第22話 Neo Galaxy Plan(その2)
★
「
「
「怖い、怖い。そんな怒らんでもええのに。恒彦くん、相変わらず真面目やからな」
今岡さんの手厳しい言葉に、
「しゃあないな。あまり困らせてもあかんしな」
今岡さんの方を流し目で見ながら、
「――うちの職業は投資家。芸子はあくまで趣味や。一日数千万のプラスを計上することもあればその逆もある。ただ、年間で見たら数億のプラスになっとる。得意なんは経済の流れ、市場の動向、企業の健全度やらを読むこと。これでも、M工科大学大学院の
「いいわけないだろ。肝心なこと、言ってないじゃないか――性別はどうした?」
間髪を容れず、今岡さんの口から想定外の言葉が飛び出した。
「
麻耶の口から言葉が発せられる。
クールガールの麻耶が自分からツッコミを入れるのはすごく珍しい――言い換えれば、「絶対に確認が必要」だと麻耶が認識したってこと。他の三人に目を向けると、みんな目を丸くして鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。
「信じられないと思うけど、その通りだ。ただ、見た目はこんなだけど、
「……恒彦くんの……いけず」
★★
突然NGPのメンバーを襲った「
麻耶の目の前で、罰が悪そうな顔をする和服美人は、どこをどう見ても女としか思えない――「見た目に騙されてはいけない」。麻耶の脳裏にそんな言葉が浮かぶ。ただ、同時に別の言葉も浮かんだ――「何も信じられない」。麻耶以外にも同じことを思った人がいる気がする。
改めて、麻耶を含めた四人が順番に自己紹介をすることになった。
五十棲さんが話していたときは、打ち合わせスペースは完全に「五十棲色」に染まっていて他の人が入り込む余地なんかなかったけれど、それは他の三人にも同じことが言えたの――麻耶に言わせれば、みんな、かなり濃い色を
一人目は、真っ黒なライダースーツを身に纏った男。ここまで逆輸入のハーレーダビットソンで乗り付けたそうで、ポマードで固めた、リーゼントの髪を櫛で整えながら自己紹介をしたの。「ジョニー・
二人目は、グレーのダブルのスーツを着てえんじ色のネクタイをした、
三人目は、髪を七三に分けて牛乳瓶の底みたいな、分厚いレンズの眼鏡を掛けた、痩せ型の男。チェックのボタンダウンにジーパンという出立ちで、まさに「絵に描いたようなヲタク」。無地の黒いショルダーバッグから取り出したノートパソコンを膝の上に置いて、いつも下を向いて両手を動かしている。ほとんどしゃべらないけれど、キーボードを使えば話は別。メンバーの前に置かれているパソコンに次々とメールが飛び込んでくる。名前は「
三人の自己紹介が終わって、いよいよ麻耶の番。
取り立てて言うことはないけれど、今岡さんの手前、やらないわけにはいかない。
「桜木麻耶です。仙台支店市場開発部に所属しています。年齢は二十四歳。NGPの事務局として皆さんの勤怠管理や連絡調整も担当します」
クールガールの麻耶が愛想の欠片もない、機械的な挨拶をすると、いつも通り、あたりは重苦しい空気に包まれる。四人の白けたような視線が宙を泳ぐ。麻耶は慣れっ子だから何とも思わないけれど。
すると、間髪を容れず、今岡さんが「スクッ」と立ち上がったの。
「と言うわけで、僕も含めて、一癖も二癖もあるような六人だ。言い換えれば、個性がキラリと光っている。ただ、こんなメンバーだからこそ、世間をあっと言わせるようなことができると思う。
今岡さんの言葉で場の雰囲気がガラリと変わる。
それは四人の表情からも明らかだった。
「恒彦くんったら、褒められてんのか、
「今岡さん、本当にいいんすね? 俺が全力出しても。戦略法務が火を噴くっすよ?――」
「この舌で貢献させてもらいます。やりたいことはいろいろありますので――」
「……」
三人がそれぞれ言いたいことを言い始める――ヲタクの白鳥さんだけは無言だったけれど、膝の上でキーボードを叩く手の動きがかなり激しい。
不意にパソコンにメールが入る。
「コンピューターやITのことならボクに任せてください! 今岡部……おっと危ない(ふぅ~) 危うく罰金を払わなければならないところでした(汗) 今岡さんの頼みとあらば、たとえ火の中、水の中、
メンバーの距離が一気に縮まった気がした。それは、まさに今岡さんのカリスマ性のなせる業――「今岡さんはスゴイ」。麻耶は改めてそう思ったの。
でもね、それには、もう一つ理由があったの――麻耶のことをしっかりフォローしてくれたこと。すごくうれしかったんだ。
つづく
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