八話 アニマスフィア

 俺たちは肩を並べて歩きだした。

 今更戻ることは出来ない、ただ巻き込まれただけという感覚が未だに拭えないがこれからはみちるの話しをしっかりと受け止めようと俺は決めた。


「どうせすぐ着くけどさ、話し……聞かせてくれよ」

「はい、何処から話せばいいのか分かりませんが……隠すことも特にないので、長くなりますよ」


 そう前置きをするとみちるは昔を思い出しているのか、懐かしそうな顔をしながら喋りだす。


「私たち使徒は主に仕えていました、主は私たちと同じ立場であろうとしていてくれましたが私たち使徒はそれを拒み、主に仕えることにしたのです」


 “シト”と“シュ”これは前にも出てきた単語だ、みちるの服装を勝手に修道服のような物と思って見ているが、それで合っているのなら結びつくのはキリスト教か……。

 そういう話題に詳しい訳でもない俺は他に思い付く物がないとも言える、何にせよ神様とやらを信仰していると仮定すると漢字に直すとおそらくシトは使徒、シュは主に変換出来るだろうか……まぁ、そう遠くはないだろう。


「なぁ、いきなり話しを切って悪いがその使徒と主ってのは一体なんなんだ」

「使徒というのは十三の人の子の集まりです、主は私たちが崇める神の子になりますね」


 やはりこの話しを聞くとさっきの仮定は的を得てそうだ、俺たちが赤信号に足を止められながらもみちるは話しを進めていく。


「そして主は私たちをその智慧によりお救いくださいました。恩義を感じた私たちは主へと仕えることを決めて、主からの啓示を受けながら色んな村を回っていました」

「回るって言ってもそんなに出来ることもないんじゃないのか? 十三人の中に医者がいたとしても最新の機械もないだろうし精々食事と病気の治療とかくらいだろう」


 俺はこの前提が既に間違っていることを分かっていなかった、みちるは青に変わった信号を渡りながらこちらへと向けた顔を左右に振る。


「いいえ、私たち使徒には“アニマスフィア”がありました。それは主が私たちへと施してくれた、人を救う力でした」

「アニマスフィア?」


 知らない単語がまた出てきた、スフィアっていうと……球体か?

 俺が知っている球体と言えば、ねねとの戦いの時に見た玉しかないが……他にもあるのだろうか。

 そう考えながら聞き返すとみちるは続けてくれた。


「はい、アニマは生命や魂という意味でスフィアは球体。つまり“命の玉”ということになりますね」

「それって昨日の戦いのあれで合ってる?」


 俺は昨日のことを思い出して、隣を歩いているみちるに確認をする。


「そうです、私とねねの出していた玉……あれがアニマスフィアです」

「二人の出した玉の見た目が違ってたが、ただ見た目が違うだけなのか? それとも性能も違ってたりするのか?」

「違いますね、主から頂いたスフィアにはその人によって出来ることが違っていますし、そのスフィアとの適合率が高い低いもあります」


 ということは適合率が高い方が、より強いだろうってことになるのは考えなくても分かる。

 じゃあみちるとねねはどうだったのか。


「ねねは適合率が高い方です、私は……普通です。というより……どちらかと言えば低い方に、なりますね」


 みちるは自分から教えてくれたが、自分の事を言う時に少し、悲しそうな顔をしていた。


「あ、ほら。もうお家着いちゃいましたよ」


 話しを逸らすようにみちるは俺の手を引っ張りながら見えてきたマンションの入り口へと走り出す。


「お、おい!いきなり走るなよ!」


 俺は少し足をもつれさせながらもなんとか付いていく。

 そしてセキュリティレベルが高くなさそうなマンションの入り口にある自動ドアを反応させて二人で並んだまま通っていく。

 そのまま入ってすぐ目の前にある五人ぐらいは乗れそうな広さのエレベーターに乗り込み、自分の部屋のある番号を光らせる。

 このマンションは高層とまでは言えないが、両手の指を使わないと数えられない程度には高さがある。

 俺の部屋は丁度その中間辺りの位置で、階段で上るには少し苦労する。


 「それで、適合率とやらは分かったけど他人の能力とやらは分かるのか?」


 俺は昇っていくエレベーターの中で続きを聞いていく。


「一応は、分かります。でも全部知ってる訳じゃなくてどういう能力なのかぐらいしか分からないです。例えばねねは雷のスフィアなんですけど、それで“電気が発生する”程度しか知らないんです」

「じゃあその電気がどれぐらいの電圧になるのか、なんて話しは出来ないってことか」


 すぐに目的の階層に着いて、エレベーターから音が鳴ってドアが開いた。

 俺はエレベーターから出て自分の部屋の方へと向かいながら、ズボンの後ろ側にあるポケットから鍵を取り出しておく。


「はい、だからねねがあんな攻撃をしてくるとは分からなかったですし、印嘉さんも手伝うって言ってくれたのでもしものことを考えて印嘉さんにバックアップをお願いしたんです。」

「あれでどれだけ手伝えたのか自分じゃ全然分からなかったけど、まぁ助けられたなら良かったよ。ほんと」


 俺はみちるに返事をしながら家の鍵を開ける……が、鍵を回しても音がしない。

 鍵が開いたままになっている……?

 昨日家を出る時に閉めた筈なので誰かが鍵を開けて入ったということだ、入れるとしても管理人さんぐらいしかいないだろう。とするとあの壁を見られている筈だしみちるとの話しは一旦置いておくとして一先ず管理人さんと話しをするつもりでドアを開ける。

 だが部屋には人のいる気配がなく、昨日の戦闘で割れたガラス窓もそのままだった。

 昨日は片付けをしている暇がなかったとは言え、このままじゃあ歩き回るのも危険だし見た目が非常によろしくないように感じた。

 部屋の中を見せるような親しい人間がいないからあまり関係ない訳なのだが……。

 それでも片付けぐらいはしようと思いながら、俺は玄関で靴を脱いでいると後ろから声が掛かる。

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