5.ユウタ

 水嶋が病棟での実習を終えたあと、今田は本格的にユウタの退院に向けて動き出すことになった。


 まずはユウタと、ユウタの両親を呼んで、主治医の荒川と今田でムンテラを行なった。

 今後の方向性をそこでみんなで話し合う。


 ユウタの希望は学校への復職。

 それをするには、学校長や教頭を交えての面接が必要だった。


 その後今田は、新たにユウタの勤める学校長と教頭、そしてユウタ、荒川、今田の五人で改めてムンテラを行うように調整。


 そして退院後リワークを利用して、復職を目指して行くことが決まった。


 荒川よりユウタの病状説明があった後に、校長と教頭より、「学校で配慮するべきことがあれば教えて頂きたい」と相談があり、荒川は発達障害の特徴を交えて話をした。

 それを教頭が一生懸命手帳に書き残していく。


 ユウタはそれが嬉しかったのか、微かに笑みが溢れていたのを今田は見逃さなかった。


「ユウタさん、ムンテラおつかれさまです」

「ああ、いえ。疲れるほどではありませんでしたけど。でもまぁ、はい。おつかれさまです」


 二人はムンテラのあと、病棟の食堂に座り話をする。


「今回復職できる体制を整えてくれるってことでしたけど、それを聞いて何か思うところはありましたか?」

「そうですね、うーん。特別なことは言えませんけど、ああ、戻れる場所があるんだなぁって思いましたかね。それくらいです、はい」


 戻れる場所がある――。

 これは本当に大切なこと。


「嬉しいですか?」

「ええ、まぁはい。そうですね」


 伝え方は不器用ではあるが、あの時のユウタの表情からすると、想像以上に嬉しいことなのではないだろうか。


「そういえば、あの子……」

「あの子……、水嶋さんのこと?」

「ああ、そうだ。水嶋さん。元気でやっていますかね?」

「うん。元気でやっているよ」

「そっか。それならいいんですよ」

「そっか。何か気になることでもあった?」

「気になること……とはまた違うかもしれませんけど、あの子まっすぐな子だから悪い人に騙されないか心配で」

「あはは、そっかそっか」

「はい。でもあの子と話した一週間は、とても楽しかったんです。僕の私も一生懸命聞いてくれましたし。――それに、元気を貰えましたしね」

「ん? 最後何か言った?」

「いえ、別に」



 ほんの少し時間でも、あなたに与えられた影響は大きい。


 元気をくれてありがとう。


 前を向く力をくれて、ありがとう。

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