みはらし

鶏飼育係

第1話

博士に頼まれたものを探し、アライグマとフェネックは現在ロッジに辿り着いていた



途中、アライグマが「かばんさんが泊まったのと同じ部屋がいいのだ!」

と騒ぐ一幕もあったが


先客がいた為、隣の[みはらし]の部屋に泊まる事になった











「はっ!ここは!?かばんさんの部屋なのだ!?」


アライグマはいつもと違う景色に混乱しつつ飛び起きた


「フェネー……


フェネックの方に目をやるが、まだ眠っていた


バルコニーから淡い光が差し込んでいる。まだ早朝のようだ


「フェネックより早く起きてしまったのだ!さすがアライさんなのだ!」


しかし一人では何もすることがない、と少し停止した所で

素晴らしい考えを閃いた


(今のうちに頼まれたものを見つけるのだ!)

(フェネックを驚かすのだ!)


すぐに彼女は部屋を飛び出し、外へ向かった











「いいもの見つけたのだ!さすがアライさんなのだ!」


アライグマは満面の笑みを浮かべ部屋の近くまで戻ってきていた


いつもなら部屋を忘れてしまう所だが、今日の彼女は一味違う

大体の位置を覚えて、後はドアの形で部屋を見つける算段だ


「あった!ここなのだ!」


廊下を曲がってすぐにドアを見つけ、機嫌よく部屋に入った


「フェネックー!いいもの見つけたのだー!」



「フェネックー……?」


部屋を見渡すが見つからない


ベッドの下……いない、バルコニーに出る……いない


もしかしたらフェネックも外に行ったのかもしれない

そう考えた彼女は、また外へ向かう事にした









ロビーに来ると、スナネコが朝食をとっていた


「スナネコ、フェネックがここを通らなかったかー?」


「あなたしか通っていないですよ」


「アライさんは今ここにいるのだ!?」


「さっきボクの目の前を通りましたよ」


「気づかなかったのだ……ごめんなのだ」


しかしスナネコは素通りされた事を気にしていないようだ


「フェネックがどうかしたのですか?」


「部屋に戻ったらいなかったのだ」



すると、思い出したようにスナネコが語り始めた


「そういえばこのロッジ……[でる]らしいですよ」


「でる?でるってなんなのだ?」


「オオカミから聞いたのですけど、ここで眠ると

 速いセルリアンとかが出る……とか?」


「うぅ……」


「そのセルリアンに見つかると……」


「見つかるとどうなるのだ……?」


「えっと……頭を……頭から?  あ、その辺りで興味無くしちゃいました」


スナネコは色々混ざっている情報をぷっつりと語り終えた


そんな彼女に、アライグマが食ってかかった


「そこでなのか!?多分クライマックスのところなのだ!?」


「フェネックがですか?」


「そうなのだ!  違うのだ!!」


「うーん、頭がどうなるんだったかなあ」


アライグマは部屋を思い出していた

そういえば外が一望できる場所があった。あそこからセルリアンが入ったのでは?


「頭に羽が生えるのだ!間違いないのだ!」


「鳥のフレンズみたいにですか」


「それだけじゃないのだ!きっと……とっても大きいのだ!」


彼女は外からバルコニーに届くサイズのセルリアンを想像していた


「大きい……じゃあ分裂したりするかもしれないですね」


スナネコは以前の大型セルリアンの話をよく聞いていたようだ


「大変な事になったのだ!フェネックの危機なのだ!」



「危機……?一体どうしたんですか?」


2人が声の方を向くと、怪訝そうな顔をしたリカオンがいた


「リカオン、ここまで見回りに来ていたのですか?」


「はい、近くまで来たので泊まって……ところで危機ってなにがあったんです?」


「フェネックがセルリアンに食べられたのだ!」


リカオンの目が鋭くなる


「どんなセルリアンですか?」


「えっとー……すごく速くて」


「羽が生えて飛ぶのだ!」


「分裂して」


「とっても大きいのだ!」



「はい、ってうえええええ!?」

「なっ、なんなんですかあ?それは!?」


今、リカオンの脳内ではとてつもないものが生み出されていた


「私一人じゃ……いや、でも早く対応しないと……」


「このままじゃフェネックが危機なのだ!」


狼狽するリカオンに対し、アライグマも負けじと動揺しつつ説得にかかる


「わ、分かりました、まず部屋を確認しても良いですか?」











ガチャ


部屋のドアが開く


開けたのはアリツカゲラだ


「おはようございます。あら? アライさんはどちらに?」


「それがわからないんだよねー、起きたら居なくて」


「あら、そうだったんですか……」


フェネックは、昨日のアライさんの駄々の件だな、と察した


「あー、昨日はごめんね。アライさんが」


「いえ……」


心配そうなアリツカゲラに、フェネックが笑顔で続ける


「問題無いよー。あの後アライさんすぐ寝ちゃったし」

「私達夜行性なんだけどねー」


「……でも、ほんとアライさんどこいっちゃったのかなー」


そう言って彼女はバルコニーへ目を向けた











「下がっていて下さい、セルリアンが戻ってきているかも」

「中……音も臭いもしませんが」


リカオンはドアの下から顔を上げると

緊張した表情で後ろの2人に呼びかけた


リカオンの瞳が輝く。野性解放だ


「行きますよ」


キィ……とドアが音をたてて開く

入ると同時にリカオンが感覚を研ぎ澄ませ、瞬時に中の状況を把握した



「……いないですね、セルリアンも、フェネックさんも」


「そんな……フェネックぅ……」


アライグマはうなだれた、皆と一緒ならなんとかなると思っていたのだ


意気消沈する彼女に、横で何か気づいたスナネコが話しかける


「ねえ、アライ━━━

と同時に、アライグマが呻きながら部屋へ駆け出した!

「うううぅぅぅぅ!」


声に振り向いたリカオンは驚き横に飛び退いた


「わあ!アライさん!?何を……」


突っ走るアライグマを目で追うと

開けっ放しのバルコニーへ飛び出していた


そして、アライグマはすうっと息を吸い込むと、ありったけの力を込めて叫んだ


「フェネックうううぅうぅううぅぅぅぅぅ!!!」




「はいよー」


「ぅぅぅぅうう!?」


驚いて声の方に顔を向けると、隣のバルコニーからフェネックがこちらを見ていた


「フェネック!?無事だったのだ!?」


「なんの話さー?」


「あら、アライさんそちらに?」


声に驚いたアリツカゲラが向こうのバルコニーに出てきた


「えっ!?フェネックさん、セルリアンに食べられたんじゃ!?」


こちらの部屋からもリカオン、スナネコが後を追って出てきた


「セルリアン?なんの話かなー」


と返事をしたところで、何故か野性解放しているリカオンに気づく


「あー……」

「アライさん、またやってしまったねえ」


「どういう事なのだ!?」


混乱するアライグマに、後ろからスナネコの淡々と喋りかけた


「忘れていました。ここ、ボクが泊まっていたんですよ」












落ち着いたところでフェネックが事件をまとめた


「アライさん最初に見つけた[みはらし]の部屋に入っちゃったんだねー」

「私達の部屋は2番目だったんだよ」


「面目ないのだあ……」


「まあ、何事もなくて良かったですよ」


緊張の解けたリカオンが、励ますように声を掛けた











その後、ばすてきなものを見送りながらスナネコが呟く


「サーバルの話を聞いて、旅に出てきて正解でした」


「本当にセルリアンがいたら危なかったですよ」


そんな彼女をリカオンがたしなめた


「じゃあリカオンも一緒に旅しませんか?」


「え?」












「「わっせ、わっせ」」


「忘れていたのだ!フェネックに渡すものがあったのだ!」


「あ、これ……ジャパリコイン?」


「フェネック知ってるのかー?」


「ツチノコさんが前話してたよー、ありがと」

「今度は2人で探そうねー」


「わかったのだー!」

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みはらし 鶏飼育係 @himorogi7

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