ちょっと、ちゃんと運転しなさいよ

 農道の道を自転車で颯爽と駆け抜ける。

 先程、ザリガニ捕りをしていた少年達が小川で、まだ遊んでいる。

「あれ、ザリガニに挟まれた兄ちゃん。今度は自転車で何処行くの ?」

「ちょっと買い物を頼まれてな。服めっちゃ汚れてるじゃねーか。母ちゃんに怒られるぞ」

 二人の少年の服は、そこかしこ濡れ、泥まみれになっている。

「怒られるのは慣れっこだよ、それより何処に買い物に行くの ?」

「ああ、駅の近くのスーパーまでな。あんま怒られねーようにしろよ。母ちゃん達、洗濯するの大変なんだから。そんじゃなー」


 少年達と別れ、自転車を漕ぐこと十分。駅に着いた。

 最初来た時、周りを見回すもスーパーらしき物は見えなかったが、はて ? いったい何処にあるのやら。

 自転車で駅周辺をぐるりと回ってみること二十分・・・・

「おい、スーパーなんてねーぞ」

 確かにばあちゃんは、駅の近くにスーパーがあるといったが、小さな駄菓子屋らしき物しか見当たらない。

 なんだ ? ばあちゃんの中ではあればスーパーなのか ? あれだったら近くにあったコンビニの方が余程品揃えがいい気がするのだが。


 このまま家に帰ってしまおうかとも思ったが、先程の姉ちゃんとのやり取りを思い出した。

「俺、スマホ持ってんじゃん !!」

 あれほど偉そうに、スマホ使えって言っておきながら、スマホの存在を忘れているなんて・・・・

 ポケットからスマホを取り出し地図アプリを起動させ、現在地を確認する。

 周辺にお店はっと・・・・ない。

 地図を大きくしたり、小さくしたりしてみたが、近くにスーパーらしき物は見当たらない。

「・・・・よし、帰ろう」

 俺は今来た道を引き返した。


 もう直ぐ家だというところで見知った少女を見かけた。

「よお、どっか行くのか」

「うあ、変態・・・・」

 会ったばかりでこの対応、こっちが、うあですわ。

「会っていきなりその対応はないんでないの、宮鈴ちゃん」

「どこがよ ! 会ったその日の内に人の着替え覗くわ、自分の裸見せるわ。あんたワザとやってんじゃないの !! 」

 お隣の宮鈴(妹)はそれはもう、大層お怒りのようだ・・・・



「まあまあ、そう怒るなよ。逆に、こう考えるのはどうだろう。宮鈴ちゃんの下着姿を見てしまったから、お詫びに俺のパンツ一丁の姿を拝ませてあげたって考えるのは。ほら、よく言うじゃん、やられたら、やり返す、倍返しだって。だから俺は上トップレスだったわけ・・・・で・・・・」

 おおおっ、目の前の沙雪様が怒ってらっしゃる。なんか、もう、拳握ってるよ、マンガだったら額に血管が浮き出そうな勢いだ。

「・・・・はぁ、イケメンになってから出直して来い、この中途半端」

「ほうわぁ !!」


 グサッという音と共に、俺の心臓はエクスカリバーで貫かれた。

「おっ、お前、言っていい事と、悪いことがあるって小学生の頃、すみれ先生に習わなかったのか・・・・」

「誰よ、すみれ先生って」

 一瞬よろめいたが、俺は復活した。

 ふう、まったく俺の心臓にエクスカリバーの鞘が埋め込まれてなかったら危うく、消滅するところだったぜ。


「ちょっと可愛いからって調子に乗るなよ !!」

「かっ、可愛い !! 私が !?」

 おや ? 何かもごもご言ってるぞ。心なしか顔も赤い。

「で、お前はどこ行こうとしてたんだよ ?」

「~~~~ごにょ~~~~~私が、かわいい、ごにょ、ごにょ~~~~」

「お前、俺の話聞いてる ?」

「えっ、あっ、あれでしょ、私が可愛いって話でしょ。そんな事、今まで異性に言われた事ないって言うか、急に言われても、ディナーの前に、お茶からって言うか」


 こいつ、何言ってんだ ??

「ちっげーよ、お前が何処に行こうとしてたのか聞いてんだよ。可愛いって言ったのは社交辞令だよ」

「はああ ? あんた乙女心を弄んだの、もう何なの、本当に、信じらんない !!!!」

 それから数分、俺達の言い争いが続いた・・・・


「もう、良いわよ。あんたは最低男だって分かったから」

「この際何でも良い」

 かれこれ数分の言い争いの後、俺は最低という称号を賜った。

「じゃあ私、もう行くから」

「だから、どこに ?」

「駅前に買い物に行くのよ。スーパー」

 ・・・・えっ


「駅前にスーパーなんてあんの ??」

「都会から来たからって田舎馬鹿にしてるの ? 田舎にだってスーパーくらいあるわよ」

 いや、俺が聞きたいのはそういう事じゃない。

「馬鹿になんてしてねーよ。俺も、ばあちゃんに買い物頼まれて駅前まで行ったんだよ。だけどスーパーなんて無かったから帰って来たんだ。スマホで調べたけど、周辺にそれらしい物もなかったし・・・・・・」


「・・・・あんた、もしかして新幹線の駅に行ったんじゃないの ??」

「へっ ??」

 こいつ何言ってんだ ?? 新幹線の駅も、電車の駅も一緒だろう ??

「はぁーっ・・・・」

「おい、今日何度目の溜息だよ。お前の幸せは、カップコーヒーの蓋が邪魔で飲めずに残った残り汁くらいしかもう残ってねぇぞ・・・・」


「意味わかんない・・・・この町って新幹線と、電車の駅が別々にあるの」

「なんですと !?・・・・・・・・」

 何その超展開、そんな事ってあるの !? 普通駅って新幹線も、電車も一緒でしょ !?

「マジで !?」

「マジで」

 お姉ちゃん、どうやら僕もスマホを使いこなせてなかったみたいです。


「あの、宜しければ案内して頂けたりしませんかね・・・・ ?」

「あんたスマホ持ってないの ? それくらい自分で調べて行きなさいよ」

「ですよねー」

 姉とのやり取りを思い返す。これからは姉であっても親切に振舞おう。


 ポケットからスマホを取り出し、先程の地図アプリを起動した。

 この町の中心から地図を縮小してみる・・・・

「本当だ、駅が二つある・・・・」

「でしょ、ちゃんと調べてから行きなさいよ。じゃあ、私行くから」

 そう言って歩き出す沙雪 


「お前、歩いて行くの ? 」

「そうよ、自転車パンクしてて。お父さんは忙しくて直してくれないし・・・・」

 地図を見た感じでは、電車の駅までは結構な距離がある。

 自転車のケツを見ると荷台が付いている。


「おい、乗ってけよ」

「はあ ? ナンパしてるの ?」

「どうしてそうなる・・・・地図見たけど結構な距離あるぞ、大変だろ」

「・・・・一人で行けるし、変態の後ろに何か乗りたくないし・・・・」

 あーもう、面倒くせぇ女だな。

「俺がスーパーまで案内して欲しいんだよ。地図見た感じ駅までは行けそうだけど、店がどこら辺にあるかは見当がつかないし。なっ、案内してくれよ。頼むって」

「そこまで言うなら・・・・変なことしないでよ」

「ハンドル握ってんのに出来るかよ」


 宮鈴(妹)は自転車の荷台に横座りで座った。

「まあ、大丈夫だとは思うけど、ちゃんと掴まってろよ」

「大丈夫よ、これくらい」

 そんなこんなで、今度こそスーパーへ向かって出発した。


 シャーーーッと、チェーンが車輪を回す音だけが聞こえる。

 出発してからは会話は一切無い。

(今更だが昨日会ったばかりの女の子を、自転車の後ろに乗せて走る日が俺の人生の中であるとは思わなかった・・・・)

 黙々と自転車を漕いでいると、不意に宮鈴(妹)から声を掛けられた。


「ねぇ、何でこの町に来たの ? お父さんと、お母さんに付いて行かなかったの ?」

「ああ、それは、いずれ家族でこの町に引っ越す予定だったから」

「いずれ ?」

「そう。本当は、この春に親父がこっちに転勤になる予定だったんだ。異動の申請が通って、やっと地元に帰れるって喜んでた。それが急に出世 ? したみたいで、この町に帰って来れなくなったんだ。めちゃくちゃ喜んでたのにだぜ。一時は会社辞めるって、会社と揉めたんだけど近い内にこっちに異動させるっていうのを条件に転勤したみたい。で、俺もそれについて行くと、二回も転校する事になるから、お前は先に行って、じいちゃん達の世話になってろ、ってな具合で俺だけ引っ越して来た訳」

 まあ、他にも色々あったんだけど・・・・

「ふーん」


 そんな会話をしていた時だ、会話に集中していたせいか道路の僅かな段差に気付かず、自転車がバウンドしてしまった。

「きゃっ」

 大した段差ではなかった為、転倒せずに済んだ。

 が、突然自転車がバウンドしたせいだろう、宮鈴(妹)が両手で俺の服をがっしりと掴んでいる・・・・

「ちょっと、ちゃんと運転しなさいよ」

「わりい、わりい、気を付ける」

 宮鈴(妹)は未だに俺のシャツを掴んでいる。

 まあ、いいか、このままでも。

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なりたい職業(みらい)の選び方 葉詩 康杜 @hashi_yasu

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