第15話 城づくり
結城の大広間に、山城一行がきていた。
「先の戦であるが、広和殿が山城に戦を仕掛けたというふうに捉えておるが、どうなのだろうか。」
「広和は、戦には……。参戦しておらぬとみた。」
秀和殿は、そう言葉を濁す。
「わしはしかと見ましたぞ。あれは、広和殿とその兵です。」
「兵というのは、出しておらぬのだが。」
「そちらにいる者は、広和殿の家臣ではないのか?」
山城が言っておるのは、隅田や原、他のあのとき丸太を投げた家臣たちであった。
「こやつらは、広和の家臣で間違いない。」
「その者たちに、攻められたのじゃ。」
「ほう。そうなのか?」
ここで、そうだと言ってしまえば、広和殿か戦を仕掛けたこととなってしまう。それでは、これから山城に攻められる。
「広和殿はまだ結城の軍事権を持っていないのであったな。公約では、1年過ぎないと、戦に参戦せぬということだが、破ったということでよろしいか?」
「広和からは常に報告をもらっておるが、城を建てようとしていると聞いていた。戦などには手を出しておらぬ。」
「しかし、実際山城は攻められたのだ。これは、掟破りとして、帝に報告申し上げる。では。」
結城の誓いは、帝から賞賛を受けるほどのものであり、京からは一目置かれていた。しかし、それを破ったとなれば、京の怒りを生んでしまいかねない。
秀和殿は、隅田に尋ねた。
「広和はどこじゃ?」
「崖におります。」
「崖?」
時は早く、結城は京から呼び出された。京へ向かうのは、秀和殿と広和殿と、家臣50名である。
「何があるかかわからぬ。気をつけよ。」
「わかった。」
「本当はもっと家臣が欲しいところじゃが、わしらが出ている間に城を攻められることを考えると、このくらいが限界じゃ。広和。何かあったら、自らの身を守るよう努めよ。」
「えー、それはできないよ。」
「よいか。殿が生き残れば、結城にいるすべての者を守ることができるのじゃ。」
「だったら、お父さんを守るよ。」
「広和。わしは老いぼれじゃ。」
「そんなことないよ。だって、元気じゃんか。よく食べるし、よく笑うし、病気だってないんでしょ?」
「広和。力はもう、衰えておるのじゃ。」
広和殿は、納得いかなかった。もし京へ行く途中で敵に襲われれば、自分だって秀和殿を守る。そう思っていた。
そんな心配はするだけで、宿泊した寺でも道中でも襲われることはなく、京に到着した。
「なんか、雰囲気違うね。」
「これが京じゃ。」
着けばすぐに、帝との面会が行われた。
山城からの書状の内容が読まれ、帝は結城に掟を破ったのかと尋ねた。
「いえ、広和は戦を仕掛けておらず、それに参戦もしておりませぬ。」
「しかし、山城からは、崖の上から丸太を落とされ、本陣への打撃を受けたと聞いておる。」
「それは、大変申し訳ないことをしたと思うております。この広和は、結城の殿となり、まだ数か月しか経っておりませぬ。崖の下に本陣があることを確認せず、丸太を転がしたのにございます。」
「数か月しか経っておらぬということが問題なのではないか?ん?本陣があることを確認せず、というのはどういうことじゃ?」
「城と建てようとしたのにございます。わしは、広和に結城の東国の政策を任せております。広和は、国づくりの一環として、城を建てるために、丸太を崖の上から転がしたということにございます。」
「しかし、あの崖は山城の領地であるぞ。」
「それを大変申し訳なく思うておるのです。結城の領地と勘違いし城を建てようとしたこと、山城殿にも謝罪をと思っておりました。」
「そうなのか?」
帝は、広和殿にも尋ねる。
「はい。あの崖は、東谷村の崖にそっくりでしたので、東谷村だと思ったのです。」
「何故、その村に城を建てようと思うたのじゃ?」
「東谷村の民は、随分と狭い家に住んでいます。田や畑を耕した後に、ゆっくりくつろげる城が欲しい、そういう民の願いを叶えたいと思いました。」
「ほう、民の願いか。」
「民あってこその国だと思ってます。しかし、山城殿から見れば、俺が戦を仕掛けたように見えてしまいました。これからは、地図を間違うことのないよう、精進していくつもりです。」
しっかりとした眼差しの広和殿に、帝は思った。
「お主は、秀和殿の養子だと聞いておるぞ。しかも、結城の生まれでないそうではないか。そこまで結城のためにすることがあるかのう?」
「俺は、前に住んでいたところのことをあまり覚えてないんです。知らないうちに、結城にきてしまい、秀和殿に助けられました。養子にしていただき、殿になって、家臣にも恵まれました。民も、いい人ばかりで、俺が何かをすると、ありがとうって言ってくれるんです。そんな結城の人たちの願いならば、叶えたいと思うのは当然です。」
帝は、その熱い思いに、頷いた。
「お主の結城を思う気持ちは伝わったぞ。しかし、掟破りの疑いをかけられるというだけで問題じゃ。実際、その城をつくろうとしたことが、戦の勝敗を決めることとなったのじゃ。」
帝は、民への思いだけで結城の言い分を認めるわけにはいかなかった。結城に一目置いている一方で、その権力が京より強くなることを恐れていたからである。
「本当に、民の願いを叶えるために城をつくる予定だったのであれば、放っておくことはできないであろう。その村に、城はもう建てたのであろうな?」
帝は、あくまでも広和殿の参戦を疑っていた。そんなことできていないことを思い、言ったのである。
「山城の領地であると知り、すぐに丸太を東谷村へ運び、つくりました。」
帝は、驚いた。すると、口先だけであろうと思ったのか、東谷村に本当に城が建っているのか見に行くと言うのである。
「よいか。城が建ってなければ、掟破りで処分するぞ。」
「大丈夫です。ちゃんと建てました。」
結城へ帰るのともに、後ろから帝たちがついてきた。
秀和殿は、城が建っているなどとは知らなかった。
「広和。城、建っておるのか?」
と心配する。
「うん。急いで建てたから、小さいけど。」
東谷村に着くと、村人たちが 殿の帰りを待っておった。
「殿ー!」
多くの村人が、殿たちを歓迎した。
「帝がお越しじゃ。」
京の列も到着し、城とやらを見せるよう呼びかけた。
「これです。」
村人たちが指を差したのは、そこにある建物であった。
帝は、それを見てつぶやく。
「これは、小屋というのではないか?」
その建物は、城というより小さな家、小屋であった。
村人たちは、帝に、それをつくってもらう頼んだと話した。
「広和殿。」
帝は、広和殿を呼んだ。
「これは、城なのか?」
「はい。小さいんですけど、村人の家よりは大きいんです。村人が全員入れるくらいの広さでよかったので、こうなりました。」
村人たちは、帝に広和殿のことも話す。
「広和殿には、田も耕してもらったのです。我々、大変助かっております。」
帝は、村人たちの笑顔に、たいそう驚いていた。このように、村人が笑っておる国など、他にあるであろうか。
帝は、村人に尋ねる。
「この村だけ、優遇されておるのか?」
「そんなことはないと思います。先日は、すべての村に味噌汁を配っておられました。」
「ほう。」
「料理も教えて回っておられました。食べ物を無駄にせぬようとのことでした。」
「ほう。」
帝は、その城を見つめ、決断した。
「広和殿は、この村に城を築くために崖から丸太を転がした。しかし、山城の領地をこの村を勘違いし、戦の本陣を破ることとなってしまった。これにより、広和殿は戦を仕掛け、また参戦もしていない、そう判断する。」
こうして帝の一行は帰っていった。
秀和殿は、ずっと黙っていたが、思っていたことを口にする。
「広和。」
「ん?」
「これは、小屋ではないか?」
「小屋?いや、小さい城だよ。」
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