第2話 殿誕生
見事、結城を勝利に導いた男は、
「本日、この
重家臣から驚嘆の声があがった。その中でも、殿の一番の側近である坂本は、殿にこう申した。
「殿、この男は清丸殿ではございません」
清丸というのは、秀和殿のせがれである。秀和殿の子は、四人。長男坊が清丸、次男坊が竹丸、長女と次女は幼きころに病死した。悲しきことに、殿が一番可愛がっていた清丸は、ある戦で敵の人質となり殺されてしまった。その一件は、殿にとっては、誠につらい出来事であった。食事ものどを通らなくなり、一時は自害しようとも考えたそうだ。
しかし、この出来事により、結城は戦を放棄する手段をとることとなった。
戦を放棄する。これは、結城からは戦を仕掛けないという公約である。またこれは、敵から仕掛けられた戦には臨むことを意味する。つまり、戦を仕掛けないから協力して国づくりをしていこうという、この時代では珍しい体制をとったのである。
そして今、この結城家に清丸が戻ってきた。いや、戻ってきてはいない。清丸はすでに亡くなっているのである。では、この男は、一体何者であるのか。
「だから、俺は清丸じゃないの」
「わかっておる。
殿は本当にわかっておるのか、その男をよく清丸と呼ぶのである。
「では、この素性もわからぬ男を養子とするということにございますか?」
「そうじゃ」
この男が清丸ではない以上、素性が不明なのは家臣たちを困惑させた。男は自らを真下と名乗るのであるが、結城家にそのような名を持つ者はおらぬし、敵国の者と考えるのがふさわしいと思われたのである。
「広和は、結城を救ってくれたのだ」
戦にいった者には、この男が秀和殿を助けたということは知られている話だ。しかし、その奇妙な身なりと言葉を発する男が、どうしても受け入れられなかったのである。
そんな家臣たちの不安をよそに、秀和殿は男をすんなりと受け入れた。顔立ちが清丸にそっくりで、男と清丸を重ねておったのかもしれない。
「お主は今日から、結城広和じゃ。よいな」
こうして男は、秀和殿の養子、結城広和殿となった。広和殿は、帰る場所もないようで、その命をすんなりと受け入れたようであった。
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