第6話 魔法という技術
ファイヤーボールのスクロール?
俺はクリスから筒を受け取ると中身を確認してみた。
片端に木で軸を作って紙を巻きつけて紐で結んだもの。つまり掛け軸というか巻物が出てきた。
「これは何をするものなんだ?というかファイヤーボールって?」
ゲームでよくあるあれか?
火の玉がモンスターに飛んでいくやつ。
「ファイヤーボールという魔法を覚える巻物です。その魔法は術者が火の玉を作り出し任意の目標にその火の玉をぶつけるものです。」
ファイヤーボールってのは俺が思ってたやつみたいだな。ただ、
「魔法を覚えるって言った?これは魔法の教科書か?」
「いえ書物ではありません。誰でも魔法を覚える事ができるアイテムです。」
「言ってる意味がよく分からない。この中身を見ればいいのか?」
「はい、お使いになればわかります。」
とにかくやってみるか。
俺は巻物の結び目を外し中身を引っ張り出す。
すると少し黄色く変色したが何も書いてない紙が出てきた。
だが、いぶかしむ間も無く、白い紙に見覚えの無い文字が浮かび上がり、聞き覚えのある軽快な音楽と共に巻物が穏やかな女性の声で語りかけてきた。
「いつも田中魔法商会のスクロールをご愛顧いただき、誠にありがとうございます。」
なんだこれ?あとこれジャ○ネットの音楽じゃないか?
丸パクリだろ?
俺の疑問を余所に巻物は語り続ける。
「この商品は火系統の初級魔法 第2弾『ファイヤーボール』を習得していただけるアイテムとなっております。お間違いなければご使用ください。」
魔法の習得?この世界だと魔法の習得ってこんな方法なのか?
「習得を希望される方が選択肢を指でお示しください。なお、効果は一度きりとなっております。もしご希望の魔法ではない場合、もう一度封印して弊社にお持ちください。サポートさせていただきます。」
巻物に見覚えの無い2つの文字がポップアップのように浮かんできた。見覚えの無い文字なのだが何故か読める。「はい」と「いいえ」書いているのだ。
なので、俺は「はい」の方に人差し指を当てる。
一瞬、巻物から何かが指に流れてくる。
直後に聞いたことがある効果音が流れた。
国民的RPGのレベルアップ音だ。
おい!またパクッてないか?
「弊社の商品をご使用いただき、誠にありがとうございます。次のご利用を心からお待ちしております。」
そして、巻物の文字は消えた。
あまりに、あっさりと終わった。もう魔法が使えるのか?
だとしたら、この世界凄いな。魔法が使えるってもの凄いけど巻物を開いただけでなんで声や音楽が出たり文字が浮き出るんだ?
まあ、突っ込みたい所も多いが。
でも、どうしたら魔法が出るんだ?詠唱をとなえたり、『ファイヤーボール!』とか絶叫しないと駄目なんだろうか?
俺はクリスの方を見る。
「クリスみてたろ?あれで魔法覚えたのか?」
「はい、あれで覚えています。」
「それともう一つ聞きたいんだけど、これって日本人が関わっていないか?」
「はい、私が生まれる前にこの世界に来た田中という異界人です。かなり昔にこの魔法を習得できる技術を開発した人物です。」
やっぱりかい。という事はこの世界に日本人は多いのかな?
「日本人てかなりこの世界に来てるのか?」
「かなり珍しい存在です。時折この世界にやってくるようになったと聞いています。私はナガマサ様以外の異界人は見た事はありません。」
そうなのか。同郷人がいたら手助けしてくれるかもしれないのにな。
「じゃ、その田中さんて人は有名人か何かなの?どういう人なんだ?」
「田中氏は大成功した人物なので私も知識として知っているだけです。詳しくは存じませんがかなり前に亡くなっているはずです。」
なるほど、それじゃ仕方ないな。
まあ、同郷人だからって助けてくれるとは限らないしな、
それより大分休憩して体力も回復したし、クリスのおかげで精神的にも物資にも余裕ができた。
魔法が使えるらしいし、ちょっと勉強しとこう。
「魔法を使うには詠唱とか、なにか手振りとか必要なのかな?」
「必要ありません。詠唱は好みです。」
詠唱って特に要らんのかい!いや、まだ突っ込む所じゃない。俺この世界にきて会話してるのアンデットのクリスだけだし、まだこの世界の事全然知らない。
でも、クリスがこの魔法知ってたらコツとか教えてくれるかも。
「クリスはファイヤーボールの魔法は使えないの?やり方とか教えてよ。」
「使えません。」
・・・うん、使えないんじゃ仕方ないよな。
とりあえずクリスに礼を言って、自分でなんとかしよう。
やはり、剣と魔法の世界に来たら魔法を使ってみたい。
初めてこの世界にきてからワクワクしてきたよ。
それじゃ、早速魔法を使ってみよう。
ファイヤーボールの魔法といえば、魔法で火の玉を作り、それを目標に飛ばしてダメージを与えるゲームでよく見るやつだ。
目標に命中すると燃えたり、爆発するのもゲームであった気がする。
最初だしな、怪我したら嫌だから目標は遠くにしよう。
俺は辺りを見回し、20メートルほど向こうにある岩壁に生えている光る苔を目標にする事にした。
詠唱も身振りも不要との事なので、あえて両手をジャージのポケットに突っ込んでみる。
そして、光る苔をしっかり見つめて、心の中で叫んだ。
ファイヤーボール! と。
その直後、思ったよりデカイ火の玉が出現し、光る苔は一瞬で炭化した。
だが、俺はこれが成功かどうか判断できなかった。
何故なら、火の玉が20メートル先の岩壁にいきなり出てきたからだ。
『思ってたのと違う。』それが俺の最初の魔法への感想だ。
そんな事を考えているうちに、火の玉は消えてしまった。
やはり、最初にしては態度がよくなかったかもしれない。
ポケットから両手を出して、もう一度やってみよう。
しっかりと、黒こげになった苔を確認し、漫画なんかでも、よく見るような両手を胸の前でかざして、「ファイヤーボール」と口に出していってみる。
そうすると、またも同じ結果。
突然、岩壁に火の玉が出現する。そして、しばらくすると火が消える。
確かに、何も無いところに火の玉が出てくるんだから、ファイヤーボールには違いないが、、、
俺は、クリスの方を見ようとして踏みとどまった。
アドバイスを受けるにしてももう少し自分で何とかしよう。そもそも俺は何でもすぐ出来るような器用な方じゃない。
大体クリスは使えないって言ってたしな。
何度か試してみて、一度に数個出せる事と意識的に火の玉を出したり消したりする感覚が分かってきた。
但し、いきなり狙った所に火の玉が出てきて、特に移動はしないのは変わらない。
これが、この世界のファイヤーボールで正解なんだろうか?
いや、これは田中魔法商会のファイヤーボールだ。この世界の常識に沿ったものかは、わからない。
巻物が語っていた時に、初級魔法とか言ってた気がする。
つまり、基礎魔法とか上級魔法とか分類があるという事だ。
今、俺が『思ってたのと違う』魔法しか使えないのは、この世界の常識になってる魔法の基礎が何かを知らない事が原因になっている可能性もある。
って、やっぱりわからないて事か。
仕方ないクリスに聞いてみよう。
「少し聞きたいんだけどさ、ファイヤーボールってこんな感じで成功なのかな?俺の魔法って何かおかしくない?」
それまで無言で俺を見ていたクリスに聞いてみた。
「・・・そうですね、少し変わっているかもしれません。何故あんな遠くにいきなり魔力を結ぶのですか?」
魔力を結ぶ?火の玉を出したことだよな。
「いや、それを聞いてるんだよ。やっぱり俺の魔法おかしいよな?」
「・・・」
またもクリスは言い難そうにしている。
「俺は日本から来たばかりだからさ、魔法を見るのも使うのも初なんだよ。おかしい所があるならクリスが教えてくれると助かる。」
「・・・私は所謂攻撃魔法は習得していません。ですので、本当によくわからないのですが、基礎魔法の部分で何か足らないのかもしれません。」
「その基礎魔法ていうのはクリスも分からないの?」
「はい、少なくても似たような魔法を使える者でないとアドバイスもできないと思います。」
分からないって言ってるのに聞いても仕方ないか。
クリスの話をよく聞いてみると、彼はいわゆる前衛職なので自分の魔力は自身の運動能力強化や防御力強化なんかに使っているらしい。
つまり、この世界では魔法も己に必要で相性が良い物を選択している。それを習得して強化していくそうだ。
誰もが魔法を使える世界ではあるが、個人が使える魔力には限りがある。
誰も無限に強化などできないので、自分に相性が良い魔法だけしか手を出さないのが当たり前なんだそうだ。
俺はそんな事知らないし、魔法が使えるとわかってテンション上がりすぎだな。
でも、魔法は使ってみたくなるのは仕方ない。魔法が使える世界に来たら誰でも使うよな。
残念だけど、今は魔法を練習してるタイミングじゃないって事だ。
よし、色々アイテムが手に入ったし、一応魔法も使えるようになった。
休憩も十分だ。先に進もう。
と、その前にやる事があったな。
俺はアイテムなんかを使わせてもらっているクリスの仲間たちを埋葬させてもらうことにした。
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