なんで??
「本当に大丈夫なんで!」
ハンドルの下から八の字眉の貧相な困り顔さんがおっしゃいます。仰向けのヘンテコ体勢のせいか心なしか辛そうに聞こえました。
「サンダル脱ぎますので」
思わず口走っておりました。サンダルで踏むよりは、素足の方がまだ失礼にならないのではないかと、、そもそもサンダルでは物理的にブレーキペダルを踏めません。
「そのままで大丈夫ですよ」
はっ!!この方にとっては素足の方が厳しいのでしょうか、、、。私なら、、え?どっちっも嫌でございます!!絶対に嫌でございます!!
「サンダルのままだと踏めないので、、手で押さえましょうか??」
手で押さえれば諸問題が解決できます!なぜ気づかなかったのでしょうか!そうです!その手がございましたっっ!!
「手で押さえますね」
「あっ、手だと大変だと思うので足で大丈夫ですから」
「手でも届きそうですから、手で押さえます」
「いや、ブレーキペダル結構重いので手だと大変だと思うので足で!」
「すぐ終わるんですよね?」
「いや、すぐ終わりますけど手は大変ですよ」
そんな会話をしばらく続けているうちに、だんだん面倒になってまいりました(本当にこれが私の良くない所でございます)私は左足のサンダルの留め具を外し、脱いでしまったのでございます。右足は車の外に放り出したまま、右手に脱いだサンダルを持ち、意を決して困り顔さんの困り顔を避けつつブレーキペダルを踏もうと少し左足を動かしました。
「ブレーキ位置わからないと思うので、僕誘導しますね!」
そう言って、困り顔さんは両手を私に見せたのです。
ふぁぁい???へっっ??んんんん?
「わかります!わかりますんで!」
「いや、難しいと思うんで、すんません」
「大丈夫です!わかります」
へ??この世に生を受けまして数十年、車の免許を取得いたしまして十数年、ブレーキの位置なぞ、目を閉じていてもわかりますわ!!
「いや、気にしないでください」
気にするな?何を??
「わかりますから」
え゛………
足先をホールドされております…生暖かいものが私の足先を掴んでおります…
「もう少し奥です、ここです」
困り顔さんの両手に掴まれた私の左足は暗闇の中へと導かれ、困り顔さんの顔の上を通過しブレーキペダルへと辿り着いたのでございます。いよいよ、尋常な人ではないかもしれないと思い始めましたが、この状態でどうしたら良いのでしょうか…。なんだか、色々諦めて、、腹をくくり?もう脳内は様々な情報が行き交っておりますが、正解を導き出せない以上、下手な動きはおやめなさいとばかりに素直に従う私の左足。
ブレーキペダルの感触をつま先に感じたところで
「踏みますね…」
と声を発して、平静を装うのでございました。
「踏んでてください」
もう、とっくに踏んでますが!?!?
困り顔さんの両手は私の足から離れ、ペダルのさらに奥に手を伸ばし、何やらカチャカチャ音を立て始めました。ボルトにナットを回しているような音でございましたので、本当に直していらっしゃる!と少しばかり安藤した私がお馬鹿さんであった事は最早、皆さんもお気付きかもしれません……。
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