは、一体……?》

《我が主オイナリサマが形作り、四神がその力を宿して生まれた巨大フレンズ型決戦兵器、ジャパリオンよ。ミライ》


 ラッキービーストが映す記録映像が代弁する。ここにいる誰もが抱いた疑問と、その答えを。


「あれ、ミライさんの隣にいるの、ギンギツネ?」


 サーバルが顔見知りを見つけるとかばんも頷いた。もっとも彼女達が出会ったのとは別の個体らしい。眼鏡をかけて、妙に深刻そうな顔をしている。一方「映像の中のサーバル」はやはり能天気に言う。


《これで黒いセルリアンをやっつけちゃおう!》

《そうね。操縦はミライ、貴方なら出来ると思うわ。ただし……このジャパリオンはサンドスターで動くのだけれど、内蔵量が不十分でたった数分動かすにも私達のサンドスターを食べてもらうしかないわ》

《……駄目ですよ! そんなことしたら皆さん》

《けものに戻る、わね。私は構わない。この島を守る為だもの、覚悟は出来てる》

《なら私も! ミライさん、私達を使って!》

《出来ません! 出来ませんよ……》


 ミライが項垂れると共に、辺りは静まり返る。後光差す巨神は心なしか、悪魔のようにも見えた。

 かばんは見上げる。挑むように。


「ぼく、これに乗ってみます」

「かばんさん、いいの? サンドスターを使っちゃうんだよ?」


 話を正確に理解していたが故、フェネックは静止する。それを見てアライグマとサーバルも何やら良くないことだと悟り、引き留めようと加わる。しかしかばんの決意は固い。


「わかったんです。ぼくが生まれてきた意味を。多分、これに乗って皆さんを助ける為なんじゃないかなって。大丈夫、ヒトが動かせるものならぼく一人でも動かせると思うから……じゃあ、行ってくるね」

「なら私もついてく! かばんちゃんだけ大変な目に遭わせたくないよ。私にも手伝わせて」

「サーバルちゃん……」


 手と手が重なる。重なっていく。


「困難は群れで分割せよって言うのだ。ここはアライさんにも任せるのだ!」

「かばんさんもアライさんもほっとけないよー。皆でやれば負担も少なくなるし」

「カバン、補助ハボクニマカセテ。三分以上動カスノハアブナイカラ気ヲツケテネ」

「アライさん、フェネックさん、ラッキーさんもありがとう。それじゃあ……お願いしますね!」

「おー!」


 その場にいる全員の心が一つになった時――伝説の巨神は完全に目覚めた。




「リカオン、お前は、逃げろ……いいな!」


 ヒグマに突き飛ばされて、リカオンは尻もちをつく。そのまま足が竦んで動けない。仲間がセルリアンに食われていく様を目の前で見せつけられたなら。

 そんな、どうして――戸惑い。生き残るのであれば、いつも冷静で厳格だけど頼りになるリーダーの方であるべきだったのに。リカオンの目に涙が浮かぶ。恐怖と、己の力不足を嘆いて。

 黒セルリアンは無慈悲に迫る。全長は手前の木の二倍を軽く超え、鈍重なれど四足で距離を詰めるのはあっという間。到底逃げられない。

 逃げようともしない。むしろ前へ前へ、動き出そうとする。仲間を取り戻したくて。けれども動かない。取り戻す術がない。絶望がリカオンを覆う。

 黒い影の隙間から指す一縷の光に、必死で縋りついた。


「もう失うのは嫌だ……助けて、助けてよ! 誰か助けて!」


 黒い手が差し伸べられた――その時。

 闇は横なぎの光に吹き飛ばされ、神が降り立った。

 ――ジャパリパークの守護神、ジャパリオン。


「大丈夫ですかー?」


 背部のスザクウイングをはためかせ、語りかける。リカオンは突然の出来事に理解が追いつかない。


「かばんちゃん、大変だよ! ヒグマとキンシコウが食べられちゃってる!」

「ビャッコクローデ殻ヲ破ロウ」

「わかりましたラッキーさん、サーバルちゃん、お願いしていい?」

「任せて! えいっ!」


 サーバルが感覚的にボタンを叩くと、ジャパリオンの右手から鋭利な爪が生える。と同時に操縦席にもレバーが飛び出した。


「サーバルちゃん、それを倒して」

「わかった! うみゃみゃみゃみゃみゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 振り下ろされる腕。サーバルの繰り出した技は素の何百倍ものパワーで黒セルリアンの腹を引き裂いた。そのまま手を突っ込み、未消化のフレンズをすくい取る。

 仲間が還ってきて、ようやくリカオンも歩き出せた。


「よ、良かったぁ……本当に……ありがとう、ええと」

「かばんです。ここは危ないので、お二人を連れて離れてもらえますかー?」

「オーダー、了解です!」


 ここぞとばかりに力を振り絞り、リカオンは同胞を担ぐ。諦めきれないのか、なお黒セルリアンは後を追おうとするが、間にジャパリオンが立ち塞がる。

 睨み合う、二大巨頭。

 大気中のサンドスターローを吸収して自己修復するばかりか、一部を分離して飛ばすセルリアン。しかし全て、ジャパリオンの左手に遮られて蒸発した。正確には左手から発する光の壁に。


「ゲンブシールドってーこう使えばいいのかな」

「すごいのだフェネック! 次はアライさんの番なのだ! あれ、んぐぐ、この棒かたくて動かないのだ……」

「今は問題ないですから、次はええと、セルリアンを海まで運んで沈めます!」

「よーし、やるぞー!」


 腕の力を全開に相手の足を掴んでは放り投げ、距離を開けては全速力で突進を食らわせる。ガキン、と金属同士がぶつかる音が島中に木霊した。

 その繰り返しにより、今やセルリアンは背水の陣。尻尾は波に攫われて、ただの溶岩へと変貌していく。それを見た一同は湧いた。勝利の希望が見えてきた。絶望を隠しながら。


「あともうちょっとだよ! うみゃあ! ……あれ? ねぇ、押し返されてない?」


 一歩下がる。ジャパリオンの方が。もう一歩。


「かばん、ちゃん?」

「……アワワワ」


 力を使い果たし、かばんの意識はすでに飛んでいた。無敵の巨神はあっけなく吹っ飛ばされる。港から離れた遊園地にまで。

 夕焼けに染まる観覧車が、ジャパリオンの血を浴びたかのよう。


「動け、動いてよぉ!」


 捕食者は、ゆっくりとだが確実に、獲物に迫る。


「折角かばんちゃんが頑張ってくれたのに、こうなったら私が代わりに」

「サーバル、ダメダヨ。ココカラ海ハ遠スギテ、モウ一度運ブ前ニ倒レル」

「えっボス、喋れるの?」

「緊急事態ダカラネ。アライグマ、セイリュウポンプデ口カラ水ガ出セルヨ。残リノ力ヲ集メヨウ」


 かばんに代わって指示するがアライグマは首を振る。珍しく弱気に。


「駄目なのだ、さっきみたいに上手くいかなかったら……」

「いいよー失敗しても」

「フェネック?」

「でもアライさんなら出来るって信じるよ。だからやってみようよ」

「そうだよ! やろうやろう!」

「……わかったのだ。アライさんに任せるのだ!」


 アライグマがすっかり元の調子に戻ったのを合図に、全員が持てるサンドスターを解放した。そのエネルギーは動脈を伝い、青龍の頭部に流れ込む。ジャパリオンの目が強く光る。

 目と目が合う。黒セルリアンは勝ち誇って腕を振り下ろさんと――


「パークの危機を救うのだ! んぬぅんぐぐ、ふぬぉっ!」


 レバーを倒しきると、ドゴォと爆音が響いた。水門を開く音。ジャパリオンは口から大量の水を吐き出す。飲み込む。黒い影を丸ごと。

 一瞬でセルリアンの巨体は固まり、脆くも自重で潰れていく。そのすべてが崩れ去った時、沈みゆく太陽が一際明るく輝いた。




 そして、夜の帳が下りると共に、巨神は眠りに就く。安らかな眠りに。

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四神ロボ ジャパリオン 宇佐つき @usajou

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