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初めて出会った時、わたしは絶対この子と友達になりたいと思った。
引っ込み思案ではあったけど、その中に確かな温かさを持っていることがわかったから。
毎日のように言葉を交わし、遊び、同じ時間を過ごし――そしていつしか別れの日を迎えた。
子どもにはどうしようもないことだったし、だから『嫌だ』という言葉を飲み込んだ。心の底から寂しかったけど、そんなことを言えば困らせてしまうから。
相手も同じ気持ちだったようで、別れの日は下手くそな笑顔で「またね」と言っていた。涙声は隠せていなかったけれど。
今思えばこれが初めて覚えた喪失感だったのかもしれない。
そのあと、何年かして。
再会したとき、わたしは一番大事なものを失っていて。何もかもを拒絶していた。
そんなわたしにあの子はいつだって笑顔を向けてくれていた。なのにわたしはそれすら拒んでいた。
あの一年をどうにかして取り戻せたら――そんなことを何度も考えた。
彼女のことを受け入れられていればと、そう思うと眠れなくなるくらいには後悔していた。
でも過ぎたことはどうしようもないから……こんなわたしを赦してくれる彼女を大切にしようと思った。
おばあちゃんになっても一緒にいられたらな、などと夢想していた。こんなこと、恥ずかしくて本人にはついぞ伝えられなかったが。
いつまでも仲良くしてほしい。
ずっとそばにいてほしい。
それくらい彼女のことが大切で、大好きだった。
それなのに、当の彼女が選択を迫る。
光空を殺すか、それともみどりやアカネ共々全滅するか。
そんな二択を押し付けてくる。
どっちがより大切か、なんて決められるわけがない。
どちらも大切。全部大事。
それなのに選べと言う。
もう頭が擦り切れそうだった。
『わたし』という意識がどんどん削れて風化していくような錯覚を覚える。
ぐちゃぐちゃで、何も考えられない。
考えたくない。
掲げた右手の上で渦巻く火球が重く感じる。
神谷の眼下には、
「……もう私も沙月も限界が近いよね。そろそろ決着にしようよ」
そう言うと強烈な陽光を放つ巨大な槍を作り出し構える。
神谷の頭は、この戦いを一刻も早く終わらせたいという想いで満たされていた。
そのためには光空を、大切な幼馴染を倒さなければいけない。
「…………」
火球はみるみる膨張し、熱波を周囲へと波及させていく。
これまで吸収してきたプラウは、時間がたつにつれ神谷の身体に馴染み、同化し、一部となっているようだった。
今や手足の如く、自由自在にその力を振るう。
「らああああッ!」
神谷は咆哮とともに巨大火球を振りかぶると――光空へ向かって全力で投げつけた。
まさに火炎の惑星。km単位の範囲を簡単に焦土と化す灼熱がただ一人に向かって落ちていく。
「――――負けない」
いつしか二人の力関係は完全に逆転していた。
翻弄する
最後のプラウをも圧倒するほどの力が、神谷には備わっていた。そしてそのトリガーを引いたのは他ならぬ
それでも、最後まで全力で戦う。
決意をこめた槍を携え、火球に向かって跳躍する。
隕石のようなプレッシャーに、しかし恐れることなく槍をぶつける。
「う、ぐう、ああああああっ!」
光の槍で火球を貫いていくとともに炎が全身を焼く。
これはきっと神谷の怒りや悲しみそのものなのだと思う。
彼女の感情が炎となりこの身を燃やし尽くそうとしているのだと。
だがこちらも簡単には負けられない。
手を抜くことは許されない。
「沙月、沙月、沙月、沙月――――!」
いつまでも続くのではないかと思われた炎が、ついに貫かれ――その先に。
神谷沙月の拳に、これまで見たこともないような量の白光が収束していくのを見た。
「沙月…………」
輝きが強すぎて表情は読み取れない。
しかし辛うじて肩が震えていることだけがわかった。
未だ迷っているのだろう。
ならばそれを断つまで。
最大の一撃をぶつけ、それで終わりにする。
力を取り戻した太陽の翼をエネルギーに変換。陽光の槍へと還元する。
神谷のそれに劣らないほどの輝きを発するようになった槍を改めて構える。
青空の中、沈黙が横切る。
様々な思い出が脳裏をよぎり――それを振り切るように。
「陽菜あああアアアアッ!」
「沙月いいいいっ!」
同時に動く。
片方は光の拳。
もう片方は光の槍。
その二つが、すべてを輝きで支配しながら交差し、そして。
何もかもが光に飲み込まれた。
爆発。閃光。轟音――全ての感覚を丸ごと染め上げるほどのそれらがしばらく続き、少しずつ収まっていく。
全てが終わり、最初に戻ってきた感触は温かさだった。
「はあっ、はあっ、はあっ」
自分の呼吸音とともに少しずつ視界が戻ってくる。
どこまでも広がる青空、そして。
目の前に光空がいた。
「ひ、な……」
彼女は動かない。俯いた状態で止まっている。
そこで神谷は気づく。右腕が何か生暖かい。
くち、という柔らかい音がした。
「あ、」
神谷の右拳は、光空の胸を貫いていた。
その穴から湧き出した真っ赤な血が右腕を濡らしていく。柔らかく温かい肉の感触が、これでもかと現実感を突きつけてきた。
彼女の槍を砕いた拳がそのまま光空にとどめを刺したのだ。
「ひっ…………」
慌てて腕を引き抜くと、ぐちゃ、という生々しい音とともに光空は倒れる。
彼女の血がべっとりと右腕を濡らしているのを凝視し、そして現状を理解する。
つまり、自分が光空陽菜を殺してしまったのだと。
「――――」
最後のプラウは倒された。
神谷沙月が何より求めた結末は、何より望まない形で訪れた。
全てが終わる。
終わりが始まる。
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