第2話 探索開始
暗闇の中で俺は静かに心を固めた。
かなり心細い現状だが、いやだからこそか?
俺は何か行動を開始する事にした。
何処だか分からない場所にジッとしているのが限界だったからだ。
俺は自分が異世界に来たと分かってから、何も行動しないでグダグダと考えながら時間を潰していた。
いや、正確に言うと考え事している振りはしていた。
例えば、何故俺は契約してまで異世界に来てしまったのか?と自分でもよくわからない事をグズグズ考えたり、俺は日本から失踪したことになっているのだろうか?などなど、今考えても仕方ない事を必死に考えて暗闇に一人でいる不安に耐えていたのだ。
此処でジッとしていれば協力者が現れて救出してくれるかもと根拠の無い希望に縋ってもいた。
だが、幾ら待っても助けは現れなかった。
あるいは長い時間を待ったと感じているだけで、実際の時間はわずかな物だったかもしれない。
だが、俺の我慢も限界だ。
もう待てない。
俺はもう異世界に来てしまった。いくら考えても時間は戻らない。
それに、この暗闇の中で残してきた家族の事を考えていると心と身体が縮こまってしまう。
どうしようもないマイナスの事はとりあえず今は考えるのはやめよう。
冷静に今の状態を考えてみる。
現在の状況はまったく何も分からない状態だ、助けてくれる人も無し。
それはわかった。
誰も居ないのは俺にはどうしようもない。
前向きに次行こう。
となると次は、情報収集だ。
眼鏡がないのと裸足なのは不安だが、周りを探索するしかない。
とにかく自分の置かれている状況を少しでも把握しておいた方がいいだろう。
それに、ゲームなんかだと、何か使えるアイテムが落ちてる可能性もある。
そして、灯りは落ちている。遠くに松明っぽい光が見えているのだ。
利用できる事を信じて、近くに行って確認しよう。
現代日本人は裸足で外を歩くことなんて、まずない。
裸足で石だらけの地面を歩くとどうなるか?
何故、人類が靴を発明したのか?
それを実践で学びながら、俺は歩いた。
すげぇ痛いからだよ!できれば学びたくなかったけどな。
苦労しながら灯りの近くまで行くと2つの発見があった。
一つは、灯りは松明ではない。お皿に紐と油を入れた物だった、紐を芯にして灯りにしている。それを岩の壁を加工して棚を作って置いている。
二つ目は、何故そこに灯りが置いているのが分かった。
近くて見てみると扉があったのだ。木材を金属、たぶん鉄の枠で補強した扉だ。
暗闇だと扉の位置が分かりにくいからだろう。
つまり、間違いなく人が居るという事だ。
勝手にここがダンジョンだと思っていたが、こういった住居とか集落なのかもしれない。
人が居る。
誰かに会える。
そう思えるようになると、俺の気持ちはものすごく楽になった。
正直言えば、寂しくて死にそうだったしな。
それと、暗闇の中から灯りの傍に移動できたことも心のゆとりを生んだようだ。
とりあえず、第一村人を発見してなんとか情報と靴を手に入れたい。
眼鏡も欲しいけどまず無理だろうな。
などと誰かと会える事に期待して、扉の先に行こうとして俺は思い当たった。
考えたら、俺は無一文だ。
人のいる所に行ってもパン一つ買えない。
ゲームでおなじみの酒場とかに行ったら無銭飲食が確実だ。
少し考えてみよう。
例えば、俺が街や村か何かに行って「俺はこの世界を救う為に日本かやってきた!」とか言えば誰かが(そこの村長とか町長なんかが)助けてくれるかもしれない。
でも、そうすると俺が契約の時に聞いた忠告に反する事になる。
それに反したら、俺の生命が危うい??
だとしたら、無一文はまずいよな。
落ち着いて考えてみよう。
1.扉の奥には人が居る可能性が高い。
2.俺が日本から召喚されたこの場所は、敵も味方のいないようだ。
つまり、危険もなさそうだし焦って扉の奥に行く意味も無い。
だとしたら、この場所を少し調べた方がよいかもしれない。
俺が手にすべき初期装備とかお金とかが用意してあるかもしれないしな。
ゲームとかだと、よくある話だ。
正直な所、俺だって異世界にわざわざ呼ばれているんだから何か特別扱いがあってもおかしくないよな っていう気持ちもある。
俺の場合夢の中で合意があったとしても、放置は酷いだろう とも思ってもいる。
それなら、扉を開ける前に今居る場所を調べてみよう。
無一文で手持ちのアイテムは指輪だけなんだから、使えそうなものが無いか確認しといたほうがいい。
余裕ができた俺は入念に今居る場所を探索する事にした。
そもそも俺はゲームだとダンジョンは隅々まで調べまくり、ゴミでも持って帰るタイプだ。
装備が用意されてなくても換金できそうなアイテムはあるかもしれない。
探索する価値はあるはずだ。
異世界に来たからって自分のスタイルを変える必要はない。
ゲーム画面の中じゃないから裸足は辛いけどな。
持ち運びしにくいが、とにかく灯りは発見した。無断で悪いが使わせてもらう事にする。
ゲームでよくやったように左手を壁に沿わせる感じで、ゆっくり足元を見ながら探索を開始する事にしよう。暗くてよく分からないが、今居る場所はかなり大きな空間だ。慎重に行こう。
ろうそく程度の小さな灯りだが、気持ちは凄く楽になった。
さっきまで苦労して暗闇の中を歩いていたのと比べると雲泥の差だ。
扉と灯りがあった地点から壁沿いに少し移動した辺りで、行く手をさえぎる形で大きな裂け目があった。向こう側まで2~3mほど、深さはよく分からない。裂け目はこの大きな空間を横断している形になっているらしい。
灯り無しで先にこちらに歩いていたら、転落してゲームオーバーだったかも。
裂け目の向こう側にも空間は続くが、仕方ないので裂け目に沿って進むと、丸太を組み合わせた橋が架かっていた。
その橋の手前に、灯明の光を反射するにぶい光がある。なにか使えるアイテムを期待して近寄ってみると大きな剣が落ちていた。
アイテム発見に喜んだ俺は、近づこうとしたが剣を手にする前に立ち止まった。
そのすぐ横にボロボロの鎧を身に着けた白骨死体もあったからだ。
考えたらアイテムが落ちているという事は、その持ち主も一緒にいても別に不思議じゃない。
ぶっちゃけゲームだとモンスター(当然人型や人間も含む)なんかを倒してアイテムやお金を稼ぐのは当たり前だと思っていた。
というか深く考えた事さえなかった。
まぁ、この死体は俺が殺したんじゃないけど死体からアイテムとかお金を取るのは引くわ。
正直、怖いしやりたくない。
だが、そう考えると同時にこの発見は俺に新しい疑問をくれた。
この辺りには、皿に油を入れて灯りにしている誰かが居るはずだ。
何故そいつは、すぐに発見できる位置にある剣や鎧を持ち去らないのか?
死体は放置でもいいが剣や鎧は換金できるはずだ。羅生門じゃないけど、死体から金目のものを剥ぐのは常識のはずだ。
少なくても俺が読んだ漫画だと日本の戦国時代だと常識だと書いてあった。
もっともこの世界では死体の持ち物に手をつけるのは禁忌という可能性もあるが。
俺はまたも考えている振りをしながら、逃げいてた。
この場所を探索している目的の換金可能なアイテムを発見したのだ。
だったらやる事は一つ なのだが死体をまさぐるのが怖い。
俺は灯りの皿を近くの岩の上に置きしゃがみ込んだ。
踏み出す事ができず、白骨死体を見ながら固まっていたのだ。
だって気持ち悪いしな。
探索の目的である換金できそうなアイテムを俺は眺めているだけだ。
だって死体からアイテム剥ぐの怖いしな。
俺は自分のヘタレっぷりに下を向いて溜息をついた。
「ダメだ、動けない。」
さすがに自分が情けなくて声が出てしまった。
とその時
「ウゴク」
小さな声が、ささやく様な声が聞こえて来た。
そして俺が顔を上げると目の前で死体が動きだしている。
「ウウウウ・・・」
灯り皿の光の中で呻き声を上げながら死体が起き上がろうとしている。
なるほど、これじゃ死体から装備は剥げないよな。
俺は変に納得してしまってしゃがみ込んだまま動けなかった。
ただ、動く死体を見つめていた。
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