思春期に出会う歳上の女性は大抵が・・・・

 チッ、チッ、チッ、と目覚まし時計の秒針が動く音が微かに聞こえる。

 天井を見ると、木造家屋特有の木目が見え、今まで住んでいた部屋とは違うことがわかる。

 そうだ、俺は昨日からじいちゃんの家に住んでいるのだ。

 ぐるりと、体ごと横を向き目覚まし時計で時間を確認すると、午前、六時五十五分を示している。

 今は春休みの後半戦。休みの日、普段の俺だったら昼近くまで寝ているのだが、環境が変わったせいかこんな朝早い時間に目覚めてしまった。


 ・・・・目が冴えている。もう一眠り出来そうにもないな。

 よし、起きよう !!

 がばっと、上半身を起こし大きく伸びをする。

「ううーっああーーーー、よし」


 普段着に着替えた俺は、1階へと降りていく。

 階段の途中まで来ると、味噌汁のいい香りがする。

 台所に入ると、そこでは、ばあちゃんが朝食の準備をしていた

「おはよう」

「ああっ、康悠おはよう。朝ごはんにするから顔洗っておいで」

 へーい、とばあちゃんに声を掛け洗面所へ向かう。すると、その途中に大きな物体があることに気付いた。


「おおっ !! おはようコロ、てかお前なんでこんなところで寝てるんだ ??」

 洗面所へ向かう途中にいたのは、この家で飼われている雄犬のコロだ。

 コロは茶色の毛並みをしており、一見すると柴犬のように見えるが明らかに大きさが柴犬ではない。

 恐らくだが柴犬と、その他の犬との間に生まれたワンコなのだろう。

 コロは俺に気付くと大きな体を持ち上げ、近づいてくる。

 そして、俺の周りを二周ほどまわり、最後に一度だけ自分の鼻を、俺の右脛あたりに押し付けてから居間の方へと行ってしまった。

 ふむ、奴なりの朝の挨拶なのかもしれない。


 洗面所で顔を洗い、居間の方まで向かうと既にじいちゃんが席について、朝のニュース番組を見ていた

「おう、おはよう」

「おはよう」

 挨拶を交わして、俺も席に着く。

 居間のテーブルの上には卵焼き、焼鮭、漬物等が並んでいる。

 ばあちゃんが、味噌汁とご飯を持って来てくれ、食事が始まった。


「ヤス、夜は良く眠れたかい ?」

「うん、おかげ様で」

 そういって味噌汁を啜る。ばあちゃんのワカメの味噌汁はいつ食っても美味い。

「なんか、昨日の夜、二階から女の人の悲鳴しなかったか」

「ゲホッ、ゲホッ。そんなの聞こえた ? ゲホッ、ゲホッ」

 俺は飲んでいた味噌汁を噴出しそうになるのを堪えた。その為か、気管に味噌汁が入りそうになり盛大に咽てしまった。


 そんな俺をじいちゃんが無言で見つめている。

「・・・・お前、昨日の夜も沙雪ちゃんの着替え覗いたんじゃないだろうな ?」

「何言ってんのじいちゃん。流石に二回も覗くわけないでしょ」

 パンツ一丁の姿を見せてやっただけだぜ、とはとても言えない。

 食事に戻ろうとしたところ、俺の横を一匹の黒猫が通り過ぎて行く。

「ヤマト、お前のご飯も用意してあるよ」

 ばあちゃんにヤマトと呼ばれた黒猫は、ばあちゃんの隣まで行くとニャーと一言鳴き、コロの隣に並んで食事を始めた。


「この野郎、俺には挨拶なしか」

 ヤマトと呼ばれたこの猫は、全身が真っ黒の毛で金色の瞳が特徴的な雄猫だ。

 どうも俺はこいつには好かれていないらしい。

 昨日の夜、夕食を終え居間の畳にゴロンと転がっていた時の事だ。こいつは、寝転がっている俺の前まで来るとあろう事か、額に猫パンチを食らわせやがった。

 そのまま数秒間、踏みつけた後、ニャーと一言鳴いて立ち去ろうとしやがった。

 流石の俺もカチンと来たので、人間様の力を思い知らしめてやろうとしたのだが、逃げ足が速く、結局捕まえる事が出来なかったのだ。

「いつか俺の力を見せ付けてやる。覚悟しろ黒猫」

 ヤマトに向かってそう言い、食事を再開した。 


「じゃあ、いってきます」

 ガラガラガラと玄関の戸を開ける。

 朝食を終えたあと、特にする事もなかった俺は近所を散策してみる事にした。

 家の前には緩やかな坂があり、その横には少し大きめの畑があり様々な野菜が植えられている。

 坂を下って、一般道まで出た時だ。同じく家の前に坂がある隣の宮鈴家の坂から、自転車で誰かが下って来た。

 キィーーツ。

 自転車に乗って坂を下って来たのは、グレーのスーツを着た髪の長い女性だ。

 ふと、女性がこちらを見た瞬間、目が合ってしまった。綺麗な女性だ。

 ちょっと気恥ずかしいかったので、あわてて視線を逸らしたのだが・・・・

「あっ、君が昨日越してきた子 ?」

「えっ ?」

 そういうと女性は、自転車を押し近づいて来て、俺の前まで来ると自己紹介を始めた。


「はじめまして、沙雪の姉の美咲です。あなたが康悠君ね ?」

 沙雪の姉と名乗る人物、美咲さんはそう言って微笑んだ。

 よく見てみると、確かに沙雪に似ている気がする。あっ、右目の下の泣きぼくろがエロい・・・・

「はい、七森 康悠です」

 俺も自分の名前を名乗る。すると直後こんな事を言って来た。


「昨日、沙雪の着替え見ちゃったんだって ? そのうえ、自分の裸も見せたとか・・・・」

 そう言ってクスクス笑っている。

「いや、あれはですね。たまたま偶然見てしまったというか、あと、風呂上りだったので冷たい風で体を冷やそうとしたといいますか・・・・」

 あたふたと説明している俺に対して、美咲さんは「大丈夫、分かってるから」と言いながらいまだにクスクス笑っている。


 だが、次の瞬間。

 俺の左肩に手をのせ耳元で、こう呟いた。

「でも、せっかくの裸を見せるなら、沙雪じゃなくて私に見せて欲しかったな」

 そう呟いたあと、じっと俺の顔を見つめて来る・・・・

 宮鈴(姉)さんの顔は何ともエロい。

 思春期真っ只中の俺には刺激が強すぎる。


 そして、俺の肩から手を離すと、ニコニコ微笑んで。

「じゃあ、会社に遅刻しちゃうから、また今度お話しましょう」

 そう言い残し、自転車に乗って行ってしまった・・・・

「あれが宮鈴の姉ちゃんなのか??性格違いすぎだろう」

 あとに残された俺は、何とも言えぬ悶々とした気持ちのまま、その場に立ち尽くした。

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