-8-
広いグラウンドを抜け、正門を出る。
その時、ふと悠太の先ほどの言葉を反芻した。
初任給を待ってくれると言う悠太の言葉を。
司の初陣がいつになるのか分からないのに、悠太は『初任給』を待ってくれると言う。
彼の言葉は、司に『未来』をくれるものだ。
右も左も分からない。過去も素性も分からない自分に、『未来』をくれるものだ。
正直、不安だった。
タイムスリップなんて信じられなかったし、天才学者など意味が分からなかったし、自分に対する不信感は限りなかった。
明日も分からぬ自分に、悠太は『未来』をくれた。
「初任給」
「ん?」
首を傾げる悠太に、噛み締めるように司は言葉を返す。
「入ったら、必ずご馳走します」
唐突な言葉に一瞬目を丸くして、悠太はほころぶように笑った。
「楽しみにしてるっすよ」
笑いながらそう言うが、きっとその時になったら彼は「何のことっすか?」と言うのだろう。
けれど、必ず
必ずこの約束は守ろうと、心に決めた。
「商店街はこっちっす」
促されるまましばらく歩くと、左手方向に大きな公園が見えてきた。今は平日の昼間ということもあるからか、ひと気はまばらだ。いや、もしかしたら、校舎を挟んで反対側ではあるが滑走路が近いからかもしれない。それでも、元気な子供の遊ぶ声が聞こえている。どこにでもあるような、平和な風景だった。
その向こう
公園のはずれに、ひときわ大きな木が一本あるのが見えた。
天に向かって大きく枝を伸ばすその木は、若々しい葉が今まさに実りをつけている頃のようだ。
司の視線に気付いた悠太は、先にある木を見て頷いた。
「あれ、桜の木っすよ。でかいっしょ。毎年ゴールデンウイークの頃になるとすげー綺麗に咲くんっすよ。俺も今年花見に参加したんっす。女の子と一緒に」
「それは合コンと言うのでは?」
「そうとも言うっすね」
声を上げて笑う悠太に、司は苦笑を浮かべる。先日、そして先ほど志紀と話していた内容から考えるに、彼は女生徒と遊ぶのがよほど好きらしい。これだけ女生徒と遊んでいるなら、一人くらい特別な関係になっているだろうに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます