十話 世界の根幹
俺はみちるの話を聞いて、ふと気になったところがあったので聞いてみることにした。
「なぁ、さっきの自分のバックアップっていうのはどこに保存されてるんだ?」
思い返すとみちるは俺にバックアップを頼んでいる、が向こうさんは一人しか出てこなかった、もしかしたら他に仲間がいる可能性は高い。
みちるが言うには使徒は十三人もいる、となると次はねね以外も出てくるんじゃないか、俺たちが昨日よりも更に危険な状況になるんじゃないか。
どうしても悪い方向にばかり考えが向いてしまうのは歳のせいか、なんて老け込んでしまう。
「昨日も喋りましたけどそれは世界の根幹、アカシックレコードと呼ばれるものに保存されているんです、使徒以外の情報もありとあらゆる全てのものが保存されています」
濃い一日の中の薄い記憶を掘り起こしてみると、そんなことを聞いたような気がしないでもない。
世界がどうとか魂がどうとかって話を聞くだけだと、どうにも危ない勧誘のような話に聞こえてしまって笑いだしてしまいそうになる。
自分自身が実際にあんな体験したからこそみちるの言う事を信じられる訳だが、あのまま話を聞いていたら俺は絶対に信じたりしなかっただろうし、不審者として警察とまでは言わないが大家さんには連絡していただろう。
「全ての……? じゃあそのアカシックレコードっていうのは何なんだ?」
「分かりません」
みちるはきっぱりと清々しく言い切ってきた。
俺はてっきり教えてもらえるものだと思っていたせいで一気に肩に重みが掛かる。
「分からないって、なんだよそりゃ……」
「私たち使徒には開示されていない、というより知っている存在がいないんです、でもあることだけは分かるし感じられます」
「かなり無茶苦茶な話だな……」
もういちいち口は挟まないがやっぱり本か何かで出てくるような話だな、としか思わない。
するとみちるは俺の呆れ顔を見たのか焦った様子でフォローを入れてきた。
「で、でも実際にバックアップがされていて身体の復元もされるんですよ」
「今更疑う訳じゃないよ、安心してくれ」
俺はそうみちるに伝えると恥ずかしくなったのかみちるの顔が少し赤くなる。
こういう“年頃”な反応をされると可愛いな、と微笑ましく思うのはやはり……いや、これ以上歳を重ねそうになるのは止めておく。
「それでねねや他の使徒のことはその世界とやらに保存されてるんだろ? じゃあ俺とみちるのはどうなんだ?」
全く頭に入っていなかった勉強を復習するように先生に聞くと、赤くなった顔をすぐに元に戻して講義を進めてくれた。
「まず印嘉さんの魂ですが消滅した、と世界には保存してあります、ですが実際印嘉さんはここに存在していますよね?」
みちるは俺に確認を取るかのように聞いてきたので俺は自分の身体をちらりと見ながら頷く。
魂の方までは分からないが顔も腕も足もちゃんと生えてるいるんだから、いるかいないかで言えば今ここに存在している、と断言出来るだろう。
「でもそれは私の容量の空いている部分を使って印嘉さんの存在を隠してあるからです」
「隠す? そんなことが出来るのか」
「はい、私という存在を世界から見える部分に出しておくことで私しかいませんよってカモフラージュしてる訳です」
つまり世界に対して偽装工作をしていて、それによって俺を秘匿しているということになる。
空いている容量というのはよく分からないが勝手に心の広さとでも思っておこう。
「でもそれは使徒にみちるの情報を調べられたらすぐにバレるんじゃないのか?」
「それはアカシックレコード内にある私の情報を消去してあるので、その当人から開示されない限りは誰も見ることが出来ないので大丈夫ですよ」
パーソナルなコンピューターで言えばパスワード認証式のファイルデータ、といったところか。
段々と理解してきた気がする、とにかく機械として考えていく方がシステム的に分かりやすいのかもしれない。
「じゃあセキュリティはばっちりって感じだな……でもみちるの情報を消してきた、ってそっちは大丈夫なのか?」
みちるはアカシックレコードに保存されていた自分のバックアップを消してきたって言った。
そして俺にバックアップを頼むくらいだし、今みちるは身体を復元出来ない状態にあるんじゃないのだろうか、そう思うと急に心配になってくる。
「大丈夫、とは言えませんけど大丈夫です。もしデータを残しておいて復元したとしても、どうせ使徒たちの目の前に出てきちゃうのでそのまま捕まっちゃいますよ」
「そ、そういうもんなのか?」
みちるが笑いながら軽い口調で言うので俺は肩透かしを食らった気分だ。
まぁ自分が大丈夫だと言ってるんだから大丈夫なのだろう、確認は出来ないし俺はその言葉を信じるしかない。
とりあえずは話がひと段落着いたところで、みちるが何かやるつもりだと言っていたことを思い出した。
「なぁ、今更かもなんだけどさ。ここ着いたら何かやるって言ってなかったか?」
みちるに聞いてみると一気に顔を青く染めていく。
赤くなったり青くなったり案外あっちこっちと忙しいタイプの性格なのかもしれない。
「そそそ、そうでした! 急いでプロテクト張らなきゃでした!」
みちるは完全に忘れていたようで、いきなり立ち上がってばたばた移動しながら周囲の壁に向かって念仏みたいなものを唱えていく。
玄関に行ったかと思ったら炊事場なんかにも何かもごもご言っている、そして最後に大きく口を開けた例の窓に向かっていくと急にこっちを向いた。
「すみません、セロテープとかってありますか?」
「セロテープ? 布テープなら引越しの時に使ったから多分あるかな」
「それで大丈夫です、持ってきて貰ってもいいですか?」
「テープで、って凄く心配なんだが……」
俺は苦虫を噛んだ時のような顔を見せ付けながらも、素直に立ち上がってブツを取りに行くことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます