第6話 あの事件が起きるまで。1
ずっと前からあなたは私の憧れだった。あなたは知らないでしょうけどね。
私が幼い頃、母は生んだばかりの妹を父から取り返すために大喧嘩をした。
結果勝てずに居場所を無くした母は私を連れ、家を飛び出したのだ。
その日から私と母は新しく買った家で二人で暮らすようになった。
母は毎日のように置いていった妹を心配していた。
正直、妬いてしまった。
私が高校生に上がった頃のこと。
とても偶然、妹と同じ学校に通うことになった。
母に話したところ、「姉妹と知られないようにしなさい」って言いながらも妹が元気に育っていることが嬉しいらしく大泣きしていた。
妹と話すようになった頃のことだ。
同級生のチンピラに絡まれたことがあった。
男達は碌でもなく、ホテルへの誘い文句とともに集団で言い寄ってきた。抵抗出来ず、怖い思いをしたことは今でも覚えている。
でもそんな時だった。
「今日は私が約束してるんだから。他所へ行って!」
そう言って男を殴り、蹴り。
妹がそんな風に助けてくれた。
他の男達は妹に手を出す意味を知ってか知らずか、「…っち」と舌打ちをしながら帰っていった。
怖かった。
だからこそ、助けに来てくれて嬉しかった。
思わず「怖かったよお」なんて言って泣きついてしまった。
そんな私を妹は「よし、よし」と慰めてくれた。
その日からより一層仲良くなった私と妹は二人で出かけることも増え、たまに姉妹であることを悟られないように家にも呼んであげていた。
ある日、最近元気がなくなったように見える妹に相談されたことがあった。
「自分に本当の家族はいない」と。
「私は誰にも愛されていない」と。
「なぜ、この世に生を受けてしまったんだろう」と。
それを聞いた途端。思わず彼女の頬を引っぱたいてしまった。
許せなかったのだ。そんなことを言う彼女も、それを言わせてしまった父も、その周りにいるであろう人達も。
そして、本当のことを話すことが出来ない母や私を。
「そんなことない。少なくとも私はあなたのことを頼りにしてるから」
そんなことしか言えなかった。
私はあなたのお姉ちゃんなんだよ。お母さんも私もあなたのことを忘れたことなんて無いくらい大好きだよ。
そう言いたかった。
でも言ってしまえば母も妹も失いそうでなんだか怖かった。
「ごめんね。痛かったでしょ」
泣くのを我慢しながら軽く頬をさすってあげる。すると妹はその手に重ねるように手を当てて、
「泣きたい時には泣けばいいんだよ」
そう言った。
人の気も知らないで…。
「私こそごめんね。
殴られるよりも殴るほうが痛いんだよね。殴らせるようなことを言ってごめんね。」
違う。悪いのはあなたじゃないよ…。
奥歯を噛み締めた。
許せない。そう思ってしまった。
思ってしまったらもう止まらない。
その日は妹を帰らせた。
数時間後、仕事から帰ってきた母に直訴した。
「もう隠すのは辞めよう。私からあの子に全部話す」
今日、妹が話してみせた悩みとともに訴えた。
それ聞いた母は私と同じように悔しそうに涙を流しながら話を聞いていた。
私は母に提案した。
「お母さん、悔しいなら私をぶっていいよ。その代わり、私もお母さんをぶつから」
妹に罪を感じていた。辛い境遇に置き去りにしてしまった事。奇跡的な再会について隠してきたこと。
母も同じ気持ちだったのだろう。
同意して、一発キメてくれた。
数時間、母と殴りあった後、明日また妹を家に連れてくると伝えてその日は休む。
休むとは言ったものの寝付けないままに朝を迎え、遅れて学校に行く。
妹は学校に来ていなかった。
心配になり、その日は学校を早退。
妹を迎えに行こうと母を伴って逢瀬家を訪ねた。
玄関が開いて最初に見たのは久しぶりに見た父の顔だった。
居間に上がり、父から話を聞く。
父の子分との縁組みの話が出てるらしい。
「妹はまだ高校一年生だよ!?」
不意にそんなことを言ってしまった。
まだ16歳のはず。なのにもう縁組みの話なんて……
しかも子分ってことは相手は暴力団関係者…?
そんなのダメだ。
止めなければ…
そう思った時だ。
居間の奥から男が現れた。
服を乱した様子で。
「ああ、ちょうど終わったみたいだな。紹介しよう、こいつが菜穂香の許婚の不知火誠だ。」
「ん?誰っすかこの人ら」
素行の悪そうな顔立ちに大きな黒っぽい瞳。頬に出来た傷。
そして酒臭さと彼の身につけている服に染み付いた煙草の臭い。
崩した服を着直し、ベルトを付け直すその仕草から嫌な想像をしてしまう。
それはまるで事後であるかのような……
「あの、今までその部屋何をしていたんですか。妹は…菜穂香はどこですか!」
「ちょっ、清香やめて」
「やめない!」
問いただそうとする私を何故か止めようとする母。
「何って、婚前交渉っていうの?許婚になったんだから構わないでしょ。あの子もう16歳だし」
「『まだ』16よ。」
流石に母もその妹を軽視する言に黙っていられなかったらしい。
男に対して怒りを覚えていた。
「自己紹介まだなんだけど、何となく分かっちゃったしもういいや。
じゃ、義母さんと義姉さん、よろしくね〜」
男はそう宣いながら玄関を開けて出ていった。
玄関が閉まったと同時に母は父の胸ぐらを掴み問い詰める。
「なんであんな男と!!」
母の怒りは父に向く。
子分というくらいだから妹を勧めたのは父なのだろう。
私も同じ気持ちだった。
「煩ぇな。お前はこの家とあいつを捨てたんだから、どうしようが俺の勝手だろうが」
「私はあの子を捨ててなんかいない。あなたがちゃんと育てるっていうから渋々置いていったんじゃない!」
「ちゃんと育てただろうが、現にほら。すっかり美人に育ったおかげで男にも言い寄られてらあ」
「美人に育てろなんて…、そういうことを言ったんじゃない!!」
母と父とで話がズレている。
『ちゃんと育てる』についての基準が違うのだ。
母にとっては一人の人間として。
父にとっては一人の女として。
そんなことを考えている時に、妹が顔を出した。
これまた乱れた格好で。
家の中でも当たり前にこんな格好をしてもなんの違和感も示さないところをみてもこれまでどんな生活を送ってきたのかが心配になってきた。
「あれ、先輩…?」
遅れて私に気づいた彼女が慌てて服装を正そうとする。
そこに
「あ…?先輩…だあ?
なんも知らねえのかよお前」
父が反応した。
「え?それどういうこと?」
普段一緒にいる時には見ないしかめっ面で父を睨む妹。
家の中ではこうなのだろうか。
そんなことを思っている場合ではないことに気づく。
私たちが今日ここに来たのは…
「こいつら、お前を捨ててったお前の母と姉だぞ?」
これを言いに来たのに先に言われてしまった。
嫌な形で。
「……え?お母さんと…お姉さん…?
私を捨てた…?」
とても悲しそうな様子でそう言った妹は一度目を伏せ、カッと目を開いて私たちを睨むと玄関の方へと走っていき、そのまま家を出た。
「待って…!!」
私は慌ててあとを追いかける。
母を置いてきてしまった。これ以上酷いことにならなければいいが…
菜穂香にはすぐに追いついた。
肩に手を置き、「やっと…追いついた…」と安堵する。
彼女はその手をすぐに払い除け、私を睨む。
彼女は先ほどの母と同じように胸ぐらを掴み、私の頬を殴ると問いただしてきた。
「捨てたってどういうことですか!それに、なんで教えてくれなかったんですか、私が妹だって!」
妹の怒りはもっともだった。
もっと早くに言ってあげたら何か違ったのだろうか……。
後悔が頭の中を過ぎる。
「ごめんね。ごめんね。」
涙と共に溢れてくる謝罪の言葉。
「言いたかった。でも…言えなかったのよ。だって…」
「なんでですか。言えない理由ってなんですか」
妹は怒り顔のまま問いかけてくる。
「機会ならたくさんあったはずですよ。先輩とはいっぱい話しましたもん」
「…言えなかった。だって言ったらあなたとは縁を切らなきゃいけなくなるかもしれないから…」
「はあ、そうですか。先輩にとっては私はその程度なんですね。だから妹なんていうのもただの血筋の話。別の家に住んでる私のことなんてどうでもよかったんですね。だから…」
流石に許せない。
話を聞こうともせず、自虐を繰り返す彼女にイラッときて私は起き上がり、殴り返した。
「そんな訳ないでしょうが!どれだけあんたと住みたい、あなたと暮らしたいって思ってたか知りもしないくせに!」
「知るわけないでしょ!だって言ってくれなかったじゃないですか!」
「だから言えなかったって言ってるでしょう!あなたは何を聞いてるの!」
「言えないなんてそんなの知らない!先輩の都合でしょ!」
「確かにね。でもそんなあなただって、縁組みの話なんてしてくれなかったでしょ…!それともなに?私があなた姉だって話をしてたら言ってくれてたの?!」
「それは…。って話をすり替えないで!私のことなんてどうでもいいよ!」
「どうでも良くないからこんなくだらない喧嘩してるのがまだ分からないの!?」
あまりの譲らない姿勢に逆に冷静になったのでもう一発入れてやった。今度は手を抜いて。
「手を出すことしか知らないんですか」
「私の代わりにチンピラをボコボコにしてたやつが何いってんのよ」
軽く殴られて少し冷静になったらしい。
二人、互いを睨みながら歩く。
「あー、熱くなってても埒が明かないのが分かったからとりあえず自販機でジュースでも買うけど何がいい…?」
「コーラでお願いします」
「はいよ」
自販機にお金を入れ、コーラと紅茶を順に取り出すとコーラを妹に渡す。
傍にあった公園のベンチに腰をかけ、二人揃って缶に口をつけた。
「昨日あんたが来た時に言わなきゃいけない気がしたんだ。あんたが『誰にも愛されていない』なんて言うから、あんたにそんなことを言わせる全部が許せなかったし、今まで隠してきた私も私が許せなかった。お母さんだってあんたに幸せになって欲しいって私が小さい頃からいつも言ってたんだよ。私が妬くほどにね。それがあんなこと言うんだもの。だから今日はお母さんと二人であなたを迎えたきたはずなんだよ。なのに許婚なんて見せられて、あんたの酷い状況知っちゃって…。どうしたらいいのか分かんなくなっちゃった。二回も殴っちゃってごめんね。痛かったでしょ」
「……いえ、私の方こそごめんなさい。そんなに想ってくれてたなんて知らなくて。自分を卑下してたから、全部悪い風に言われてるようにしか取れなくて…。相談出来なかったのも、せんぱ…姉さんを巻き込みたくなかったから」
結局、この子もこの子で私を想ってくれてたんだなあ…
姉妹ってこんな感じなのかな。
そう思うとちょっと嬉しかった。
「姉さん、今まで私のことを想ってくれててありがとう」
「いえ、こちらこそだよ」
「でも、だからこそこれだけは言わせて。お母さんもお姉ちゃんもあなたの事が大好きだし、愛してる。今までだってこれからだってあなたと一緒に居たいって思うし、たとえ一緒に居なくたっていつでも想ってる。幸せになって欲しい。だからもう、『生まれてこなければ…』なんて言わないで」
「……うん」
二人で手を握り合い、額を重ね合わせて約束をした。
「私ね、先生になりたいなって思ってるんです」
「へー、そうなんだ。なんで?」
「私、私が嫌だなって思うこの世界に子どもたちを向けないため、そしてもしそうなった時その子達を助けてあげるためにも先生になりたいんです」
その夢はあまりにも優しく感じられた。
自分のことより、自分と同じことを経験しないように事の善悪を教えてあげたいのだとそう言う彼女はとてもキラキラしていた。
私はそんな年下の妹に憧れてしまった。
二人で逢瀬家に戻ると疲れた様子の母とどこまでも余裕な表情の父が論争していた。
そんな二人を見て菜穂香は
「私、明日から一人暮らしするから!」と大きな声で宣言した。
当然私も父も母も驚き、でも誰も止めはしなかった。
父は「好きにしろ。どうせあと数年もすれば…」と口にし、母はとても心配した様子で「うちに来なさい」と口にする。
父は何も言わずに部屋に戻ったので、それを見るなり母は私たち姉妹を連れて急いで逢瀬家をあとにした。
こうして三人暮らしが始まった。
暮らし始めると菜穂香の色々不思議な行動が目立った。
お風呂は毎日誰かと一緒に入るのが当たり前と思っていたみたいで、一緒に入らないと不安そうにするし、たまに一緒に入ったらなんだか不思議な顔をする。夜寝る時も何かをせがむようにして私の部屋へ来たり、たまに一緒に寝たりもした。
そんなこんなであの日から五年が経った。
私は高校卒業後、近所の短大に行き保育士の資格を取って保育士になった。
菜緒香は高校卒業後、本当に一人暮らしを始めた。
教師を目指すため、隣町の国立大学に通いながらアルバイトで生計を立てている。
そんな菜穂香がうちに顔を出した。「明日から近くの高校に教育実習に行くことになった」そう言って、その期間だけ家にいることにしたらしい。
教育実習中の彼女は本当に生き生きとした顔で日々を生活していた。
教育実習が終わると、また家に帰ると言って荷物をまとめる。
「私、あの高校に内定したいの。だからあと二年間そのために頑張る」と夢へと強く踏み出す彼女がカッコよかった。
それだけで「私も頑張ろ」って思えた。
二年後、菜緒香は志望していた高校に内定した。本当に凄いと思う。たくさんの努力が報われて、私も母も影でとっても喜んだ。
本人もとても嬉しそうに報告に来てくれた。
次の年からは教師として毎日楽しそうに仕事に行っていた。
半年経ったある日、菜穂香は珍しく悩みごとを抱えて帰ってきた。
どうやらやたら授業をサボる二人の生徒が気になるらしい。
一人はアルバイトばかりであまり学校に来ず、来ても授業をサボる佐藤大翔。もう一人は頭がいいが故に授業を頻繁にサボる街田剛という二人の生徒。その二人の話をする時に少し赤らめた頬を見るにどちらかに好意があるのかもしれない。
授業をサボるような生徒を気にかける菜穂香は素行云々よりその子達が変なことに足を突っ込んでないかが心配だったらしい。
事情を知っている私達もその子達のことが少し気になり始めていた。
しばらくして、佐藤大翔が二週間続けて学校に来なくなったという話を聞かされた。サボり組もう一人の街田剛は「どうせバイトだろう」なんて言っていたけど、菜穂香自身は保護者に何度も何度も連絡をしたらしく、保護者も行方を知らないそうだ。
もちろん、その生徒のことも心配だったが、私は菜穂香が心配で堪らなかった。
生徒の行方不明と同時期に例の許婚から呼び出されることが増えたからだ。
夜中に疲れたまま帰ってきて寝る間もなく仕事やら大翔の心配やらしている姿をみてもなんだか危なく思えてしまう。
そしてそんな菜穂香の妊娠が発覚したのは大翔が見つかった日と同じ日だったらしい。偶然、検査のために病院に行って妊娠を知らされたあと、剛から連絡が来たそうだ。
大翔が大怪我をして入院することになったらしい。
私達も訪ねてみたが、その暴力の跡から嫌な予感しかしない。
病院からの帰り道。
「ねえ、また何か隠してない?」
そう、菜穂香に尋ねてみた。
妊娠したことといい、生徒との関係といい、聞かなければいけない気がしたのだ。
菜穂香は素直に話してくれた。
「私、大翔くんから好意を向けられてるの、多分だけど。なんでかそれが嬉しくて嬉しくて……。ダメなのは分かってるんだけど」
今までまともに恋愛なんてしてこなかったんだろう。とても純粋な乙女だった。彼女の過去を思うと自分を責めたくなるけど、そんな乙女に聞かなきゃいけないもことがう一つあるのだ。
「そのことは素直に応援したいけど、聞きたいのはもう一つ。今妊娠なんてしてこれからどうするの」
そう、彼女は夢を追い始めたばかりだ。それなのに今妊娠なんて…
「大丈夫よ。あの人には流せって言われてるもの」
当たり前のように流産を口にしたのが許せなくて思わず手が出た。
「なんで当たり前にそんなことが言えるの……」
唇を震わせながら問い質す。
流産はある意味殺人だ。お腹に出来た子を殺す行為に相違ない。
その罪を抱えたまま生きるのがどれだけ辛いのか。
でも、こんなのは始まりにすぎなかった。
次のこの子のセリフで全てが始まり、終わる。
「姉さん、心配しないで。もう何回もしてきたことだから」
息が詰まった。
おそらく、流産の痛みを心配したと思ったのだろう。そんな的はずれなことを言う。
私が驚いたのはそこじゃないのに。
だが、彼女が口にした内容はそれ以上に驚くものだった。
流産が初めてじゃない。
それどころか、何度も繰り返してきた……?
もう今頭の中にあるこの子への感情が怒りなのか哀しみなのか憐れみなのか疎みなのか分からない。
「…初めて…妊娠したのは…いつ」
やっと口から出た言葉。
正直、聞きたくなかった。
考えたくもない…
「初めて妊娠したのは中学に入ったばかりの頃…かな。色々あって何も知らずにしちゃってたから…」
「……中学生で初めての妊娠なんて…」
「今の赤ちゃんは…?」
「最近になってするようになったのは一人暮らししていた家に誠さんが来たのが始めだから大学生になった時くらいにし始めたのが原因かな。そこから誠さんが知り合いの男の人を家に呼ぶようになって…。多い時には毎晩誰かを泊めてたかも…。ホテルにだって何度も連れていかれたし、でもその分のお金はたくさん貰ってたし、いっかなって。大学でもお願いされてしたこともあったし、帰り道に誘われたこともあったよ」
それを言う間、彼女は一度も恥ずかしがるような態度を見せなかった。どちらかと言うと私に心配をかけてしまったという事への申し訳なさの方が大きいのだろう。
これはおそらく、彼女にとっては当たり前のことなってしまっているんだ。
でもこれは当たり前じゃないし、こんなこと当たり前であっていいはずがない。
こんなのは間違ってる。
が、まだ終わらない。
「これでお金を稼げるって言って誠さんに紹介してもらったバイトのおかげで大学への費用もなんとかなってたし、このくらいで済むなら安いもんじゃない?」
もう頭がおかしくなりそうだった。
なぜ、こんな平然とそれが言えるのだろうか。
「ごめん。もう聞きたくない」
そう言って、彼女に背を向けてしまう。
「……うん。やっぱり私、変……だよね。」
自覚があるのだろうか。
あった上でなぜ……?
「でもね、私、これまでずっとこうして生きてきた。これはしなきゃいけないことなんだって思って、生きてきたの。
幼い頃から毎晩、『これを毎晩飲んだら綺麗になる』って言われて男性器を咥えてたし、胸も揉めば大きくなるからって毎日揉んでもらってた。お風呂だって毎日お父さんと一緒に入って、体もお父さんに洗ってもらってた。お風呂に入ったら気持ちいいってみんな言うし、そういうことなんだって思ってきた。中学に上がった頃は毎日色んな人とするように言われて、「ビッチ」だなんてからかわれたけど意味が分からなくて。お父さんに意味を聞いてみたら綺麗だって褒めてるんだよって言われて信じたし、そう言ってくれた男子には色々してもらうように言われたからしてもらった。
でもそれが間違いだって気づいたのは姉さんやお母さんと住み始めてからなんだよ」
この子はなんて人生を歩まされてきたんだろうか。
「私、これが間違ってるって知っても変だった。毎日お風呂入ってもなにもされない日々が続いてなんだか落ち着かなくなった。毎日咥えさせられなくて変な気分になった。学校の男子を見る度に何もしなくていいのか不安になった」
過去にしてきたことが当たり前になってしまっている分、普通のことが当たり前に思えないんだ。
「もう、何が普通なのかが分からないよ」
菜穂香は頭を抱えて泣き始めた。
この子は父によって根本から狂わされてしまっている。
それを強く実感してしまった。
泣き止まない菜穂香を連れて家に帰りつく。
菜穂香を座らせ、母と三人で話をした。
今日聞いた過去のことから全て。
話を聞いた母はその場で意識を失った。
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