Act.02

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「……合格です」


 苦々しい司令官の言葉を、司はどこか他人事のように聞いていた。


「やったじゃないか、神宮寺くん」


 我がことのように喜んでくれている志紀の言葉も、何故か遠い。どうしてだろうと不思議に思いはするけれど、記憶のない自分には結局それが何なのか分からなかった。


「筆記テストは満点。実技テストも高得点をマークしています」

「実技テストも、ですか」


 思わぬ結果に、さすがに目を丸くした。筆記テストは分かるが、実技テストには少々自信がなかったからだ。

 そう、筆記テストは問題なかったのだ。歴史こそ二〇二六年で止まっていたけれど、それも志紀から借りた本を読めば把握できた。エウロパについても、同じように志紀が貸してくれた教科書を読んでいたら不思議と飲み込めた。

 いや、エウロパについてだけではない。国語も、数学も、何もかも。一度読んだらそれはすっと頭に入ってきて、容易く覚えることが出来た。

 つくづく不気味な頭だ。苦々しくそう思った。

 その分、実技テストは駄目だろうと、そう思っていた。どうせ勉強馬鹿か何かで、運動は駄目に違いない。と、思っていたのだが、司令官の話ではどうやらそうでもなさそうだ。

 何なのだろう、自分は。

 何なのだろう。

 入学テストに受かった喜びよりも、自分に対する不信感が勝り素直に喜ぶことが出来ない。


「やはり、貴方で間違いないようですね」


 司令官の小さな呟きに、首を傾げる。


「何がですか?」


 聞こえたと思わなかったのか、彼女は少し驚いた顔をした後、動揺を隠すように眼鏡をあげた。


「聞いた話ですが」


 そうひと言置いて


「乗鞍岳軍事兵器開発機構――通称『ゼロ研』には、ある天才学者が在籍していたそうです。その学者は、齢十にしてマサチューセッツ工科大学の博士号を取得。ゼロ研の中でも相当上の地位にいたとか。軍事機密により、ついぞその名は明かされませんでしたが」


 司令官の言葉に、ゾッとする。

 何だそれは。

 何なのだそれは。

 研究助手ではなく、研究員? そんな馬鹿な。そんなはずはない。

 ない、のだが、否定するだけの要素を司は持っていなかった。

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