第十七章 戦後の前田家【四女・恵美子】


 四女 恵美子


 明治39年生まれの父は、何事においても、苦しいとか、大変だとか、愚痴を言いませんでした。父が芯の強さを持つまでには、幼い少年時代から苦しい経験をたくさん積み重ねたからだと思います。17才で父親に死なれ、母親と幼い妹たちと祖母を抱えて、言葉に出来ない苦しいことがたくさんあったという話です。しかしくよくよしてもいけない、自分のことは自分でしなければならない。人をあてにしてはいけないということを肌で感じ、よそ目には頑固とか強情とかいうふうにうつったと思うのです。

 そんな父も子どもが大好きでした。よく私たちが幼い頃、夜寝る時、昔話をしてくれました。今でこそ、テレビやたくさんのオモチャなどが氾濫していますが、私たちが小さい頃は、いつもの昔話をしてくれることがとても楽しみで、「今日はなんの話をしてくれるの」「昨日の続きをして」などとせがんだものでした。7人きょうだいの一番下の私には、怖い父親よりやさしかった父の姿の方がよく思い出されます。

 晩年の父は、孫の面倒もよく見てくれました。姉の子どもが小さい頃は、一緒に動物園等に行ってはとても嬉しそうにしていました。

 そんな父にもっともっと長生きしてもらいたかった。

 そしてまた、私の小さい時のように、私の子どもにも、昔話やおじいちゃんでなくては分からないことを沢山してやってほしかった、とつくづく思います。







   








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