第11話 新天地
「…………はあ。は、はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
執務室にて、石木田の間の抜けた、コントのような声が響き渡った。
「ちょ……総帥! どういうことですか!」
後ろを振り返り、鉄の仮面を被る刻鉄にツバを飛ばす勢いで石木田が言った。
「言葉のままだが」
返す刻鉄は至って冷静そのものである。
「いや、でも、こいつ、あの、でも、あの、は、はぃいぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
「うざい」
「ぎゃあ!」
せせらぎに弁慶の泣き所を蹴られた石木田は、涙目になって片足を上げた。
「こ、こいつ……こいつですよ!」
ばっと石木田が指さしたのは憮然と立つ青比呂であった。せせらぎはその隣で素知らぬ顔をしている。
「こいつを、『神威』の部隊に編入させるぅ!?」
「本人の志願で、もう決定事項なの。書類も通したし登録も完了したの。いつまでも動揺しないで。見てるこっちが恥ずかしい」
石木田の隣にいる川上英子は、タブレット端末に指を這わせながら淡々と言う。
「し、しかしねえ! 新垣青比呂! こ、この野郎が『カタワラ』だあ!? 冗談じゃあないっすよ! 俺は認めませんぜ!」
「そこを何とかよろしく頼みませんぜ、石木田先輩」
「わざとむかつかせる言い方するんじゃねえ! 悪意があったぞ今のは!」
口を挟んだ青比呂は、現ににたにたと底意地悪そうな笑みを口の端に浮かべていた。
「ここに石木田、川上、二人を呼んだのは他でもない。人事を仕切る人間である川上と、前線に立つ石木田に、改めて直接報告するためだ。顔合わせの場でもある」
刻鉄の物静かな声が、荒ぶっていた石木田の苛立ちをいくばかを納めた。唸ることを止め、とりあえず、姿勢だけは正し、青比呂とせせらぎに向き直る。
そこで、青比呂は自分たちに向けられている視線に違和感を覚えた。
憮然とした顔の石木田はともかく、川上はこちらの方を向いてはいるが、あまり直視しようとしていない。
(……まあ、丁度良いか)
名前だけを名乗る、形式だけの挨拶を終え、川上と石木田は退室した。
「青比呂、花に水やる時間。行くぞ」
「すまん、先に行っててくれ。少し話がある」
ちらりと目を向けた刻鉄と、視線同士がぶつかった。
「分かった。でもサボり厳禁。分かったな」
「へいへい」
せせらぎは小走りに執務室を後にし、部屋には刻鉄と青比呂だけが残った。
「質問、かな」
刻鉄が先に切り出した。青比呂はうなずき、
「せせらぎ……あいつは何者だ?」
「……」
「赤音と同じ姿。だが別人。それに、さっきの二人の態度」
石木田の言葉を思い出す。
頑なに青比呂たちの舞台編入を反対していたのにかかわらず、「こいつ」とだけ、青比呂だけをさして言っていた。せせらぎのことには一切触れていない。蹴られても、睨み一つもしなかった。
そしてそれは川上も同じであった。青比呂たちを見ているようで、せせらぎにだけは視線をやらないよう、不自然な落ち着きのなさで立っていた。
「まるで腫れ物扱いだ。触れようとしない……偶然ではないんだろう」
「……それについては、まだ答えられない」
だが、と付け加え、刻鉄は仮面を外して振り返った。
傷だらけの、えぐられた顔面をさらして双眸を青比呂に向け、はっきりと言う。
「いずれ話す。いや、話す時が必ずくる。……待っていてもらえるか」
「そこまで言うんだったらな……分かった」
ふう、と息を落とし、青比呂は肩の力を抜いた。
同時に、部屋の中央にあるモニターから電子音がなる。
「何だ?」
「どうやら、『ステイビースト』が罠にかかったようだ」
刻鉄はすんなりと言うと、モニター前に回り込み。キーボードやマウスで画面を操作し、インカムを取り付け、何やら短く細かく、専門用語を交え言葉を交わしだした。
「青比呂、早速だが出てもらう。初陣だ。自分から『神威』に参加すると言い出したからには、成果を残せよ」
「早速か……そいつは
にやりと笑って見せる。
青比呂は緊張と同時にくすぶる闘争心を内側に燃やし、焦げる熱で汗を浮かべた。
続く
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