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「では司令官、失礼致します」


 明るい声の志紀に反して、司令官の顔は暗い。


「……神宮寺隊員。入学、おめでとうございます」


 それでも彼女は祝辞を絞り出す。素直に受け止めきれないのは、彼女の暗い声のせいか、それとも自分の中の不安感なのか。司には分からない。

 分からないことだらけだ。と、おかしくなってしまった。

 天才学者だかなんだか知らないが、おそらく人違いだ。だって、自分はこんなにも何も知らない。何も分からない。それでどこが『天才』だと言うのだろう。司令官の思い違いに違いない。


「では、明日から授業に参加してもらいます。時間割については遠坂隊員から聞くように」

「分かりました」


 一礼して、司令室を後にする。指令室の前はひと気を感じないが、そこここから生徒たちの話すざわめきが聞こえてきた。授業が終わったと志紀が言った。今はちょうど放課後なのだろう。こんなご時世だが、授業が終わった生徒たちはどこに行くのだろうか。『放課後』という単語に知識は沈黙している。すなわち、自分は『放課後』を知らない。この歳で学校に行っていないということはないだろう。ということは、自分は引きこもりの不登校か何かだったのだろうか。


「みなさんは、授業が終わったらどうしているんですか?」


 志紀に問いかけると、ブリーフィングルームに行きかけていた足を止め、彼は不思議そうに振り返った。


「何だい? いきなり」

「いえ、先日聞いたお話では大分治安に不安があると思うのです。それにここは全寮制と伺いました。そうなると、みなさん放課後をどう過ごされているのか気になりまして」


「ああ、なんだ」と志紀は笑う。


「昔と大して変わらないよ。街に出たり、食堂で喋ったり、部活をしたり。色々さ」


 昔……と呼ばれているのがどれほど前なのかは分からなかった。ただ一つ言えるのは、それを自分は知らないという事実だけだ。


「ちなみに、スクランブル要員……まあ、有事の際の戦闘要員だね。そこは当番制に割り振られていて、当番になった隊のメンバーはブリーフィングルームに缶詰なんだ。仕方ないとはいえ、みなあまりやりたがらないね。そこはまだまだ子供らしい部分が残ってると思うよ」

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