シロサイ「くっころってなんですの?」

こんぶ煮たらこ

シロサイ「くっころってなんですの?」

「ライオンとの合戦もようやく一息ついた事だし暫く合戦はお休みにしよう。各自故郷に帰るなり存分に今までの疲れを癒やすと良い」





初めてライオンとの合戦で引き分けに持ち込んだ52回目の合戦の後のこと。

そんなヘラジカ様の粋な計らいで私はへいげんちほーを後にし故郷のなかべちほーに戻って参りました。











「久しぶりに帰ってきましたわね」


私の故郷なかべちほーはその大部分が湿地帯となっており、へいげんちほーとは随分違います。

久々に故郷の地に降り立った私を出迎えるように通り抜ける風…あぁ長旅の疲れが全て吹き飛でいくようですわ。

木々も、風の匂いも、滝の音も、あの頃と何も変わらない。

ここで共に生き、共に修行したあの二人は今何をしているのでしょうか…。






「ひ、姫…!?」

「あら…?その声はもしか…」

「ひめえええええぇぇぇぇ!!!!お久しゅうございますううううぅぅぅ!!!!!」



ドスーン!

私を見つけるなり全力でタックルしてきたそのけものを受け止めきれず私は倒れてしまいました。



「ちょっクロサイ!?重いですわ…」

「す、すすすすみません!!武者修行の旅に出ると言ったっきり帰ってこないから心配してたんですぞおおぉぉぉ!!」



堰を切ったようにおいおい泣くクロサイ。

全くこの子も昔から何も変わっていませんわね…。



「そう言えば今日はスマトラサイはいないんですのね」

「ぐすん…。あぁ、奴は崖登りに行くぞー!とか言って今朝早く出ていきましたよ」

「ふふっ。相変わらずですのね」

「全く…姫が帰ってきているというのに遊び呆けるなどシロサイ親衛隊の自覚がないのかあいつは…」




まぁ彼女はその親衛隊とやらに入った覚えはないのでしょう。


私の大切なもう一人の幼馴染であり修行仲間でもあるスマトラサイ。

ただ彼女は彼女でやりたい事があったらしく幼い頃はよく修行が辛いと言っては抜け出していました。

それを見かねたクロサイが辛い修行もごっこ遊びなら楽しくできるんじゃないかって言って始めたのがこの姫と騎士のごっこ遊び。

まぁもっともスマトラサイは堅っ苦しいとかであまり気に入ってなかったようですけど。



「それで今は何を?」

「実は私今森の王と呼ばれるヘラジカ様の元に仕えていますの」

「そ、そんな…!?姫ともあろうお方が他の者に仕えるなど…」

「クロサイ。世界は広いですわ。私は旅に出てそれに気付きましたの。世界には自分より強い者がまだまだ大勢いる…」



ヘラジカ様と最初に出会ったあの日…あの頃の私はとにかく自分より強そうな者を見かけたら闘いを挑んでいました。

そんな武者修行に明け暮れていた毎日…しかしヘラジカ様は私が思っていたより遥かに強かった。















~~~~~~~~~~~



「強いなぁ君は」


まさかこの私が…一太刀も浴びせられず負けた…?


「屈辱ですわ…」


そう、確かクロサイから教わった騎士道にはこういう時言う言葉があったはず…。


「…ころ…ですわ」

「?」

「くっ!!殺せ!!…………ですわ」


「…」


「…ふ、ふははははははは!!面白い奴だな君は」

「…え?」

「どうだ、私の元に来ないか?ちょうど今人手が足りなくてな。我々は君のような腕の立つ騎士を歓迎するよ。一緒にライオンを倒そう」
















~~~~~~~~~~~



「…思い出したら恥ずかしくなってきましたわ…」

「姫?どうかされましたか?」


全くこの子の言う騎士道精神は昔からどこかおかしいのですわ。

まぁそれに気付かなかった私もまだまだ若かったのでしょうが。



「何でもありませんわ!」

「えぇっ!?私何か姫の機嫌を損ねるような事を…」

「クロサイ。ちょっとツラ貸しなさい」

「ひ、ひいいいぃぃぃ駄目ですよ姫。姫ともあろうお方がそんな野蛮な言葉を使うなど…」

「い・い・か・ら!」





クロサイとの久しぶりの稽古、それは何より私にとって故郷に帰ってきた事を実感させるものでした。

懐かしいこの感じ…何だか昔を思い出しますわね。



「はぁ…はぁ…。しかし姫、本当に強くなられましたね…」

「そういうあなたも随分と強くなりましたわねクロサイ」

「う…うぅ…」

「クロサイ!?どうしたんですの急に…もしかしてどこか当たりどころが…」

「違うんです姫ぇ…。姫がどんどん強くなって遠くにいっちゃうのが寂しくてぇ…」



そう言い終わる前にまたおいおい泣き始めてしまったクロサイをなだめながら私は考えておりました。





「どうなのでしょう。私も正直自分が強いのかどうかなんて分かりませんわ」












ヘラジカ様の元に仕える事になったあの頃の私はとても胸が高鳴っておりました。

ここでなら私はもっと強くなれる…!そう思っていました。








でも現実は厳しかった。



戦っても戦っても勝てず、それどころか足が遅いせいで皆の足を引っ張るばかり…。

そんな合戦をもう50回以上も続けてきました。

正直自信も無くしてしまいますわ。

武者修行に出てヘラジカ様と相見えた時、私はこの人についてゆきたい、この人が作る新しい平和な世界が見てみたい、そう思いましたわ。

でもそれすら間違っていたのかも…いつしかそんな風に考えるようになりました。













でもそんな時現れたのです、彼女が。



「彼女?」




そう、彼女は名をかばんと言いました。

不思議な乗り物に乗ってこの戦場に颯爽と現れたかばんはまさに戦乱の世に現れた天才軍師。

彼女は的確に戦況を分析し、私達に指示を与えました。

そして52回目の合戦、ついに私達は初めての引き分けに持ち込んだのです。

私は彼女から教わりました。




「シロサイさんの鎧と槍はきっと誰かと戦うためにあるものじゃなくて誰かを守るためにあるものだとボクは思います。だからシロサイさんも自分から闘いを挑むんじゃなくて誰かを守るためにその力を使ってあげて下さい。やっぱり一番良いのは争いが無い事だとボクは思うから…」





そう…その時ようやく思い出したのです。

私は今までずっとクロサイに守られてきたけれど、そのうち誰かに守られるんじゃなくて誰かを守れるくらい強い自分になりたくて旅に出たという事を。

















「そんな事が…」

「だからクロサイ。戦うだけが何も強さじゃない。本当の強さとは戦わない事だと私は思います」

「姫…」

「…ちょっと話し過ぎましたわね。さぁ、クロサイお立ちなさい!まだ稽古は終わっていませんわよ!あら…?」

「げげっ!?クロシロサイ!?」



振り返るとそこには驚きたじろぐスマトラサイの姿。



「待て。それを言うならシロクロサイだろう!」

「どうでもいいですし、一緒くたにしないでください。さぁスマトラサイも久々に稽古をつけてあげますわ。かかってきなさい!」

「え?えぇ~!?」







私はもっともっと強くなりたい。

もっともっと強くなっていつかこのちほーの皆を守りたい。

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シロサイ「くっころってなんですの?」 こんぶ煮たらこ @konbu_ni_tarako

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