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「ありがとうございました」
礼をして、教科室のドアを閉める。
「よっ、と」
教科書の束と言うのは意外と重い。専門書などは分厚いからなおさらだ。何度か立ち止まり、持ち替えなければならない。新品の教科書を抱え廊下を歩いていると、向こうから一人の少年が同じように教科書を抱えて歩いてきた。同じフロアの、別の隊の人だろう。廊下の端に寄り、軽く会釈をしながら通り過ぎようとした。
すると
「あれ、もしかしてアンタ新人さん?」
親しみを込めた声で、そう呼び止められた。見覚えがない少年からの唐突な言葉に、思わず目を丸くする。
「あれ、違った?」
「いえ、合ってます。昨日こちらに入学しました」
「だよな」と笑って、少年は教科書を片手に持ち替え、右手を差し出してきた。
「初めまして。オレ、クルツ隊の清水谷。清水谷 和也。昨日から一年の中で話題だったんだ。なんでも、ちょー天才が入学したって」
少年──清水谷の言葉に、ゆるく首を横に振る。あまりにも大袈裟に言いすぎだった。
司が否定すると、清水谷は「あれ?」と首を傾げる。
「筆記テスト満点って聞いたけど」
「それは……」
否定できない言葉に口ごもる。
「実技も高得点って」
「いえ、それは」
どうしてそんなに早く話が浸透しているのか分からず、戸惑ってしまう。しかし、自分を『天才』と呼称されるのがどうにも慣れなく、視線を彷徨わせる。けれど、うまい否定の仕方が分からない。戸惑いのまま、おずおずと差し出された右手を握り返した。
「ただの、一年生、です」
「ベクター小隊に配属って時点で『ただの』じゃないけどな。
まぁ、これからは同じ釜の飯を食う仲間だ、よろしくな」
快活に笑われ、司も笑みを返す。
「こちらこそ」
「おっと、俺今日スクランブル要員なんだった。じゃあな、また後で!」
「ええ、また後で」
軽く駆け出しながら手を振る清水谷に手を振り返して、司は笑う。悠太とはまた違ったタイプの明るさだった。悠太が春の陽だまりのような明るさだとしたら、彼はそう、夏の青空のような爽やかさだ。アルゴノーツは普通の学生たちの集まりだと志紀が言っていた。普通の、どこにでもいる子供たち。なるほど、確かにそうだ。涼や智治が冷静すぎて、アルゴノーツ全体がそういう人間の集まりなのかと勘違いしてしまった。けれど、清水谷のように明るい少年だってたくさんいるのだろう。
「よいしょっ、と」
教科書を持ち直してブリーフィングルームに向かう。授業をどうなって行うのか、志紀は詳しく教えてはくれなかった。ただ、ブリーフィングルームに集まるようにとだけ告げられ、それ以外は何も知らない。自分のような転入生が多いのであれば、授業の進行具合だって変わるはずだ。頻繁に転入生を招き入れているようだが、どう折り合いをつけているのだろう。
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