第22話 君を忘れない



 土の焦げる臭いには、もう慣れた気がした。それとも、そんなに刺激的ではなかったものだったのか、今となってはどうでもよかった。

 青比呂は『ミヤマヨメナ』を指輪状に戻し、小さく息をつく。


「せせらぎか」


 後ろに立つ少女に振り返りもせず、青比呂は歩き出す。


「何度も引け、言った。何故、無視した」

「現場の判断だ。敵に撤退のチャンスを与えれば別部隊に合流される危険性があった。ここで潰しておくべきだった」


 機械のように、あらかじめ用意しておいたように、言葉を返す。


「私は、『ステイヒート』、使えと、一度も言ってない」

「どうせ敵を倒すんだ。早いほうがいいだろう」


 びちゃり、とまだ頭部の形を残していた『ステイビースト』の死骸を踏みつけ、ヘドロへと突き崩した。


「……『ステイヒート』、多用、危険……特に青比呂の、体に負担、大きすぎる」

「そうか。だがコツはつかんだ。今までより効率的に撃てるようになれた。それは指輪を通じて、お前にも体感として伝わっていたはずだが」

「……。それは、認める。だけど、青比呂」

「まだ何かあるのか」


 歩く青比呂から、せせらぎの声は遠のいて行く。


「何故、こっち見て話さない」

「……」

「私の目、見ない。避けてる」

「……」


 青比呂の口元に、かすかな笑みが浮かんだ。


「避けてる? 気にしすぎだろう、せせらぎ」


 青比呂は振り返ると、まっすぐにせせらぎの元へと歩いて行った。

 その距離はどんどんと縮まり、すぐ手前までで止まる。


「それとも」


 青比呂の手が、そっとせせらぎの頬の添えられた。


「え……」


 その意味が分からず、せせらぎは次の瞬間足下をとられ、簡単に地面に押し倒される。


「これでも、お前を見るのを、避けてるといえるか」


 息のかかる距離で青比呂が言った。せせらぎは動けなかった。間近にせまった青比呂の目を見て、戸惑いの表情を浮かべる。

 その表情を優しくほぐすように、頬にそえられた手が、せせらぎの唇にゆっくりと触れ、


「あっ……」


 わずかに漏れた声と、かすかに反応した自らの体の動きにためらいを覚え、せせらぎは体をこわばらせた。


「……はは。逃げたのはどっちだった?」


 覆い被さっていたせせらぎからすっと身を起こし、青比呂はきびすを返した。

 せせらぎは起き上がると、とっさに青比呂を遮ろうと突き出しかけた自らの手を見下ろし、ぐっと下唇をかみしめていた。




 続く


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