第17話 戦場アマート
非常線を避け近道をかい潜って来た甲斐がありアマートにはすぐに着いた。店が見え始めると姿勢を低くし、スピードを緩めず入口をめがけた。見張りのチンピラが二人いる。名釜会構成員かどうかは確かめる必要はなく、彼らは慌てて拳銃を抜き発砲してきた。
「効かねえ、よッ!」
防弾ガラスは弾をものともせず小さな弾痕を作るだけで、そのまま二人を轢き飛ばし店に突入した。店内では突然現れた車に騒然とし、同士撃ちも発生する有様。智宗の目は正確に敵を捉え、そこに眞衣子がいないことを確認した。弾薬ベストを羽織ると括り付けられていた
「ここの女、坂江眞衣子がさっき来ただろ。どこに隠した」
「さ、さかえまいこって、あ、あ、イコマのこと、か?」
「安っぽい源氏名で呼ぶな。どこだよ」
「し、知らん!そうだ、事務室通ってどっか行った、あの扉だ。助けてくれ!」
「ありがとよ!」
既に鬼と化した智宗、慈悲はなく、心ない礼を言いながら引鉄を絞った。三点バーストのままでモロに喰らい眉の上から汚く脳味噌を撒き散らした。
「手ェ挙げろ!」
死体を蹴って扉に手をかけると背後から警告、振り返ると若いチンピラがいて、古びたリボルバーを握り照準線も定まらない。
「帰んなよ、殺すぞ」
拳銃を向けたままチンピラに近づき腕を捻った。彼はされるがままに銃を落とし、智宗は拾って弾を抜くと逆手に持ち替え殴った。彼はカエルが潰されるような声で派手に転び、死への怯えで頭を抱えた。智宗はフロアに通じる扉を閉め鍵をかけた。
「後で仲間が来る。大人しくしとれよ」
「は、はい・・・」
「ほんとは殺してもいいんだけど。あっ」
栗本の拳銃がやたら軽いことに気づき、見るとスライドが開いたまま、弾切れの証拠だった。知らずとハッタリかましていたと思うとなぜか不快感が込み上げ、チンピラを蹴り上げ眞衣子が出ていったという扉を開けた。
扉はアマートの裏営業ソープに通じる物で、この前智宗と若松が揃ってくぐった。眞衣子はどこかの部屋に閉じ込められているかもしれなかった。幸い追手は無く一つ一つ部屋を確かめ回っていく。三つ目の部屋で人気を感じた。耳をそばだてると複数人の押し殺した息遣いが感じられた。吊るす小銃を取って銃床でドアノブを壊すと男と女の驚く声が聞こえた。小銃の安全を外し部屋に躍り込むと眞衣子の姿はなく、男一人と女が二人、M16A1とちゃちな拳銃が目に入った。三人には見覚えがあり、店長とモモコ、それにアイネだった。
「降伏します!撃たないで!」
店長がまず手を挙げ銃を投げ出した。拳銃を持つモモコも倣い、アイネは彼女にしがみついていた。智宗は投げ出された銃を取り上げ弾倉を外し、小銃はアッパーレシーバーを開けボルトを外した。拳銃も素早く分解して外した銃身を空いたマグポーチに入れ無力化する。まじまじと智宗を見つめるモモコは、この特強らしき人物が以前とった客の東名工業社員であることに気づき指を差した。
「あっ、あなた、東名の梶田さん!」
「手は挙げたまま。アイネだっけ、あんたも」
「は、はい」
「わかっちゃいると思うが、俺は東名社員なんてエリートじゃない。特強のはしくれだ。あんたらと名釜の関係は」
「私は雇われ店長です!ほんとなんです、ヤクザと関係を持ちたくなかったのに、無理やり名釜会の手下にさせられたんです」
「本当よ梶田さん。私何年も前からここにいるけど、売り上げの良いキャバクラってだけで目をつけられたの。ソープだって、名釜会が借金でっち上げて・・・」
「梶田は偽名だよ、まあいいや。その銃は」
「これは、特強が来たら時間稼ぎするようにって」
「私は、ホールで騒ぎが起きた時これを待たされて、アイネと店長と隠れるように言われたの」
「名釜じゃないなら見逃してやる。ここにいて、後で特強か警察が来たらそいつらに従え。銃刀法違反、それから店長は違法ソープ営業でしょっ引かれるかもしれんが、まあ言い訳を考えとけ。俺に撃たなくてよかったな。罪が重くなる」
「わ、わかりました」
「それで、俺はマーちゃんを探してる。モモコが前、終わった後教えてくれた売上の良い女だ」
「あなたが知り合いと似てるって言った、イコマさんかな」
「さっきの奴もイコマって言ったな。きっとその女だ」
「本名はさかえまいこだって、この店に来た時言ってた」
「どこに行った⁉︎」
「会長、名倉闘也のとこに行くって!抵抗せず正直に言うから銃向けないでよ!」
思わず小銃を向けた智宗は横に置き溜息を吐いた。モモコは媚び売るつもりなのか、既に下げた手でベッド上の煙草を取り智宗に渡した。彼は一服すると頭をかき上目遣いでモモコを見た。
「名倉の居場所は」
「車の手配をするとかなんとかで、裏の倉庫にいると思うわ。おそらくイコマさんもそこに。彼女変なこと言ってた、これが最後だかなんだとかって」
「畜生、マーちゃん。裏の倉庫は」
「ここを左に出て突き当たりを右に行ったところです」
「灰皿」
灰皿はアイネが差し出した。ほとんど喫っていない煙草を灰皿に起き彼らの銃も一緒に持って立ち上がった。
「あなた、会長をどうする気?」
「殺しに行く。決まってんだろ」
「それは危ないです!大男のボディーガードもいますし」
「あいつを退治したらあんたらも安泰だろうが」
「それは、そうですが」
「あとアイネ、本当は何歳だ。お前が相手した若松、あの時は持田か。心配してたぜ」
「わたしは、ほんとうに17です」
「あいつ、罪悪感が酷いって言ってた。家に帰れ。モモコは」
「私は27よ」
「なんだ歳上かよ」
吐き捨てるとそこを出て、向かいの部屋に店長とモモコの銃を投げ捨てた。やっと探しに来た追手の声が聞こえ、開いたままの扉越しに、智宗が追手に向かって小銃を掃射していた。そしてそのまま左の廊下に消えた。モモコは飛んできた打殻を摘み上げ熱さに放り投げた。智宗がいなくなると急に人心地がつき、店長とモモコは煙草をくわえ、勧められたアイネは首を振り断った。モモコは冷めた打殻を再び手に取り吐く煙で真鍮色が曇る。
「イコマさんって梶田さんの奥さんだったのかな」
「しかし、あの人の娘は名倉との子というじゃないか。一度だけ見かけたことがあるが」
「わたし、解放されるんでしょうか」
「多分ね。アイネは名釜に引っ掛けられて散々な思いしたわね」
「持田さん、優しかったけど、本当は若松さんっていうんだ」
アイネは、お調子者そうに見えてセックスはやたらと優しかった若松を思い出し、彼が罪悪感を持ってくれたことがなんとなく嬉しく頬を染めた。
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