第25話 殿の隠し事
何故か、広和殿の居室前で、庭を囲むように宴が行われた。
秀和殿の横に広和殿と孝和殿がおり、その横に坂本と松山、その他家臣が並んでいる。
「今、殺されそう。」
「坂本がおるであろう。」
その坂本が秀和殿、広和殿の順に酒を注ぎにくる。
「無理を申してまして……。」
「よいのじゃ。広和は、喜んでおるぞ。」
広和殿は、苦笑いでいた。
「よろしくお願いいたします。」
松山も、挨拶にくる。
「お役にたてるよう、努力いたします。」
「広和に仕えることで、勉強になることもあるだろう。頼むぞ。」
広和殿は、もっと苦笑いでいた。
「よろしくお願いいたします。」
松山と他の家臣には、力が劣っている広和殿の家臣の強化として、坂本とともに仕えるよう伝えていた。そのため、家臣の中では坂本と隅田だけが松山の謀反を知っていることとなる。
「坂本君。」
「はい。」
「俺、いつ殺されるの?」
「なにをおっしゃっておるのですか。まだです。」
「まだって……。」
「そう、そうならないようにするのが、殿の役目ではありませぬか。」
「だって……強んでしょ?」
「はい。結城の中でも、一番強いかと存じます。」
「俺、狙われてんのになんで歓迎しなきゃいけないの?」
「それは……。」
「坂本君はなんで俺に仕えたいわけ?」
「広和殿は、優秀だからにございます。」
「お父さんの方が絶対優秀でしょ?」
「はい。その優秀な秀和殿が、広和殿に賞賛なさるのです。広和殿もお守りしたい。そう思うのが、坂本家の血です。」
そう言ってもらえることはありがたいが、広和殿は不安でならなかった。
秀和殿は、広和殿が坂本と話している隙に、広和殿の居室に入った。
「ちょ……。」
広和殿は、慌てて秀和殿を追う。
「お主、隠し事をしておるな。」
「別に、何も隠してねえし。」
秀和殿は、宴の席に戻る。広和殿も戻る。
「孝和。」
「はい。」
「お主は、隠し事をしてまいか?」
「しておりません。」
「この前、お主の居室に突然入ったとき、ボーっとしておったな。」
「ええ、驚きましたが。」
「本日、広和の居室に入ったとき、なにか隠しておるように見えたのじゃ。」
「それは、私もそのように見えました。」
「何にも隠してないからね。」
「と言うのじゃが、どう思う?」
孝和殿は、広和殿に言う。
「広和殿。隠し事というのは、あとあと大きな災難を招きかねます。どのような些細なことでも、父上にご報告申し上げるのが、殿の役目でもございます。」
「殿どうこうじゃなくて、俺個人の問題だから、介入されたくないの。」
「個人の問題とはなんですか?」
「プライバシーに関わるから。ね?」
坂本は、隅田に訊く。
「プライバシイとは?」
「たしか、自分だけの秘密だったような。」
それは、秀和殿にも聞こえていた。
「秘密があるのか?」
「ねえよ。」
「では、何を隠したのじゃ?」
「教えません。」
「何故じゃ?」
「知られたくないからです。」
「わしに知られたくないとは、どういうことじゃ?」
坂本は、なにかを隠す広和殿に物申す。
「隠し事は、いずれ明らかになります。変なことを企んでいると疑われる前に、潔く報告、または相談すべきです。そうすれば、きっと助けてくれる人がおります。」
それは、松山に言っているかのような言い方だった。
「誰に言ってんの?」
「広和殿です。隠したものを出してください。」
「嫌だ。」
「あの引き出しに入っておる。」
「では、私が。」
と、坂本が取りにいこうとする。その坂本を、力づくで広和殿が制止する。その隙に、秀和殿が引き出しを開け、そこにあったものを取り出す。
「あー!」
広和殿の叫び声が響くと、秀和殿はそれに顔を近づけた。
「バカ!何してんだよ!」
口の悪い広和殿を、坂本が叱る。
「殿に対して馬鹿とは、失礼にございますぞ。」
秀和殿は、広和殿に尋ねた。
「これは、絵か?」
広和殿は答えた。
「写真だけど。」
「シャシン?」
家臣たちが、そのものについて興味を持ち出した。
「それは、我々も知らない殿の荷物にございますね。」
「何というものですか?」
「いいよ知らなくて。危険だから。」
「危険なのですか?」
秀和殿は、その書物を開きながら席に戻った。
「わしは、この女子がよいのう。」
と、広和殿に裸の女子の写真を見せる。
「あっそ。どうでもいいから。」
広和殿は、そのものを取り上げる。横の坂本は、それを取り上げる。
「書物ですか。ん?女子の書物……。殿。何故、女子の裸がこれほど精巧に描かれておるのですか?」
隅田や原たちも、その書物を手に取る。
「きれいな女子にございます。」
「これは昼に裸にしたのにございますな。」
「暗くて夜では見えぬからのう。」
殿は言う。
「電気だから。」
しかし、家臣は夢中である。
「これほど多くの女子を裸にするとは。」
「どこの女子にござるか。」
「見かけない顔だのう。」
殿は言う。
「そういう仕事をしている人だから。」
「殿は、どの女子が好みで?」
広和殿に書物が戻ってきた。
「言いません。」
「教えてくれてもよいではないですか?」
秀和殿は、その書物を取り、女子を指差す。
「この子もよいのう。」
広和殿はつぶやいた。
「なんで同じなんだよ……。」
坂本は、それを聞き逃さなかった。
「親子ですな。」
「ハハハハハ!」
松山は、その楽しげな雰囲気の内輪にはいなかった。ひとりでひっそりと、酒を嗜んでいた。その様子を広和殿は、しかと確認していた。
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