6.ミキ
『病歴・就労状況等申立書』を手に、ミキは役所を訪れ、申請を進めた。
そのまま役所の生活保護課へ立ち寄り、担当者に申請を終えてきたことを報告する。
障害年金は決定通知が来るまで、三か月~六か月ほどかかってしまう。
病名によっては一年近くかかることもある。
気長に待ちながら、就労移行支援への通所も継続していた。
それとともに病院への診察も欠かさない。薬を飲まなくてもうつ状態はかなり改善。もう診察には最近の様子や、就労移行支援についての報告をしに来るようなものだった。
生活のこだわりが劇的に良くなっていくわけではなかったが、訪問看護に来てもらい、デイケアに通所しながら少しずつ時間をかけていい方向に向かうように心掛けた。
そして障害年金の申請から約半年後――、決定通知書が届いた。
支給が決定したという内容。等級は二級だった。
それを生活保護の担当者に報告し、保護費を調整してもらうことができた。
更に通所先の就労移行支援で、実習をすることが決まった。
二週間の実習を通して、うまく行けば会社より声が掛かるという。
そしてミキは実習を頑張った。
きちんと仕事をして、これまで育ててくれた父方祖父母に『ちゃんと頑張って生きてるよ』と胸を張って言えるために。
そして二週間後――。
ミキは実習を終えた。
更に、嬉しい出来事が起きた。
元々頑張り屋さんだったミキの働きっぷりを見た担当者から直接、翌月一日から仕事に来れないかと誘ってくれたのだ。
ミキは泣いた。
きれいに掃除された部屋に、ティッシュペーパーをたくさん散らかして声に出して泣いた。
ようやく胸を張れる。
ミキは生活保護課の担当者に報告をした。
とても喜んでくれた。
そして、診察日に主治医の新井に報告をした。
にやにやが止まらなかった。
そして――、
【地域医療連携室】に声が掛かる。
金本を呼ぶ声が、連携室に響いた。
声の主は、ミキだった。
「ミキさん、こんにちは」
顔を覗かせたのは、水嶋だった。
金本は電話対応をしているため、すぐには来れないとのことで代わりに水嶋が出て来てくれたようだ。
「あ、久しぶりです」
「覚えていてくれているんですか? 嬉しいです」
「あはは。あの、仕事が決まりました」
何やら恥ずかしそうに下を向きながら、ミキは水嶋に伝える。
しかし何の返事もない。
どうしたものだろうと、ミキが顔を上げると――
そこには、
目にいっぱいの涙を浮かべた水嶋が立っていた。
「よかった……っ。お仕事、決まってよかったですね!」
まるで自分のことかのように喜んでくれる水嶋にの姿に、ミキは思わずつられてぼろぼろと涙をこぼした。
「おじいちゃんとおばあちゃん、喜んでくれるかなぁ」
「喜んでくれますよ~。ミキさん、すっごく頑張ったんですもん~」
二人でうれし泣きをしている時に、やっと金本が顔を見せる。
「何してるんだよ、水嶋さん。あなたまで一緒に泣いて。今いくつだと思ってるの」
「がねもどざん~。ひっくひっく」
「金本さん、あのっ。仕事、受かったんです。内定貰えました!」
金本は、一瞬驚いた表情をすると、ふわりと優しい笑顔をミキに向けた。
「ミキさん。本当に、これまでよく頑張ったね」
母の温もりって、きっとこんな感じなんだろうな。
温かくて、気持ちがいい。
私は、みんなに支えられてここまでやってこれた。
本当に、本当に、ありがとうございます。
私はこれから自分の力で、自分の人生を歩んでいく。
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