嬉し恥ずかしの、思春期にあったら羨ましいイベントですね
嬉し恥ずかしの、思春期にあったら羨ましいイベントですね
部屋の扉を閉め、階段を下る。
いやはやどうしたものか。まさか引越し初日から女子の着替えを見る事が出来るラッキースケベイベントが待っているとは。田舎暮らしも悪いものではないな。
顔をニヤつかせながら居間の前まで歩いて来た時だ。
ガラガラガラ、ビシャーーン
玄関の引き戸が勢いよく開けられる。
「うん?」
開けられた玄関の先には怒気を露にした表情の女の子が一人見える。
なんかどこかで見たことあるぞ、ああっ !! お向かいの家でお着替えしてた子じゃないか。
と、思っていた矢先だ、女の子は携帯を取り出すと徐おもむろに電話を始める。
「もしもし、警察ですか。隣の家に不審者がいて着替えを覗かれました」
「はあっ??」
おいおい、この子何言ってくれちゃってんの?確かに着替えは見てしまったが、あれは不可抗力だろう。
確かにちょっとラッキーと思ってしまったが、本物の犯罪者になるのは御免蒙る。
「おい、あんた何してんだ。さっきのは不可抗力だろう!!」
「キャーー、変態が近づいてくるーーーー。お巡りさん、はっ、早く来てーーーー。イヤーーーー犯されるーーーー」
「なにしとるんだ、おめーだず ??」
「「えっ」」
通報されるのを阻止する為、女の子の携帯電話を奪いとろうとして、取っ組み合いをしていた俺と女の子に向かって、じいちゃんが居間から顔を覗かせ声を掛けてきた・・・・。
「うっ、うおほん。おじいちゃんのお孫さんだったんだー」
そういって、差し出されたお茶をすする女の子・・・・なんとも微妙な表情だ。
あのあと、じいちゃんが間に入る事によって今日から俺がここで暮らすこと、着替えを覗いてしまったのは事故である事を説明し、何とか女の子は落ち着きを取り戻した。
途中、掛けっ放しになっていた携帯電話に何の応答もなかった為か、お巡りさんがやって来たので二人で頭を下げる事になった。
「なんか、思春期にあったら羨ましい、嬉し恥ずかしイベントですね。いいなー青春だな~」
と、言ってお巡りさんは嬉しそうにパトカーで帰って行った。
なんだろう、ここのお巡りさん。大事件が発生した時とか大丈夫なんだろうか・・・・・・
そして現在、俺と、祖父母、隣の家の女の子を合わせた四人が居間へと集まり、優雅なティータイムを楽しんでいる・・・・日本茶だけど。
「そうなんだよ、今日からこっちに住むんだー。沙雪ちゃん、仲良くしてやってけろなー」
「あっ・・・・はいー、喜んで・・・・」
沙雪と呼ばれた女の子は、じいちゃんからの言葉に、出会いが最悪だったんで仲良く出来るかは微妙ですけど、といった感じのニュアンスを含んだ台詞で返す。
「康悠、ほら、自己紹介。これからお隣さんとして仲良くするだから」
「わかったよ、あーうーえーっと」
ばあちゃんに促されるまま、挨拶をしようとするも何を言えばいいのか分からない・・・・とりあえずだが。
「七森ななもり 康悠やすひさです。先ほどは、すみませんでした」
そう言って俺は深々と頭を下げた。
あれ?なんも反応がない・・・・、恐る恐る顔を上げ沙雪ちゃんの方に視線を向かせると、きょとんとした顔をしている。
「えっなに?その顔」
「あっ、いや、ちゃんと謝罪出来る人なんだなーと思って」
なにこの失礼な女、俺だって謝罪くらい出来ますよ。さっきはちょっとラッキーとか思ってしまったけど。
「私は宮鈴みやすず 沙雪さゆき、カーテン閉めてなかった私も悪いし。ごめんね」
そういって右手を差し出してくる。
その行為に今度は俺が固まる・・・・あれ?こいつもしかして、いい奴じゃね??
なにしてんのよ、ほら、と促されるまま、沙雪の手を握る。所謂いわゆる握手だ。
「それじゃあケーキでも食べようかね、はい沙雪ちゃん。「じん」のケーキ好きでしょ」
ばあちゃんがそう言って、テーブルに四人分のケーキを並べる。
「私の分まで!! いいんですか?やったー」
そういってケーキにフォークを伸ばす、沙雪
「うーん、おいしー。やっぱここのケーキは最高よねー」
「ほら、ヤスもお食べ」
「あーどうも」
そんなこんなで、楽しい? お茶の時間が過ぎていった。
「ふん」
バシーンという小気味良い音を立てながら、俺の渾身の一撃を食らったダンボールが真ん中から割れる。
それをきちんと畳むと、一箇所へと積み上げていく。
「まあ、こんなもんかな」
お茶会が終わったあと、俺は自分の部屋を整理する為、二階へと上がった。
畳張りの床に掃除機を掛け、荷物をダンボールから出し適当な場所へ置いていく。住んでるうちに適当な場所へ整理していけばいいだろう。
本棚や、テーブルといったものは業者が運んでくれたし、そんなに持ち物もなかったので、片付けは割りと早く終わった。
「どれ」
一通り、引越し作業を終えた俺は設置し終わったパソコンの電源を入れる。
フイーンとファンが回り、起動を始める。OSが立ち上がりデスクトップが表示された。
「うん、問題ねーな」
キーボードや、マウス等、一通り操作してみるも問題なし。
祖父母二人暮らしだった為、当然ネット環境はなし。
事前に業者へ連絡はしていたから、近々、ネット環境も整うだろう。
何もない田舎だ。ネットが使えないのは死活問題だ。まして、思春期真っ盛りなお年頃。ネットが使えないのは大いにマズい。
「ふーうっ」
バタっと畳みに大の字で寝転がる。
ふんわりと藺草の香りが鼻孔をくすぐる。フローリングの床では感じられない温かな匂いだ。
スーッと息を吸い込み深呼吸する。なぜだか落ち着く。
「ヤスー、風呂さはいれー」
一階からじいちゃんの声が聞こえる。
風呂か。ちょうどいい、引越し作業で汗も掻いたし風呂に入ろう。
一階まで降りていくと、じいちゃんが待っていた。
「おめーどっちの風呂がいい?」
「はあ ?じいちゃん何言ってんの?風呂に種類なんてあるの ?」
言ってる意味が分からず、こっちが逆に質問した。
「ああっ、おめーしらねぇのか。ちょっと付いて来い」
頭に?マークを受けた状態で、じいちゃんへ付いて行く事にした。
離れに通じる廊下を通り歩いて行くと、パチン、パチパチと何かが弾けるような音が聞こえてくる。
「ここだ」
じいちゃんに案内された部屋は脱衣所だ。その先の扉からは、パチン、パチンという音がさっきよりも大きく聞こえる。
ガラガラガラっとじいちゃんが引き戸を開くと、そこはあたり一面煙が立ち込めている。
「おい、じいちゃんなんだよコレ、あれ ?」
引き戸を開けた事により、徐々に煙が晴れ中の様子が見えるようになってくる。
そこにあったのは、円状に彫られた風呂釜と湯気が立ち上るお湯だった。
先ほど煙と思っていた物は、どうやら風呂の湯から立ち上った湯気だったようだ。
パチン、パチンと音がする方向へ視線を向けると、薪ストーブに使うような金属製の蓋があり、少し開いた隙間からは、中で薪が燃えているのが見える。
「薪風呂だ。最近は歳のせいかあんまり使ってなかったんだが、お前が来たから使ってみた。どうする ?あっちのほうには、ガス風呂もあるぞ ?」
好きな方を使えばいいと言ってくれる、じいちゃんだったが当然俺はこっちを選んだ
「いや、こっちでしょ。こんな風呂入った事ねーよ」
俺はウキウキしながら服を脱ぎ始めた。
「そうかー、じゃあゆっくり入ってくるといい」
そういい残してじいちゃんは母屋の方へと戻って行った。
「ぶはーっ」
体を洗い浴槽に入ると、大量のお湯が洗い場へと溢れ出す。
「やべぇ、気持ちいい」
思わず独り言が漏れる。
暫く浴槽に浸かった後、母屋へと戻ってきた。
「あがったよー」、と一声掛け自分の部屋へと戻る。
薪風呂のせいだろうか、体がいつもよりホカホカしていて汗が止まらない。
体を熱を冷まそうと、部屋の窓を開ける。
ザーザーと木々をを揺らす夜風が火照った体に気持ちいい。
揺れる木々の方へ目線を向けると、そこには、部屋から漏れる蛍光灯の光に照らされた桜の木があった。
花は八部咲きといったところか、今も夜風に揺れている。
「この家、桜の木があったのか、知らなかった」
桜の木を見ながら、今日あった出来事を思い返す。
正直、この町へ来る事への不安もあった。
ただ、今日あった出来事や、騒がしい隣人のおかげで、ここに来るまでの不安が一気に吹き飛んでしまった。
「まあ、なんとかなるだろう」
そうつぶやいた瞬間、お向かいの家の窓ガラスが、ガラガラという音を立てて開いた。
窓を開けた人物と目が合う。
約三秒間、見詰め合ったままだったが次の瞬間・・・・
「イッ、イヤーーーーーーー」
またしても叫びながら、沙雪は部屋を出て行ってしまった。
今回は、沙雪の着替えを覗いた訳ではないのだが、どうやら俺に問題があったらしい。
そう、風呂上りという事もあり、今の俺の格好はパンツ一丁なのだ。
「やれやれ」
そういって俺は部屋の窓ガラスを閉めた。
これからの田舎暮らし、楽しいことが待っていそうだ。
とりあえず、お隣の女の子に機嫌を直してもらわなくてはならないが・・・・
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