強敵セルリアン

arm1475

 

 フレンズのみんなと黒いセルリアンを撃退してから数日後の事である。


「何だろ、あの山みたいなの」


 サーバルちゃんは林の先に見える奇妙な小山を指して言った。


「あれが、はかせたちが言ってた“道具”なのかな?」


 かばんちゃんとサーバルちゃんは、博士と助手から、へいげんちほーに旅に必要な道具があるとの情報を聞いてやってきていた。


「……ゴミの山?」


 かばんちゃんは件の山を怪訝そうに見つめた。


「ゴミ?」

「うん……あ、そうか……多分昔、ジャパリパークで働いていた人たちが棄てたモノみたい」


 その山は、所謂不燃物、家電などの粗大ゴミで築き上げられたものであった。


「ゴミって何か変な形のものが多いね」

「家電道具ばかりだね」

「かでん?」

「人の生活を便利にしていた道具だよ。ジャパリパークで働いていた人たちが棄てたモノかな? サーバルちゃんが持ってるそれ、ドライヤーって言うんだ」

「どらいやぁ?」


 サーバルちゃんは送風口をのぞき込んでみせた。


「へぇ、コンセントが無いタイプなんだそれ。乾電池で動くのかな?」

「動く? これ、ジャパリバスみたいに走るの?」

「そういう動くじゃなくて……その穴から暖かい風が出て、濡れた髪を乾かすのに使うんだ。うーん、電池が切れてるみたい」

「ヒトって色々面白いモノ持ってたんだね。この箱は?」

「あ、そっちはラジオって言ってね」


 サーバルちゃんから携帯ラジオを受け取ったかばんちゃんはラジオのスイッチを入れてみる。


「放送局から届くニュースや音楽が聴けるんだけど……こっちはスイッチ入ったけど何も聞こえないなぁ。壊れたから棄てられたわけじゃないんだ、もしかしてドライヤーでこの乾電池使えるかな?」


 そう言ってかばんちゃんはラジオから乾電池を取り出し、コードレスドライヤーの中の乾電池と交換した。

 そんな時だった。遠くから何者かが駆け寄ってきた。


「かばんちゃん、かばんちゃんはこちらにおられるか!?」

「あれ、きみはライオンさんところの……」

「アラビアオリックスです! 大将が、大将が!」

「ど、どうしたんです?」


 かばんちゃんは血相を変えてやってきたアラビアオリックスを見て驚いた


「大将が! セルリアンに! 捕まってしまいました!」

「ええええ?!」


 それは一時間ほど前の話である。

 ライオンたちは、奇妙な形をしたセルリアンが自分たちの城の正面に鎮座している事に気づいた。

 微動だにしないセルリアンに皆警戒したが、ライオンはその奇妙さなど意に介さず、単身で撃退しに行ったのだが、


「……それはもう恐ろしい光景でした……大将が……あんなお強い方が……何も手出し出来ず、あっけなく」

「ライオンさんほどのフレンズがあっけなく!?」


 サーバルちゃんは思わず目を丸めた。


「お願いです、かばんちゃん、大将をお助け下さい! 私らでは敵いません!」


 泣きつかれたかばんちゃんは困惑するが、しかしその返答はとうに決めていた。


   *   *   *   *   *


 アラビアオリックスの案内で駆けつけたかばんちゃんとサーバルちゃんは、そこで恐るべき光景を目の当たりにする。

 あの強いライオンが、奇妙な形をした巨大なセルリアンの虜になっていたのだ。

 正確に言えば、ライオンはセルリアンの中でごろりと横になって丸まって寛いでいるのだが。


「何この大きい猫」


 かばんちゃんはそれを思わず口にしそうになって慌ててつぐんだ。

 ライオンの仲間はこの奇妙な巨大セルリアンを取り囲み、ライオンの身を案じつつしかし為す術も無く途方に暮れているばかりであった。


「僕の時みたいにライオンさんを飲み込んでないからまだ大丈夫みたいだけど……この光景、何か見覚えが……」

「かばんちゃん! 何か大将をお救いする妙案は御座らぬか?」


 アラビアオリックスの横でかばんちゃんはしばらく考え込んだ。しかしどうしても思い出せない。

 そんな膠着した――ライオン本人は寛いでいるようにしか見えないのだが――状況が動いた。

 駆けつけてから無言だったサーバルちゃんが、ふらふらと巨大セルリアンの中に入り、ライオンに重なるように丸まったのである。 それを唖然と見ていたかばんちゃんはようやくそれを思い出した。


「なべ猫だコレ」


 なべ猫。それは狭い場所を好む猫の習性を利用し、なべに猫を誘い込む恐るべし罠である(棒読み)

 なべに捕らわれた猫のその中で為す術も無く丸まり無抵抗になってしまうのだ。


「あー、このセルリアン。どこかで見た事あると思ったら土鍋の形だ」

「かぱんちゃん、大将が!」


 アラビアオリックスが二人を捕まえている土鍋セルリアンを指した。半透明の身体はライオンとサーバルちゃんの身体をゆっくりと取り込み始めていた。


「あのままだと二人とも吸収されちゃう――サーバルちゃん、ライオンさん、目を覚まして!」


 かばんちゃんは慌てて呼びかけるが、二人とも気持ちよさそうに丸まったままゴロゴロと喉を鳴らしていた。


「駄目だコレ二人ともただの大きい猫だ」


 思わず仰いでしまうかばんちゃん。しかし、はっ、とある事を思い出して顔を戻し、自分が握りしめているモノを見つめた。


「……もしかしてこれなら」


 そう呟くとかばんちゃんは土鍋セルリアンのほうへ駆け寄り、その中で丸まっている二人の足下の前に立った。


「よし! 近寄ってもセルリアンは反撃してこない!」


 反応を確認するとかばんちゃんは握りしめているコードレスドライヤーのスイッチを入れて構えた。

 ぶろろろろろろろ。電池式の割にそれはかなり熱めの熱風を吐き出す高性能な家電であった。

 その狙いは、サーバルちゃんとライオンのお尻。


「「あひゃひゃひゃ!?」」


 熱風は土鍋で蕩けていたなべ猫のお尻に未体験の刺激を与え、果たして二人は同時に目を覚ました。


「サーバルちゃん、ライオンさん! そのセルリアンから逃げ出して!」

「え? あ? あれ?」

「ちぃっ、不覚っ!」


 身体を起こしてまだ混乱しているサーバルちゃんと対照的に、ライオンは直ぐに状況を理解し、土鍋セルリアンのコアを探した。


「見つけたっ! 野生解放っ!」


 コアを見つけ出したライオンは即座に狙いを付けてパンチを繰り出す。土鍋セルリアンは、ぱっかぁーん、と音を立てて炸裂して散った。


「ふぅ……何て恐ろしい奴だ……危うく飲み込まれてしまう所であった」

「大将ぉ……よくぞ……ご無事で……」

「おお、アラビアオリックス、心配掛けたなぁ……って何故笑ってる」


 ライオンとサーバルちゃんは必死に笑いを堪えているかばんちやんとアラビアオリックスを不思議そうに見つめた。


「い……いえ……その……」

「な……なんでも……」


 涙さえ浮かべている二人を直撃したのは、サーバルちゃんとライオンがコードレスドライヤーの熱風をお尻に受けて目を覚ました時の「あひゃひゃひゃ!?」と叫んだあの顔であった。


「あんな……凄い顔……見た事……ない……くくっ」

「かばんちゃん……ひどい……ことされる……くくっ」

「だって……ああでもしないと……くくっ」

「二人とも何笑ってんの?」


 サーバルちゃんとライオンは、かばんちゃんたちが笑ってる理由がどうしても分からず傾げるばかりであった。



             完





「かばんちゃん! またうちの大将がピンチです!」

「また土鍋かなあ……あ」


 例のドライヤーを握りしめて加勢に来たかばんちゃんの前に現れたのはこたつ型セルリアンであった! どうする?


「ああっ!? ボクまで捕まった!」


                  ぶん投げオチ

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