自己嫌悪


 「傘峯……あの神殺しの一族の……か?」

 そんな風に問いかけられる。

 「ああ、多分その神殺しのだ」

 正確に言うと偽神殺し、神を騙る何者かを屠殺する専門家らしいけど。

 奴から聞いた話だと確か、神を殺せば巨大な力を手に入れられると考えた奴のご先祖が、いくら力のためであっても神を殺すわけにはいかない、という理由で神に近しい神の偽物を殺し始めたのがそもそもの始まりらしい。

 「……何故、そんな厄介な者に」

 確かに厄介といえば厄介だろう。

 奴本人はそこまでではないが、奴の一族は基本的に最強とやらを目指していたらしく、それで色々やらかしていたらしい。

 奴がクソ野郎なのも最強の力を求める上で行われた実験が原因なのだという。

 「それを説明しようとすると、少し長くなるけど、大丈夫?」

 なんせ事の始まりは13年も前、私がまだクソガキだった頃まで遡らなければならないのだから。


 相手があの神殺しの傘峯に連なる者だとここの結界程度ではギリギリ防げないだろう。

 そう判断した土御門の案により、私は土御門家の本邸にひとまず匿われることとなった。

 ラーメン屋・金剛から土御門本邸までは徒歩一時間くらいの距離があるのだが、土御門の式である十二支の鼠の転移能力でほぼ一瞬でついた。

 転移とか羨ましい、私ももうちょっとまともに使えるのが欲しかった……

 もっと強ければ簡単に逃げられただろうに。

 流石に無機物まで従えたいという贅沢は言わないから、せめて言葉のわかる存在に対してもう少し強い力を使えれば……

 そうすればもっと早くに逃げだせたのに。

 いや、そんなに上手くはいかないか。

 ……あいつのことだ、私の喉を潰すくらいのことは平気でやるだろう。

 そのことまで踏まえると帰ってよかったのかもしれないとも思う。

 けどやっぱり、もう少しなんとかならないものか……

 二週間前のあの時だって、結局私はほとんど何もできなかったのだから。

 ああ、本当に自分の無能さが嫌になる。

 こんな口が悪くて性格も悪いクソ女の友達でいてくれるようないい奴を、私は私一人では助ける事ができなかった。

 せめて私が自分の力だけで救えていたのなら、少しはまともだと思えたのに。

 ……なんて、自分勝手にもほどがある。

 こんな事を考えてしまっている時点で多分、私はもうどうしようもない。



 土御門本邸は数十年前に改築されたという傘峯の屋敷とは違い、純和風の屋敷だった。

 部屋は畳張りで、砂利石の敷かれた庭園とかがある。

 屋敷内を少し歩いて客室に通された。

 「座るといいよ」

 そう座布団を指し示されたのでそれの上に正座する。

 土御門も私に対面する形で座布団の上に正座する。

 さて、どうやってまとめるべきか。

 なんせ事の始まりは13年前だ、全部を語れば時間がいくらあっても足りないし、だからと言って端折り過ぎると訳が分からなくなる。

 だからとりあえず重要そうなことだけ話して、あとは質問を受ければいいか?

 と、考え込んでいたところで声を掛けられる。

 「では、話してくれ。何故あの神殺しに目をつけられて……そんな執念深く狙われているのかを……はっきり言おう、それは、君にべったりと張り付いているその念は……呪いや怨念よりもタチが悪い」

 「……わかるものなのか? それに……そんなにやばいのか?」

 「わかる、というよりもわからない方がおかしいくらいには酷い物だ。余程感が悪いか空気が読めない愚か者でない限り、一般人でもその念を無意識に恐れて君を徹底的に避けようとするくらいには」

 「え?」

 「心当たりはないのか? 道で人に避けられたとか」

 「……あっ!」

 言われてみれば電車に乗った時にそれなりに混んでいたのに私が乗った車両だけガラガラになったり、道行く人に避けられまくってたような……

 急いでいてそれどころじゃなかったからあまり気に留めてなかったけど確かに思い当たる節がある。

 「……これ、なんとか出来る?」

 稀代の大陰陽師なんて言われてるんだ余裕だよなあ、と過剰に期待しつつ土御門の顔を見ると、土御門は目を軽く伏せて首を横に振った。

 「完全には無理だ」

 おい嘘だろ、嘘だと言ってくれよ稀代の陰陽師。

 「私にだってなんでも出来るわけではないよ……大抵の事はできるから今回のような事は非常に稀だけどね」

 「そんな貴重な例外がなんで私なんだ……」

 思わず項垂れてしまった。

 「まあそんなに気を落とさないでおくれ。完全には無理だが時間をかければだいぶ薄めることはできるから……だからその間に話してくれないか? 君と傘峯篝の関係を……一朝一夕の仲ではないんだろう? ゆっくり話してくれて構わないよ」

 「本当に平気か?」

 「大丈夫。ここは安全だし先ほど君の気配が外に漏れないように遮断しておいた……その念を辿られたとしても一週間は見つからないし、見つかったところでここの結界は簡単には壊せない」

 「そうか」

 なら……まあ大丈夫か。

 『弱虫』があとどれだけ持つかわからないけど、そんなすぐではないだろうし。

 私も後押ししたんだ、時間はまだある。

 ならば、そろそろ話さなければならない。

 どうしてこうなってしまったのかを。

 それにはまず、私の素性を簡単に説明する必要があるし、奴と出会って拾われた時の騒動と、それからの事を多少。

 それから追い出された時のいざこざを話して、三年飛んで、あの事件と、あの事件のその後と……

 それにあのクソ野郎共の能力の概要も話さなきゃだし……

 綺麗にまとめられる自信がない。

 それでも話さなければ何も伝わらないので私は口を開く。

 「ことの始まりは今から13年前、私がまだ7歳だった頃だった」

 そんな始まりから、私は話し始めた。

 




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る