風邪とサーバルとカバンちゃん
椿ツバサ
風邪とサーバルとカバンちゃん
「サーバルちゃん、大丈夫?」
「へーき、へーきだよ……ケホッ」
だが、その声には覇気がまとっていない。ボンヤリとしていて、いつもの元気がない。
「ぜ、全然へーきじゃないよ。ラッキーさん、バス少し止めてください!」
「わかったよ」
キキッとブレーキをかけてバスが止まる。その間にもサーバルが声を漏らす。その声はやや苦しそうだ。
「どうしたんだろう……、ラッキーさん、なにかわかりますか?」
「ちょっと待って」
ピコピコピコピコとサーバルの元へやってくるボス。そのままサーバルをゆっくりと観察をしてから声を上げる。
「症状からして風邪だと思うよ」
「風邪、ですか?」
「咳や発熱、鼻づまりなどの症状が起こる病気だよ」
「病気!?治るんですか?」
「しばらく安静にしていれば自然に治るよ」
「よかったぁ」
ひとまず安心の息を吐くカバン。しかし、ケホッ、ケホッと苦しそうな声は続いている。早急になんとかしてあげたく感じる。
サーバルの体は汗のせいであろうか、ほんのりとぬれている。
「この近くに、洞穴があるね。そこならここより少し暖かいと思うから、そこまで行こうか?」
「はい、お願いします。サーバルちゃん、ちょっとだけバス、動くからね」
「……ごめんね、カバンちゃん」
「うぅん、謝らないでよ」
サーバルの言葉を否定してボスに、早くと視線で訴える。ボスもすぐにバスを動かすが中のサーバルを気遣い、あまりスピードを出さず、ゆっくりと進行した。
それからたっぷり10分をかけて洞穴の前に止まる。
「サーバルちゃん、背中に乗って」
「……うん」
のそりと動いてカバンにもたれかかる。ぐぐぐと声を漏らしながらサーバルを背負うと一歩一歩動き出す。
――――ボクはサーバルちゃんみたいに力もないけど、今だけは。
サーバルとカバンの身長がそこまで変わらない。その重みが一気に背中に押し寄せるが、なんとかこらえて洞穴の奥にある草の山へ彼女を置く。
「これは、タヌキの巣だね。昔に使っていたものだと思うよ」
「そうなんだ……。タヌキさん、少しの間お借りしますね」
昔のものといえど、誰かが使っていたのならと一応声をかける。そして草で出来た毛布を彼女にかぶせる。
「ありがと、カバンちゃん」
「うぅん、いっつも迷惑かけてるし、こんな時ぐらいね?」
普段は自分を引っ張ってくれる彼女が、弱い声を漏らしている。迷惑をかけているのは自分だ。なんの特徴もなく、なんの動物かもわからなかった自分を引っ張ってくれている。
「だから、今はゆっくり眠っていて」
その言葉を受けるやいなや、彼女は目を閉じゆっくりと眠りに入っていく。
サーバルはもとより夜行性の動物である。無理をしてカバンにつきあわせていたのかもしれない。今回体調を崩したことにはそのことが影響をしている可能性も、捨てきれない。
サーバルの様子を見ながら無言の時間が過ぎていく。その間にも小さな声でボスから風邪についていくつか情報を収集する。早く治すために"薬"というものがあるらしいが、この近くに薬はなく、また原料となるものもないらしい。
自分の特徴として何かを作ることは出来ても、原料がなければ何も出来ない。そんなことに歯がゆさを感じる。
太陽がちょうど、てっぺんにたった。
「そろそろ、お昼の時間ですね」
太陽が空の真ん中を通ればお腹がすきはじめる時間だ。普段ならジャパリマンを食べて終わりだが。
「ラッキーさん、風邪の人にジャパリマンって大丈夫なんですか?」
「ダメではないけど、食べづらいかな。こういうときは消化にいいお粥なんかがオススメかな」
「お粥、ですか」
その言葉は、図書館で見た。あの時のカレーに使った米はまだもっている。お鍋も代用することが出来そうだ。
――――薬が作れないなら、せめて料理を作ろう。
「サーバルちゃん、ちょっとごめんね」
握っていた手を離してサーバルの元を離れる。心苦しさは感じるが、料理をするのであれば、火を使うことは避けられない。サーバルが起きたときに火が目の前にあれば、怖がる可能性もあるので近くで料理をするわけにはいかない。代わりといっては変だがボスにサーバルの元へついてもらい、何か起こったら呼んでもらうように頼む。
図書館で読んだ本を思い出しながら、木をくべて火をつける。鞄をごそごそといじって、お米に塩などを探し出す。お水は夕べ泊まった場所が湖だったため、そこで汲んだものだ。
それを、手際よくお鍋の中に入れていく。水を大量に消費することとなるがその気になれば、水ぐらいならばカバン一人でも汲んでくる事が出来るであろう。
「うん、おいしい」
塩っ気の調整と、そして栄養をつけるためにジャパリマンを細かくちぎってふやかさせる。お鍋の中身を器に移して立ち上がると同時にボスがやってくる。
「サーバルが起きたよ」
「ラッキーさん、ありがとう。ボクも料理が終わったから持って行くね」
気持ち急いで、だけど零したりしないように気をつけながらサーバルの元へ行く。サーバルは幾分か顔色がよくなっているようだがマシになっているが、まだ顔は熱っぽく、咳もしているようである。
「サーバルちゃん、おはよ」
「うん、おはよう」
「食欲ある?」
「あるよ!うわー、おいしそう」
めざとくお粥を見つけたサーバルにお粥を渡す。彼女はいただきますと告げると同時に勢いよく食べていく。
「んっ!?ケホッケホッ」
「あぁ、慌てて食べるから!はい、お水」
「ケホッ……ん、うん。はぁー、ありがとうカバンちゃん」
水を飲み終えたサーバルは今度はゆっくりと食べ進めていく。そのたびにおいしい等の味の感想も載せてくれる。
「ごちそうさま」
「お粗末様……ていうんだっけ?」
「おかげで元気になったよ!さっ、行こっ!」
「さ、サーバルちゃん」
「大丈夫、だいじょ、ケホッ」
だがすぐに咳き込んでしまう。サーバルを無理矢理横に寝かせて彼女の手を握る。
「無理しないで、サーバルちゃん」
「……ごめんね」
「うぅん、ありがとう。サーバルちゃん。ゆっくり眠って」
「ありがとう」
サーバルの手をひときわ強く握ると暖かさが伝わる。そのまま眠りにつき、カバンも眠くなっていく。2人して眠って目が覚めたのは、太陽が沈んでまた上ってくるときになってからだ。
「うーん、もう元気になれたよ!カバンちゃん!」
声に張りが戻っていつもの元気な笑顔を見せる。カバンもその笑顔につれて笑顔になる。
「それにしても、どうして風邪をひいちゃったんだろ……。一昨日は少し寒かったけど、風邪をひくほどではないと思うし。やっぱりボクが無理をさせすぎていたのかな」
「あっ、えっとー」
「おとといの夜、サーバルが水を飲むついでに、湖で水遊びをしていたね」
「あ、あははー」
「サーバルちゃん?」
ごまかすように笑うサーバルと上目で睨むカバン。その視線から逃れるように視線を上へ下へ逃がす。
「き、今日は私が逃げる側の狩りごっこだね!」
ピューと逃げ出すサーバル。
「まてー」
「えっと、た、食べないでー」
「食べませんよー」
風邪とサーバルとカバンちゃん 椿ツバサ @DarkLivi
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