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ブリーフィングルームのドアを開けたところで、ちょうど始業のチャイムが鳴った。慌てて席に座る。それは運よく悠太の隣で、軽く手を振る彼に小さく振り返す。
「おはようございます、悠太くん」
「おっはよー、司っち。って、食堂ぶりっすけどね」
快活に笑われ、肩から少し力が抜けた。辺りを見渡し、心持ちひそめた声で司は身を乗り出した。
「すみません、授業はどうやって行うんですか?」
「遠坂先輩から聞いてないっすか?」
大仰に目を丸くされ、小さく頷く。すると、何故か嬉しそうに笑いながら悠太は司の席に備え付けられたタブレット端末を叩いた。悠太の指が触れた瞬間、タブレットの画面が切り替わる。曜日の隣に教科名。その下にタイムスケジュール。教科の脇には何か分からない数字と、『担当』と書かれた人物名が連なっていた。
「……これは?」
「今日の時間割っす」
言われて、もう一度画面を見る。隣から悠太が画面を二度叩くと、なにやら問題集のような画面に切り替わった。
「これが、今日解く問題。上限は無いっす。一教科を十ページ解くやつとかいるっすよ。分からないなら誰かに聞くっていうのもOKっす。提出は授業の最後にこのボタンをタッチすると出来るっすよ。
司っちは入ってきたばっかっすから、最初のページっすね」
どうやら一時間目は数学らしい。机を弄ると、脇にタッチペンが内蔵されていた。それで答えを書け、ということなのだろうか。タッチペンを持って悠太を見ると、笑って頷かれた。やはり、これで答えを書けと言うことのようだ。
「悠太くんは、授業中ですが喋っていて大丈夫なんですか?」
話をさせている本人が言うのも心苦しかったが、問わずにはいられなかった。すると、悠太は安心させるように笑ってくれた。
「授業中は喋っても大丈夫なんっすよ。まぁ、あんま喋りすぎるとチームメンバーから叱られるとこもあるみたいっすけど……」
言葉を切り、周りを見渡す。つられて周りを見渡すと、窓際の智治は頬杖をつきながら居眠りをしており、司の隣の涼は眉間に皺を寄せながらひたすらに画面に書き込みを続けている。志紀はタブレット端末にどうやら地図を出しているようで、なにやら思案気に考え込んでいた。
見事に全員バラバラだ。まともに授業を受けているのはどうやら涼一人だけらしい。
視線を悠太に戻すと、彼は困ったように苦笑していた。
「ウチの隊は、その、個人主義っすから」
「……そうですか」
やはり、先日思ったことは間違いではないようだ。
バラバラの人が集まった、バラバラの隊。誰も互いに心を通わせようとはしていない。ただ淡々と、目の前の事象を処理していくのだろう、小隊。
それがどこかこの時代を示唆しているようで、司は漠然とした不安に襲われた。
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