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志紀が小さな声で、眼鏡の少年は深山 涼、茶髪の少年は
志紀と二人教壇に立つと、それぞれ温度の違う三対の目が、少年に向く。
「彼は、俺がパトロール中に保護した民間人だ」
志紀が切り出すと、涼が静かに手を挙げる。
「民間人なら、シェルターに帰すべきでは?」
「話は最後まで聞いてくれ」
涼の言葉を否定し、彼は続ける。
「少年、すまないが君のことは便宜上『神宮寺 司』くんと呼ばせてもらうよ。」
その言葉に少し迷い、少年――司は小さく頷いた。いかんせん、他に名前を示すものがない。いくら許容できなくとも、その名を飲み込むしかない。
「便宜上ってなんっすか~?」
悠太の疑問に、志紀は少し迷ったようだった。一瞬だけ司を見、悠太に視線を向ける。
「おそらく、この子は記憶に障害を負っている」
彼の言葉に、何より司が一番驚いた。思わず小さな声で「何で」と呟く。志紀はその呟きが聞こえたのが、何故かつらそうな顔で司を見つめた。
「神宮寺くん。君は今が、西暦何年が言えるかい?」
志紀の質問の意味が分からない。西暦? そんなものは誰だって分かるだろう。
「二〇二六年です」
司の返事に、三人が目を剝く。珍しく揃った動きだなと思うのと同時に、それが何故そんなに驚く内容なのか分からず目を瞬かせる。
志紀だけは、「やはりか」とさらにつらそうに眉を寄せていた。
「え、二〇二六年って、あんたマジで言ってるっすか?」
驚いたような悠太の言葉に戸惑う。マジもなにも、知識はそう言っている。知識以外に頼るもののない司には、今が西暦二〇二六年と答えるしかない。
けれど
「神宮寺くん。今は、西暦二〇六八年なんだ」
志紀の言葉に、司の時が止まった。
彼は今、何と言った?
西暦二〇六八年?
まさか
だって
そんなことがあるわけがない。
司の顔が余程悲痛だったのだろう。志紀は静かに目を伏せた。悠太と智治は胡乱気な、正気を疑うような目で見てくる。
ただ一人、涼だけが、涼やかな表情を崩さなかった。
「……ここから先は、涼、お前の方が得意だろう」
隊長の言葉に、小さくため息をついてから、涼は自席のタブレット端末を弄る。すると、教の後ろにある電子版に世界地図が浮かび上がった。
白い点は、建物の明かりだろう。それくらい、司だって知っている。けれど、それが大きく欠けている。
アメリカは、国土が全体の四分の一程。中国と日本、ロシアはおよそ三分の一。南米に至っては半分も明かりが消えている。ヨーロッパ諸国では明かりがほとんどなかった。
明かりがないということは、文明がそこだけ途絶えたということだ。つまりは、そこは滅んでいると言ってもおかしくはない。
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