私だけ。
紀之介
2人で撮りましたよね?
「…これ、見てもらっても良いですか?」
葉月さんは、手にした数枚の紙を 都さんに差し出しました。
「何?」
「この写真、2人で撮りましたよね?」
頷いた都さんに、葉月さんは小声を絞り出します。
「─ 私だけしか写ってないんです。全部」
困惑の表情の葉月さんに、都さんは あっさりと答えました。
「あ、ごめん。その時私、気抜いてたからかも」
「…は?」
「それなりに気合い入れないと、写真とかに写り難い人なんだ、私」
言葉を理解しかねる葉月さんに、都さんは 事もなげに言います。
「ほら 私、鏡とかに 映らない体質だから。」
「…体質で、鏡に映らない事って…あるんですか?」
「難しい理屈は、よく解かんないだけど…そんな感じかな?ってね。」
都さんは、納得出来ない目で見る葉月さんの手を握りました。
「今、見せてあげるから。証拠」
掴んだ手を引いて、部屋の姿見の前に移動する都さん。鏡には、当然の様に2人の姿が映ります。
「映ってるじゃ、ない…です…か?」
葉月さんの言葉が終わらない内に、都さんの姿は だんだんと消えて行きました。
「─ 消えた?! …映ってない!! 何したんですか??」
動揺した声の葉月さんに、都さんは普通の声で応じます。
「集中するの…止めただけ。」
「…」
暫く唖然としていた葉月さんは、突発的に言葉を発します。
「行きましょう。」
言葉の意味が掴めない都さんは、戸惑った声を漏らしました。
「…何処に?」
「当然、ドラッグストアですよ!」
葉月さんは顔を上気させます。
「大丈夫です。あそこの薬剤師さん…顔なじみじゃないですか。」
「─ え?道野さん事…言ってる?」
「そうです!私達の道野さんに、相談に乗って貰いましょう!!」
突拍子もない事を言い出す葉月さんに、都さんは反論しました。
「─ どれだけ優秀な薬剤師でも、鏡に映らない体質を治す薬の知識があるとは思えないし、怪しい相談して、あのお店に行けなくなるのは嫌だから…そんな提案は却・下! き・や・っ・か!!」
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「…で、都さんの正体って 何なんですか?」
落ち着きを取り戻した葉月さんが、都さんに尋ねます。
「ごく普通の、人間」
「鏡に映らない体質がある人は、普通じゃ ありません!」
畳み掛ける葉月さんを、飄々と往なす都さん。
「─ 体質なんかで、人を差別したら いけないねぇ」
「…吸血関係の人だったり、するんですか?」
「怪我した指の出血を吸うぐらいで、食用には してないかな」
探究の火が付いた葉月さんは、都さんへの質問を止めません。
「─ 陽の光に当って、灰になったりは…」
「此処まで来れてるから。大丈夫じゃなかったら…日中に外出してないでしょ?」
「杭打たれたら…死んじゃうんですよね? 心臓に。。。」
「…そんな事したら、吸血鬼に限らず…大抵は、死ぬ事になると思うな。」
私だけ。 紀之介 @otnknsk
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