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答えを求めて、辺りを見渡す。
けれど、誰もいない。
いや、それどころか、車一台通っていない。
自分は『自己』を意識し始めてから随分この場所にいるけれど、その間、車の排気音を、一度たりとも聞かなかった。
おかしい。
これは、明らかにおかしい。
ここはまるで――まるで、死んだ街だ。
後ろからは波の音が聞こえる。木々のさざめく音がする。世界は確かに生きている。
それなのに、どうしてここだけ死んでいるのだろうか。
右を見る。
左を見る。
どこまでも続く道路。
どこまでも続く住宅。
どこへ向かえばいいのかさえ分からず、ただ呆然と立ち尽くす。
突風が吹いた。
次いで、聞こえた轟音。
咄嗟に顔を庇い、風をやりすごすと、視界の外に一機の戦闘機が着陸するのが見えた。
ダークブルーグレーのカラーリング。尾翼は二。機首はシルバー。ガトリング砲が付いているはずの部分には何か違う武器が付けられている。ミサイルも搭載してないようだ。ただの、非戦闘用の機体なのだろうか。
それにしても、見たこともない戦闘機だ……いや、待て。どこかで見たことがある。現物ではないが、似たようなものをどこかで見たことがある。知識として残っている。
そう、戯れにつけた、《××××》というロボットの設計図が、知識に刻まれていた。何だったか。名前の部分だけが削げ落とされたように出てこない。
でも、何故。何のために。どうしてこんな知識が出てくる。
彼は、初めて怖いと思った。
他ならない、自分を、怖いと思った。
何なんだ、この知識は、
何なんだ、この記録は、
おかしい。絶対におかしい。
普通ならば、見ただけで戦闘機かどうかなど分からないはずだ。一般の人間ならば、まず見る機会が少ないはずなのだから。
群馬にあると『知識が言った』軍事兵器開発機構。
見たことのない戦闘機だと即時に『知識が言った』戦闘機。
この、自分の頭は、絶対に、おかしい。
思わず両手で髪を掴む。
そうでもしないと、叫びだしてしまいそうだった。
混乱の極致に陥っている少年の、数メートル先で止まった機体から、一人のパイロットが降りてきた。梯子も使わず、膝の動きだけで着地の衝撃を流す。片手にはちゃんと縄梯子の端を持っているのだから、これがおそらくあのパイロットの通常なのだろう。
機体から自分の方へ走ってきながら、パイロットはフルヘルメットを脱いで、一度軽く頭を振った。ヘルメットのせいで張り付いていた髪がサラリとほどける。
そのパイロットは、少年だった。
十代半ば、どれだけ見繕って二十歳前の、少年だった。
パイロットスーツに身を包み、けれど、それに違和感が無いのが不思議なほど、どこにでもいそうな普通の……いや、顔立ちは非常に良い、少年。
「君、どうしてここに? 今日は注意報が出てるから、この辺一帯の住人はシェルターに入るよう、朝、報道されたと聞いているのだけれど」
注意報――それは分かる。暴風雨などの際に出る勧告のことだ。
シェルター――これも分かる。有事の際の避難所だ。
しかし、この二つが結びつかない。
いや、それでいい。首を振る。
もう、この頭から出る情報など欲しくなかった。
また、恐ろしい情報が出る確信があった。
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