第5話 ふたりの問題。

 「で?どう?まだ打たれてない?」

 エスプレッソで一息ついたところで、瑠音が聞いて来た。聡美はカフェの向かいの店にジェラートを買いにいった。女子のスイーツ好きは、この気温でも関係ない。

 瑠音は、もうため口ですっかり仲良しに見えるふたりが心配なのだろう、乃亜流は正直に答えた。

「打たれてないよ。でも、今夜、うちに泊りに来るって言ってるぜ」

「はぁ?なんでそんなことになったのよ!」

「なんでかって?そりゃあれだよ。おっぱいの大きさからだよ。聡美は瑠音よりおっきいって証明したいんじゃないか?」乃亜流は至って真面目に答えた。

「どういうことよ!?なに言ってんの!?」

「いや、だから、おれの見立てでは・・・」

「見立てってなによ!見たことないくせに!」

「ないけどさぁ・・・」

「じゃぁ、なんでわかるのよ!」

「だから、肘にあたる感触でだよ!」

「・・・?」

「瑠音がうちに泊まりに来ると、おれの腕に抱きついて寝るじゃん。その時の感触と、さっき聡美が腕を組んできた時に、わざと胸を肘に寄せて来たからその感触を比べて、公正に判断した結果、おんなじくらいの大きさだって」

「わかったわ。そうね、同じ大きさってことでいいわ。でなんで、比較するようなことになったのよ」

「そりゃ、聡美が言うからだよ。あたしの方がお姉ちゃんよりおっきいよって、だから、そうでもないよって答えたんだ」

「でもちょっと待って、それが、なんで泊りに行くってことになる?」

「本当のところは、瑠音とおれが一緒に寝ながら、ってのが不思議らしい。確かめたいんじゃないの」

「あ〜それか〜〜〜。じゃぁ今夜、連れて帰ってね!」合点を得たとばかりにうなずきながら言った。乃亜流の部屋に行けば答えはすぐにわかるのだ。

「明日、昼間はバイトなんだけど。聡美はどうするの?部屋に置いとく?」

「昼過ぎに、あたしが迎えにいくから、夕方になったら『ジェニーズ』に連れてってみんなに紹介するわ」

 『ジェニーズ』とは瑠音の仲間たちが集まるプールバーで、特に約束があるわけでもないのだが、とにかくほぼ毎日そこへ行き、仲間に挨拶をしないとその日が始まりもしないし、終わりもしない、そんな日課が暗黙の掟のようになって仲間をつなぎ止めている。

 明日はライブの打ち合わせをやるとか言っていたが、今月だけでもその理由は10回以上聞かされている。そこへ、聡美を連れて行くというのだ。

「連れて帰るのはいいんだけど、聡美はどこで寝かせるの?まさか、瑠音みたいにおれのベッドで寝かせるわけにもいかないだろう」

「あの子に決めさせたら?」

「瑠音は、おれが絶対聡美に手を出したりしないって信じきってるんだね」

「しないんじゃなくて、できないでしょ」

 そこへ、聡美がジェラートを持って帰って来た。なぜか両手に持っている。

「ふたつも?」

「うん。どれもこれも美味しそうだから、絞り込めなくて、乃亜流ちょっとこっち持って」

 聡美はカシス色したジェラートを乃亜流に渡した。

「食べていいの?」乃亜流は甘党のコーヒー好きなのだ。

「順番に食べよ」

「じゅんばん?」

「そうよ。はい、まずはこっちのミルクから。乃亜流、あ〜〜〜んして」そう言って小さくて透明のプラスチックスプーンにミルクジェラートをたっぷり乗せて、食べさせてくれようとしている。「じゃぁ、今度はあたしの番ね。乃亜流、それちょうだい」聡美は口をあ〜んした。

「ほらよ」聡美の口にアイスを運びながら続けた。「瑠音からお許しがでたよ。今夜、うちに泊まれるって」

「ええぇ!いいの!お姉ちゃん!?」

「いいよ。乃亜流は信用できるから」

「ありがとう!ねぇ乃亜流!おっぱい、あたしの方が絶対大きいから!」

「かわんないでしょ!」

 瑠音らしくもない。なぜか妹と張り合っている。

「あのさ、ふたりに言っておくけど、おれ、巨乳好みじゃないから。むしろ小ぶりの方がいい」

 間髪いれず、聡美が言い返した。

「乃亜流。それはどうでもいいの。これはあたしとお姉ちゃんの問題だから!」

 じゃぁ、胸を押し付けて来るなよ!乃亜流は心の中で怒りを口にした。

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