十一話 床ペタ
俺は倉庫のようになっている押し入れから、クライアントから頼まれていたブツを探して渡しに行く。
「ほら、あったぞ」
「ありがとうございます、じゃあすぐに穴を塞いじゃいますね」
テープを伸ばしながらそう言うみちる。
でも窓際はガラス片や割れたコンクリートのくずなんかがまだ落ちたままだ、片付ける暇も無かったしな。
「その前にその辺り片付けるよ、ちょっと待っていてくれ」
「あ、そうですね。私もお手伝いします」
軍手かせめて手袋でもあればまだ安全なんだろうが、生憎そんなものは持っていないので二人とも素手でやるしかない。
俺は台所に置いてある小さめのゴミ袋を持ってきて目立つ物から片付けることにした、一人暮らしなのでこれ以上大きい袋が無いがまぁ大丈夫だろう。
みちるにも同じ物を渡した時に怪我しないように、と釘は刺しておいたがもっと危険なことをしたんだから要らない世話だったかもしれない。
すぐにある程度集め終わったがそれでも細かく割れたガラス等は取れるはずもない、こっちは布テープを使って注意深くペタペタと床を叩いているとみちるが物珍しそうに手元をみてきた。
「どうかしたか?」
「そうやって綺麗にするんですね、掃除機使うのかと思っていたので」
「うちに掃除機は無いからな、多分だが男の一人暮らしなんてみんな同じだと思うぞ、一応粘着の付いてるカーペットクリーナーならそこの机の近くに置いてあるがそっちは粘着性が少し弱いからな」
ずっと前にガラスのコップを落として割ってしまった経験があるのでこうすることにした、これも一種の生活の知恵と言えなくもない。
俺は布テープをまた少し伸ばして手でちぎってからみちるに渡す。
それを受け取ったみちるは俺と同じように床を叩き始める、すると段々と楽しくなってきたのかリズミカルに床をペタペタし始めた。
ふと下の階の人に物凄く迷惑なんじゃないかと思ったが、今更なにをしても気付かれることが無いのをすぐに思い出したので頭の中からゴミ箱に投げ捨てた。
そして五分くらいか、腕が疲れてきた頃にようやく粗方綺麗になったのでみちるにプロテクト作業とやらを続けてもらうことにした。
「じゃあ頼むな、テープが無くなりそうなら予備があるから言ってくれ」
「大丈夫です、ばっちり直しますから任せて下さい!」
そう言って薄く胸を張るみちる。
俺には見ていることしか出来ないんだがやっぱりテープで直すって……欲を言えばこう、魔法かなにかで一瞬で直すところが見たかったなぁ。
みちるが右に左にテープを貼りながら大きな穴を塞いでいく、それを見ていた俺は少し気になったので質問を投げることにした。
「そこの穴って直せないんじゃなかったのか? ただ穴を隠しているだけってことか?」
「はい、直せませんよ。これは隠しているというよりもプロテクトの壁として認識させる為に応急処置してるだけですね」
みちるがそう言うなら必要なことなんだろう、俺は簡単な返事だけしてまた大人しく見ていることにした。
子供でも通り抜けられないくらいに塞がってきた辺りでみちるが動きを止めてまたなにやらぶつぶつ言っている。
「……これでよし、終わりました」
「これがプロテクト、ねぇ……」
「もう大丈夫です、この部屋にいる間は私の現在位置を検索しても出てこないようになりましたから!」
俺が見てもなにが変わったのか全く分からない。
それどころか虫や鳥なんかは入ってきそうだ、強めの風が吹いたらすぐにでも剥がれそうなのがとても不安を煽るがみちるがこれだけ自信満々に言うんだ、信じておこう。
「これで安心して話が出来ますね」
言葉通り安心したのかみちるは嬉しそうに言う。
俺は冷蔵庫に保管してあるペットボトルのお茶を二人分持ってきてから適当な場所に座る。
もう座っていたみちるにもお茶を渡してなにから聞くか考える。
「そうだな……じゃあずっと聞きたかったんだ。どうして、どうして俺だったんだ?」
抽象的すぎたかもしれない、でも俺にはそう聞くしか無かった。
だがみちるはまるで決まっていたことを話すように言い切ってきた。
「主の因子との適合率が高かったからです」
「そこが分からないんだ、それはどうやって調べて、どうやって決まったんだ」
「主の授かった天啓とアカシックレコード内の情報の二つです、もっと簡単に言ってしまえば魂の形が主に最も近かったからですね」
未来のことも分かるなんて、アカシックレコードなら本当になんでも分かるってことなのか、それともその天啓とやらが凄いのか。
それに魂に形があるなんて話、初めて聞いた。
「その二つは別々に調べたってことでいいんだよな?」
「そうですね」
「じゃあまず天啓の方なんだが、それって元々は神様が言ってたってことで合ってるか?」
「合ってます、まぁ使徒の中では同一視する存在もいますが……でも私は違いました、というよりも主からは『私よりも神を信じなさい』そう教えられていましたから」
「なるほどね、その神様とやらの言葉ってことか。じゃあアカシックレコードの情報ってどういうことなんだ?」
「私が直接打ち込んで検索して調べました、でもその前に主からの天啓でこの二十年くらいの間に適合率の高い人間が現れる、と聞いていたので時期を見ては何度も何度も入力していました」
「そしたら最近になって俺が出てきたと」
「主が消え去られてから、それは本当に……本当に、長い間でした」
みちるはそう言いながら、過去を振り返っているのか瞼を閉じた。
ソフィアハイバネーション~前世で救世主だった俺、JKと暮らすワケ~ そー @sou_si
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ソフィアハイバネーション~前世で救世主だった俺、JKと暮らすワケ~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます