第3話 殿に仕える家臣

 その日、秀和ひでかず殿より、広和ひろかず殿に仕える家臣が発表された。

 それは、秀和殿の下級家臣と、孝和たかかず殿の下級家臣であった。それらの者にとっては殿の重臣となる極めて栄光なることであるが、皆、顔を見合わせた。得体のしれない者に仕えるよりも、これまで通り結城に仕えることのほうが、どれほど尊厳あることか。もちろん、その命に逆らう者はいなかったが、これまで下級家臣の身、探り探りのまま仕えることとなった。

 ちなみに、孝和殿というのは、秀和殿の横におる方である。幼名竹丸。清丸の弟であったが、清丸亡き今、こうして大きく成長された。しかし、広和殿の登場により、これにて弟という立場に戻ったのである。

 

 広和殿の屋敷へ身を移した家臣たちは、殿の居室で、まま珍しいものを見つけた。

「これは……」

殿の荷物ということはわかっていたが、それは立派なつくりの箱であった。またその箱からは、なんとも奇妙な道具が次々と出てくるのである。

「っていうか、俺なにすりゃいいの?」

家臣となった者のうち、一番上の立場である隅田と原。

「殿、本日は城の中を案内するよう、秀和殿より申し受けました」

「ふーん。じゃあよろしく」

「着物にございますが、こちらでよろしいでしょうか」

隅田が用意したのは、紺色の着物であった。紺色は、結城家を示す色である。

「それ着なきゃダメ?」

「お気に召しませんでしたか?」

「動きにくいでしょ。着物って」

「しかし、殿として……」

原は、着物に難色を示す殿を見て、言葉を発するのをやめた。広和殿がどういう人物であるのかわかりかねる以上、あまり殿を責めるような発言は、身を滅ぼすことにつながりかねない。

「いえ……」

 広和殿といえば、難色を示すも、着物に身を包んだ。

「どう?」

と家臣たちに、心情を述べさせる。

「お似合いにございます」

 着なれていないようで、城の案内をされながら着物を揺さぶったり、巻くってみたりと落ち着かない様子であった殿だが、日が沈みもすれば、気にもしないようになった。


 広和殿のことが心配であった秀和殿は、食事をともにした。

「広和、城での生活はやっていけそうか?」

「うん。まだよくわかんないけどね」

「遠い国からきたのであるから、さぞかし勝手が違うであろう。お主の家臣は優秀であるから、頼るとよい」

「優秀って言ってもさー、自分たちの家臣の下っ端をよこしたんでしょ?」

「これから信頼を築いていくのも、殿の役割であるぞ」

「だって、俺のこと変な動物みたいに見るんだよ。この時代じゃ変人なのはわかってるけど、冷たい視線が怖い怖い」

「お主はお主らしくすればよい」

「ねえ」

「なんじゃ?」

「どうして俺を受け入れてくれるの?」

「結城を救ってくれたからじゃ」

「それだけ? ふつうどっから来たのかわかんない奴のことなんて養子にしなくない?」

秀和殿は答える。

「罪滅ぼしじゃ。清丸のな」

広和殿は、その意味を考えていた。

「まあよいであろう。とにかく、お主には平和な世をつくってほしいのじゃ。わしも様々な策を施してきたのじゃが、平和など遠い存在じゃのう」

「この時代に平和は無理でしょ」

「戦がなくなることはないであろう。しかし、結城だけでも平和な町をつくりたいのじゃ。頼むぞ」

 その会話を、家臣たちは静かに聞いていた。遠い国、平和な町。

 見ず知らずのこの男に結城の平和をつくることができるのか。家臣たちは、これから広和殿の優れた政策を見届けていくこととなる。

 さあ、ここからがはじまりである。広和殿の面白おかしき国づくりをご覧あれ。

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