最終話

【俺の妹になってください】


五十七話


〜 あらすじ 〜


柏木の家の前で倒れてしまった風見春樹は、柏木の家で目を覚ました。だが………身体が動かない。


****


「大丈夫ですか!大丈夫ですか!」


肩をどんどんと叩かれて俺の意識はまた覚醒する。


「あ、あぁ………」


「意識あります。体温は33.5度」


「少し危ないな。でも、大丈夫ですよ。彼女さん。私らが最善を尽くします」


「ありがとうございます………ありがとうございます………」


ここはどこだ?というか、俺死ぬのかな?でも、まだ死ねねえよ。


「自動車が前で立ち往生してます!」


「どのくらいかかりそうだ?」


「三十分くらいはかかると思います!」


「わかった。器具は少ないがどうにかする。彼女さん彼氏さんの手を握っててください!」


「は、はい!」


…………なんだろう?寒い。凍え死にそうなのに、なんでだろう?暖かい。


「春樹………春樹………」


朦朧とした意識の中で、すべての音が子守唄のように聞こえてきていたのに、誰かが俺を呼ぶ声だけはしっかりと聞こえてきた。


「なんとか応急処置は終わりました。」


「そうですか……なら!」


「でも、まだ安全とはいえません………」


「そう………ですか」


それから暫くして俺は目を覚ました。


ここは………そうか。俺倒れて病院に運ばれたのか。


くう………くぅ………


横では涙を流しながら布団に突っ伏して眠っている少女がいた。


「………ありがとうな」


右も左も分からないような暗闇の中、一筋の光が見えた様な気がした。その光はこいつの光だ。いつも太陽みたいに暖かくて眩しいほどの光……


いや、こいつしか居ない。


「…………ん?………春樹………春樹!?」


「あ、起こしちゃったか?」


ゴンッ!!


あまりに勢いよく柏木が起き上がるものだから、頭と頭をぶつけてしまう。


「痛ったぁ…………」


「痛い………」


「あ、春樹大丈夫!?」


「大丈夫………お前は?」


「うん。大丈夫……」


そこからはなぜか俺も柏木も黙り込んでしまい、少しばかりの静寂が訪れる。


「………ごめんな。心配かけて」


そう言うと柏木は涙をポロポロと零しながら「私を泣かせた代償は大きいわよ?」と、笑って見せた。


「はいはい。お姫様。仰せのままに」


「じゃ、何発か殴らせてもらおうかしら?」


「それは勘弁してください!!」


「ふふっ、冗談よ」


なんでだろ?冗談だとは思えない!


それから医師が来て一応検査ということで、検査をしてもらい退院という形になった。


積もった雪の上をすっかり晴れた青空の中歩く。


久しぶりに歩いている気がするので、なんだか少し気持ち悪い感じだ。


「ねね、あのさ、明日何の日かわかる?」


「どうした?藪から棒に………というか、今何曜日だ?日の感覚が全くねえんだ」


「明日はなんと!クリスマス前夜!イブなのです!」


「ほう。もう年明けか」


「それもそうだけど!………ね?」


「あ、あぁ。わかったよ明日な」


「やった!」


そして、デートが決まった。


クリスマス。病み上がりであったが、検査してもらって退院していいぞ。ということになったので、毎年飽きもせずに街に飾られる大きなツリーの前に来ていた。元々はキリストのなんちゃらって感じだった気がするが、今では男女二人でイチャコラしていい日みたいな感じになっている。


なぜそうなったんだろ?聖夜マジック的なのを望んでんのかな?……絶対にないだろ。ギリギリで彼氏彼女を作ったとかなったら、それはただプレゼントが欲しいからぁ……とか、見栄を貼りたいとかそんなこと。なら、そんな関係は限りなく偽物だ。


そんな関係ならば俺はいらない。


だから、俺はデートの前にコンビニに向かい、聖夜用の決戦道具を買おうか悩んでいた。


決戦道具といえば聞こえはいいかもしれないが、ただの避妊具である。


……どうする?


この関係を本物にするには行動に移すしかないしな………キスとかならばまだ勘違いなんかでも出来ると思うが、それ以上となるとそれなりに覚悟がいる。


よ、よし………


キャップを深く被り小さな箱を手に取って、レジに向かう。


「ありがとうございましたー」


………買えた。


それをバックの奥底にしまい、とりあえず家に戻る。


家に帰ると両親はいたが珍しいことに大人しくテレビを見ていた。


まあ、とりあえずよかった。絡んでくるとめんどくさいのでね。


「あ、春樹!」


うわぁ……めんどくさい………


「親を見て露骨にめんどくさそうな顔しない!昼ごはん食べてから出かける?」


「う、うん………」


母親が普通だ………滅多にないぞ?


「はーい!じゃ、私の熱い愛情を込めて作ったご飯よ!」


「ありがとう」


「…私の愛情みたいに暖かいでしょ?」


………なんでか、母親があざとい。姉さんと同等並にあざとい。


「なんでこの季節に冷やし中華………というか、むっちゃくちゃ熱いし………」


どうやったら冷やし中華がこんなにアツアツに出来るんだよ。


「早く食べなよ!」


「…………あ、あー。そろそろ行かないと行けないから………昼飯は外で食べるよ」


「そう………」


しゅんとした母さんから逃げるようにして俺は家から飛び出た。


少しだけ罪悪感的なものはあったがあれを食べたらまた病院送りにされる。


考えただけでも恐ろしい………


そして、待ち合わせ場所である駅前に到着した。


………柏木はまだ来てるわけないよな。


一時間も前だしいる訳………って、あれ柏木か?


遠いので見間違えかもしれないが、雑貨屋に入っていった一見小学生に見えるあの赤っぽい髪色をしたポニーテールなんて早々いないしな。


あとを追うように柏木の入っていった雑貨屋に入っていくと、彼女はいた。居たのだが………あれは?誰だ?


男の人だな………それも年は俺とあんまり変わらない………


まさか………な?


でも、柏木はその男と楽しそうに笑って話していた。


………まあ、俺よりイケメンだし優しそうだしな。


俺よりいい人が見つかったのか。


結局、そうだよな。そうなるよな。


わかってたさ。


恋愛なんて、いや、友情なんてこんなもんだ。いつも勝手に信じて裏切られて………


こいつにまで俺は裏切られるのか。


なら、俺は一人でいい。


あいつが幸せならそれでいい。俺がそう望んだんだ。俺はあいつの飾りみたいなもんだ。あいつは悪くない。


それがもっと豪華になっただけ。それだけだ。


今日はもう帰ろう。


「あ、風見くん!」


そんな時に天使のような声が聞こえてきた。


「三ヶ森さんか」


「はいっ!」


「テンション高いね。どうしたの?」


「あー、えっと、久しぶりに裕翔と遊ぶことになったんだー」


笑いながら腑抜けたような緩い声でそう言う三ヶ森さんは幸せそうだ。


「そっかー。じゃ、邪魔したら悪いから行ってきなよ」


「うん……じゃ、またね!」


それから俺は家に帰った。


*****


カーテンから差し込む夕陽が鬱陶しいので、しっかりと閉めて部屋を閉ざす。


ゲームをやってみるが、何故だろう、ちっとも楽しくない。


「春樹?ご飯できたよー?」


「………今日はいらない」


___なんでだろうか。


あれから、柏木からの連絡はない。俺にあれを見せつけて諦めるようにしたのか。


なら、なんで俺に希望を持たせたんだよ……


******


はぁ…………


春樹との待ち合わせ場所である駅前に一人でもう二時間くらい………ため息がこぼれる。なんで春樹は来ないんだろう?


まあ、わかってるけどさ。


多分今頃は、美柑ちゃんとデートしてるんだろうな。


私の事をどう思ってるんだろう。好きだって言ってくれたのに。


あれは私を傷つけないようについた嘘だったんだ。自分自身を掘り下げて私とは釣り合わないって。だから別れようって………


元々、美柑ちゃんとだったんだね。春樹の隣は私じゃないんだ………


もう私はお役御免なのかな?………そうだよね。春樹にいい人が見つかったんだ。幼馴染として祝ってあげないと………周りの人の目線が痛い。もう、家に帰ろう………


どうせ、待ってても来るわけがない。


なら、帰ろう。


もう、いいや。あいつの気持ちが全然わからないし感情表現してくれたことなんて全くなかった。


なら、もう、私とあいつは赤の他人。


………他人なんだ。


******


街からすぐに帰ってきた俺は倒れ込むように布団に飛び込んでいた。


コンコンッ!


「………はい。」


布団に突っ伏しながらノックに答える。


「春樹?大丈夫?」


キャミソール姿の姉さんが部屋に入ってきた。真冬なのに寒くないのだろうか?


「姉さんか。大丈夫……」


「風邪?」


「いや、違う………」


「そっか。何があったの?」


そう言いながら布団に腰をかける。


「……別に」


「あ、わかった!柏木ちゃんのことでしょ!」


「……別に」


「あ、そうなんだ!!」


「………なんだよ?うるさいな」


「まあ、何があったかは知らないけどさ。別れるなら別れるで話だけはしといた方がいいよ?」


「別にそんなんじゃないし」


「そ。じゃ、おやすみ春樹」


「うん。おやすみ」


姉さんは部屋から出ていった。


別れ話………か。


前にもそんなことをしたな。


結局、俺はまたフラないといけないってのか。もうフラれてるのに。


でも、連絡だけはしておこう。このままじゃ終わらない。


「大事な話があるから明日空いているか?」


よし、送信っと。


それからすぐに返事が返ってきた。


「わかった。私の家に来て」


「了解」


明日はクリスマス………


こんなに気分の上がらないクリスマスイブはないだろう。


……もう、寝るか。


サンタが来るから早く寝ようって舞い上がってた幼い頃とは打って変わって、気分はどん底だ。


*****


目を覚ますと体がやけに重い。また姉さんのちょっかいか?なんて思いつつ目を開いて見るが特に何も無かった。


なんだろ?すっげえ動きたくない。


でも、しっかり今日で区切りをつけておこう。


体にムチを打ち、どうにか立ち上がって準備を整えて柏木の家へと向かう。


はぁ………


ため息をひとつこぼして、インターホンに手を伸ばす。


「はい」


「用事があってきた。」


「わかってるよ。鍵、開いてるから」


「お邪魔します」


そうして、いつもの柏木家。


「いらっしゃい」


「あ、あぁ。」


「………じゃ、私の部屋でいいかな?」


「うん。大丈夫だ」


そうして、二階にある柏木の部屋に行くために階段を上がっていく。


なんでか柏木の元気はなかった。


「先入っていいよ」


「うん………」


柏木の部屋に入り、なんと切り出そうかを考えながら腰を下ろす。


「んで、話って?」


「…………そのさ、あのさ……」


なんて言おう。出来るだけあいつが傷かないように、そっと消えるように身を引くんだ。


そうするにはどうすればいい?


「俺らはやっぱり恋人同士にはなれないって思うんだ。もう、俺らの関係は出来上がり過ぎてた」


「…………やっぱり別れ話をしに来たんだね」


「まあ、そういうことになるな」


「そっか………そうだよね」


全部わかりきっていたというような表情を浮かべたかと思ったらため息を漏らす。


「わかった。でもさ、最後にこれだけ訊いていい?私のことはどう思ってるの?」


柏木のことを………か。


俺はどう思っていたんだろう。昔っからよく遊んでいて仲も良くて、もう崩れたりしないような完璧な血縁にも近い関係……


「…………妹みたいに思ってるよ」


「そっか………」


そう言ってクスッと柏木は笑う。


俺が一番好きで尊くてなによりも離したくないもの。それは妹だ。なら、その妹の幸せのために自分が犠牲にならないでどうするんだ。身を引け。


「なんでそんなに難しい顔をしてるの?」


柏木がそう聞いてくるので、顔を上にあげると柏木はポロポロと涙を零していた。でも、顔は笑っていた。


「………なんでだろうな。柏木……幸せになれよ?」


「………幸せ?よくわかんないけど、そっちこそねっ!」


「じゃ、俺は帰るわ。またな」


「うん。またねっ!」


柏木の家から出ると、まだ昼前だというのにホワイトクリスマスになってしまった。


なんだ。あいつも俺のことを想ってくれていたんだな。好きの種類は違えど、俺と柏木は繋がっている。


それだけで充分だ。


これから先も色々あるだろうが、俺らの関係は血縁よりも硬いしどんな雨や嵐がきたって崩れない。


そうだよな。柏木。


俺にはもう立派な妹がいた。


それをかなり遠回りになってしまったが、やっと気づけた。


………これでいいんだ。


なのに、なんでだろうな。涙が止まらない。


止まらない。止まってくれない。


自分の心だというのに制御が出来なかった。どうしようもないほど涙が次から次に流れ落ちてくる。


なんでだろう。あいつは妹だろうが……


なら、あいつの幸せを考えてやるのが第一だろうが………


なんでこうも俺は自分勝手でどうしようもなくわがままなんだ………


そんな自分が俺は嫌いだ。なんで俺はこうなんだろう。


******


それから、俺と柏木は冬休みの間会うことは無かった。


知らぬうちに年も開け、もう、今日からまた学校だ。


めんどくさい。やる気もない。とりあえずお布団君が俺をここから一歩も出さまいと引き止めてくる………それに俺は打ち勝てない。


もう、三十分………


「おはよー!春樹!!」


バーン!!


と、大きな音がしたが睡魔の方が強く、俺は瞼を閉じる。


「学校だよぉーん」


ばっさぁー。と、俺を睡魔に陥れた布団君をいとも簡単に姉さんは剥がし、冬の冷気に晒され目が覚める。


なんで人が剥がす時はこんなにあっさりと剥がれるのに自分でやろうとすると剥がれないんだろう。


「おはよ!」


「おはよう…………」


起きてしまったので仕方がない。学校行こう………


姉さんはやっぱり俺の部屋で化粧を始めたので、先に下の階に降りて歯磨きをした後にリビングに入るとご飯が俺の席に並べてあった。


うん。これは普通だ。


「おはよっ!春樹!」


…………妹なんて俺にいたっけ?


見た事のある幼女的な女の子が俺の座る席の横に居た。


「どうしたの?早く座ったら?」


「お、おう………」


言われるがままに席につく。


「な、なぁ、柏木だよな?」


「え?誰の名前?お兄ちゃん?」


くっ…………


お兄ちゃん……だと?その瞬間、俺の心は砕けチリジリになった。


それは卑怯だろ………オリハルコンだって砕け散るレベルだぞその単語は………


「ちょっと、大丈夫?鼻血出てるわよ?」


「なんでお前がここにいるんだよ……」


鼻血を止めようと鼻にティッシュをつっこみながら自我を保ちつつ、そう問う。


「そんなことはいいじゃない。ね?おにーちゃんっ!」


ぐはぁ!!!


は、鼻血が止まんねえ………止まんねえからよ………


「お兄ちゃん?何やってるんだよ?おにーちゃんっ!」


「なんて声上げやがる。柏木………」


「……だって、おにーちゃんっ!」


「俺は止まんねえからよ。お前らが止まんねえ限り、その先に俺はいるぞ!だからよ、止まるんじゃねえぞ………」


〜完〜

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俺の妹になってください クレハ @Kurehasan

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