なりたい職業(みらい)の選び方

葉詩 康杜

プロローグ

「次は・・・・次は・・・・」

 新幹線のスピーカーから軽やかな音楽が流れ、もう直ぐ次の駅へ付く旨のアナウンスが流れる。新幹線に乗ること、東京から約一時間。この町でこれからの生活が待っている。


 季節は四月・・・・

 新幹線を降り、駅のホームから窓を覗くと壮大な山々が連なっているのが分かる。中でも一際高い山の頂上付近にはまだ雪が残っているのが見えた。

 東京では既に桜も散っているというのに、こちらではまだ雪が解けきっていないとは。

改めて、北の大地へ来たのだと実感出来る。


 エスカレータを降り、駅の改札を潜る。

 この駅は田舎にある為か、改札口は一箇所しかない。西口や東口などとは無縁だ。

 駅の外へと出ると、目の前に鏡張りの建物が目にはいったが、そのガラスは薄汚れている。

 パチンコ屋と思われる看板が見えるが、現在は営業していないようだ。


「ふむ、駅の外に出ては見たものの何もねぇ。コンビニは?スタバは?」

 都会暮らしの長い俺にとって、駅なのに回りに何もないという事実はある意味新鮮だ。

「あっ、迎えに来てもらうんだった。電話しないと」

 携帯をポケットから取り出し、通話相手の番号を探している時だった。

 プップーというクラクションの音が聞こえた。

 ふと、そちらの方へ視線を向けると白い軽トラが停まっており、運転席には見知った人物が座っていることに気付いた。


「よっこいしょ !!」

 背負っていたリュックの位置を直すと、俺は軽トラの方へと駆け出した。

「いやいやいや、電話しようとしてたところだよ、じいちゃん」

「なーに、15分も前からここに来て待ってたぞー」

 農作業をする為の作業着に長靴、タバコ銜えながら我が祖父が迎えに来てくれていた。

「荷物は荷台に置いたらいーんでねーのが?」

「いやいや、パソコン持ってきたから手に持ったまま乗るよ」

 軽トラの助手席に座り、膝の上にリュックを置いた。持って来た物は本当はハードディスクなのだが、じいちゃんはそういった物に疎い。その為、パソコンを持って来たと説明した。


「東京からならうーんと時間掛かったべぇ」

「いんや、そうでもねーよ。ここまで一時間くらい?だったかなー。つーかじいちゃん、タバコ臭せぇよ、消してくれよ」

 じいちゃんが運転する車に揺られながら、他愛もない世間話をし家へと向かう。

 車の窓から見える景色の、その殆どが畑や田んぼだ。

 景色を見ながら、ここに来る前の親父達とのやり取りを思い返す。


「康悠やすひさ、お前、将来やりたい事とか、なりたい職業とかあるのか?」

 ソファーに寝転び、携帯ゲームをピコピコ弄っていた俺に親父が問いかける。

「うあ?別に考えた事ねぇよ。まぁ、工業系? の仕事に就ければいいんじゃね? 何を突然」

顔を挙げ、一瞬だけ親父と視線を合わせたあと、またピコピコとゲームをやりながら俺は親父に答えた。


「お前、そんなんでいいの? つまんねー奴だな。そんなんじゃ、本当につまらない大人になるぞ。やりたくない仕事を仕方なしにこなして、微妙な額の給料を貰うつまらない大人に。そんなんじゃお父さんと同じだぞ!!」

「それ自分で言う!?、母さんが言うならまだしも。何?団塊の世代が使う新手の自虐ネタ??」


「いいか康悠、人生ってのは面白く生きた方が得なんだ。仕事だって本当に好きなことをやった方がいい。俺は若い頃、何も考えてなかったからこんな感じになってるけど。将来自分が何になりたいのかよーく考えてみろ。これから、じいさんの家に住むんだ。環境も変わる。残りの学生生活で色々経験して本当にやりたい事を見つけろ。幸いにも今度から通う学園は色々な学科が集まった総合学園だ。自分とは違うことを学んでいる人間とも交流することになるだろう。そういった連中と交流して、自分の将来を少し考えてみろ」


「どうしたヤス、急に黙りこんで??」

 おっと、親父に言われた言葉を思い出していたせいか、会話が途切れたようだ。

「ああっ、こっちに来る前に親父に言われた事、思い出してた。お前がじいさんの家に住むことになったら、妹か弟が出来るかもしれないぞ!!って嬉しそうに言ってた」

「何を馬鹿な事を言っとるんだ、あいつは。栄転で異動したくせにこの先、大丈夫なんだろうな?心配になるわい。後でメールしてやろう」


 そうこうしている内に、じいちゃんの家へと着いた。

 これから生活する俺の家でもある。

「おーい、けーったぞー」

 玄関を開け、じいちゃんがそう叫ぶ。すると台所の方から、はいはいと言う掛け声と共にばあちゃんがやって来た。

「康悠、疲れただろう。ささ、上がってお茶にでもしよう。ケーキ買ってあるから」

「その前に、荷物置いて来ていい?部屋も見ときたいし」

「ああ、いいよ、早く置いといで。部屋は階段を上って左奥の部屋だよ、わかるかい?」


 大丈夫と一言、ばあちゃんに告げると階段を上る。

 部屋のドアを開け室内に入ると事前に送っておいた俺の荷物が、ダンボールで詰まれて置いてあった。

 今日からここが俺の部屋だ。

 少し埃っぽいな、窓を開けて喚起しよう。

 そう思い、窓を開ける・・・・あれ?


 窓を開けるとお向かいに家があった。それはいい。

 窓の向かいの対角線上に、お向かいの家の一室が丸見えなのもそれはいい。

 お向かいの家の一室では、可愛らしい女の子がお着替え中のようだ、それもいい・・・・いや、ダメだろう。完全にアウトだ。

 その思考に至るまでには、大いに寄り道をしてしまった。


 少し栗色がかった髪、長さは肩に掛かるくらいか。

 肌は白いが、胸の大きさは微妙だ。大きいとも小さいとも言えない。

 あっ、ブラとパンツがレース入りで色がライトグリーンだ、そこは俺的にポイントが高いぞ!!

 とか何とか思考している内に、これはダメだろうと気付いた。

 が、遅かった。お向かいの家の女の子と目が合ってしまった・・・・


 とりあえず、挨拶してみよう・・・・

「やっ、やあ」

「イッ、イヤーーーーーーー」

 女の子から発せられた、大音量の悲鳴が聞こえる。

 そのまま女の子は、部屋の外へと出て行ってしまった。

 お父さん、考える間もなく僕の将来は決まったようです。

「職業は犯罪者か・・・・・・」


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