魔王の指輪と壊れゆく世界
鶴見 丈太郎
第1章 異世界へ
第1話 異世界へ
目が覚めた時、俺は暗闇の中に佇んでいた。
見覚えの無い暗くて広い空間に俺はボーっと立っていた。
寝起きのせいか頭が働かない。
とりあえず、周りの状況を確認してみる。
落ち着いているのではなく、ほかにできる事がないからだ。
周りを見渡して見る。
暗闇ではあるが完全な暗黒ではない。なんとか足元が見えるし、そこかしこにぼんやりと弱い光があり遠くに松明らしい光も見える。
たぶん、屋外でも何かの建造物でもない。
頭上に星が見えない代わりに、岩肌のようなものが見える。
かなり広い空間だ。全体像は暗くてよくわからない。ぼんやり見える範囲ではデカイ岩やら地面に凹凸があるらしい。
寝巻き代わりのジャージで寒さを感じないのは少しありがたい。
何故、ぼんやり見えてるかと言えば、近視なのに愛用の眼鏡がないから。
何故、寝巻き代わりのジャージかと言えば、寝ていたから。
寝ていたから当然裸足だ。靴さえない。
とりあえず現状の把握はできた。
つまり、身一つで見知らぬ暗闇に唯一人だという事だ。
あんまりな状況だ。なんかの短歌じゃないけど、思わず手を見る。
するとそこには右手の中指に見慣れない指輪があった。
その指輪を見てようやく寝起きの頭が動き出した。
昨日の自分の夢を思い出したのだ。
突然現れた黒髪の美少女に自分の住む世界アインソフを救って欲しいと懇願されたのだ。
世界を守るヒーローになって欲しいと。
「俺がヒーロー?!」
そこまで思い出して俺は誰も居ないのに声を出してしまった。
寒い!
痛い!
恥ずかしい!
誰もいないのに俺は一人で赤面してしまった。
確かに小学生低学年くらいまではヒーロー物が大好きだったけど、最近は全く見ていない。
決して異世界に来てまでヒーローになりたいってほど憧れてはいない。
俺は自分の記憶を否定したい気持ちになったが、俺の記憶はその余地を持っていなかった。
昨日見た夢なんて、ほとんど覚えていないからだ。
薄っすら残る記憶をなんとかかき集めてみる。
やっぱりほとんど覚えて無いがあえて言えば、決して可憐な少女に請われてヒロイズムを発揮したわけではない。
目力の強い、黒目黒髪だが外人顔の少女に執拗な勧誘を受けたのは覚えている。
だがそれは拒否するつもりだったはずだ。
はずだと思う。
というか、そこを覚えてない。思い出せない。
でも、俺はここにいる。
そして、少女の願いを受け入れた記憶も、拒否した覚えもない。
その部分のエピソードが欠け落ちていた。
だけど、俺は最終的に契約を受け入れたようだ。
何故ならこれは契約の指輪だ。
何故かくっきりと覚えている記憶の部分で彼女は俺に言った。
契約をするならこの指輪を自ら身に付けろと。
それをもって契約の成立とする と確かに俺に告げた。
何故か俺が契約の決断をしたのか覚えていない。
でも、契約は互いの意思を尊重すると言っていた。
この異世界において、契約は極めて強い意味を持つから っと彼女は言っていた。
そして、記憶が呼び覚まされていくにつれ確信が強まってきていた。
昨日夢の中で俺は契約した。
何故か?それは今は思い出せないが間違いない。
それに、ただ夢のはずだったけど、今俺が此処にいる現実の説明にはなる。
だって俺一人で暗闇の中にいるしな。
その上、裸足で土の上に立っているしな。
昨日の夢以外で説明できそうな心当たりは全く無いしな。
「ハァ~~」
俺は深くため息をついた。
目が覚めて記憶がハッキリしてみれば、異世界で一人きりという現実だ。
そして、俺はもう一度見慣れない指輪を見て悲しい気持ちなった。
何故なら、俺は夢の内容をよく覚えていないからだ。
自分の見た夢を忘れるなんて珍しくもない話だが、今回に限ってはあっさり諦めるわけにはいかない。
もう一度、よく思い出してみよう。
ハッキリ覚えているのは、この世界を救うのが自分の目的である事。
自分をヒーローと呼ぶのは恥ずかしいが目的そのものはやりがいがある、というかかなり前向きな気持ちになれる。
俺はどちかと言えば積極性に欠けると評されるやつだったはずなのだが、この件に関しては強いやる気がある。
ちょっと不思議な感覚というか、いつもと違う自分だ。
次に覚えているのは契約の事だ。
これもかなり重要だと言われた気がするが、細かいことは覚えていない。
何か色々としたような気もする。思い出せないけど。
俺はその場にしゃがみ込んで頭を抱えた。
思い出せないからだ。
まだまだ、何かあったはず。思い出せない注意点がだ。
俺はまた右手の中指を見た。しっかりと指輪がある。
どうも、あの夢で指輪をしてから、記憶が飛んでるようだ。
足の裏が少し痛くてジメジメしてる。
それが、今ここに居るのが夢じゃないと教えてくれていた。
とりあえず、異世界に来たのは間違いじゃないみたいだ。
それは仕方ないにしても、自分自身の記憶さえあやふやな上に誰もいない暗闇に放置は酷くないか?
右も左もわからないってのに。
ん!?
そうだよ。突然思い出した。
協力者が居るはずだ。確かにそう言っていた。
そりゃうそうだ。考えるまでも無い。
わざわざ異世界から召喚しておいて放置しておく訳は無い。
そして、協力者の事を思い出すと他の記憶も芋蔓式に引っ張り出されてきた。
夢の中で黒髪の女の子に『俺の存在は出来る限り隠密に』って言われたんだよな。
『ヒーローの存在が知られれば知られるほど、危険が増える』からと。
だからだ。
だから、俺はこんな人気の無い所に召喚されたということだ。
街中なんかに召喚されたら、即人目につくもんな。
んん??
という事は?
あることに気がついて、しゃがみ込んでいた俺は再び立ち上がった。
自分の周りを観察してみる。
つまり、俺を狙う存在。俺を狙う何かが居るのか?
きょろきょろと周りを見渡してみても、眼鏡が無い上に真っ暗なのでよくわからない。
心細い事この上ないが、落ち着いて考えよう。
俺の想像通りなら、こんな人気の無い暗闇に召喚されたのは人目を避ける為だろうし、俺を害する何かを避ける為のはずだ。
つまり、ここは殺風景すぎるが俺とって都合の良い安全な場所のはずだ。
というか、安全な場所であってくれ、、、
都合の良い場所の割には居るはずの協力者がいないんだけどな。
その点を考えると、やっぱり不安を拭えない。
それに俺の現在の装備品は、
寝巻き代わりのジャージの上下
契約の指輪
以上。
周りには誰もいない。
というか、ここってもしかしてダンジョンなのか?
もしそうなら、モンスターとか出たら俺の選択は
たたかう
まほう
どうぐ
にげる
にげる の一択しかない。
しかも、裸足で眼鏡無しでだ。
これがゲームなら最低限、銅の剣と革の鎧くらいはもらえるところなのに。
いや、なんなら剣も鎧も要らない。
要らないから、せめてスニーカーと眼鏡は欲しい。
俺は近眼だから、折角やって来た異世界が全て薄ボケて見えてしまうのだ。
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