3.ショウコ
「今日からこちらにお世話になります、ショウコです」
ショウコは退院した後日、夫とともに小山田メンタルクリニックを受診していた。
「よかった、ショウコさん。だいぶ良くなられたみたいですね」
「はい、おかげさまで」
そしてショウコは、やまざと精神科病院に入院している間に決めた今後の方向性を小山田に相談した。
「傷病手当金を受けながら休職してリワークに通う、うん。いいんじゃないでしょうか」
小山田の回答に、ショウコと夫は安堵の表情を浮かべ、お互い顔を見合わせる。
「あと、もうひとつご相談があって」
「はい、何ですか?」
「あの、雪凪さんという相談員さんがいるとあちらの相談員さんから聞いていて、もう可能であれば、復職するまでの間に不安になった時にお話を聞いて頂けないかと思っていて」
ショウコはまっすぐに小山田の目を見て話している。
「可能だと思いますよ。ただ、臨床心理士のカウンセリングみたいに認知行動療法とかができるわけじゃないけど……」
「構いません。不安になった時に、話を聞いてくれるだけでいいんです」
「うんうん、そっか。ちょっと待ってくださいね」
そう言うと、小山田はどこかに内線をかけ始めた。
およそ一分後、診察室を訪れたのは雪凪だった。
ショウコと夫は、入院当日のことを思い出し、思わず立ち上がり頭を下げる。
「あ、あの雪凪さん。その節は大変お世話になりました」
「本当に助かりました。ありがとうございます」
「ショウコさん、旦那さん。お久しぶりですね。いえいえ、とんでもございません。頭を上げてください」
雪凪の一言で、二人は椅子に腰かけた。
「雪凪さん、ショウコさんがね、困った時とか不安になった時に話を聞いてほしいんだって」
ショウコはドキドキしながら、雪凪の回答を待っているように見える。
「もちろん。私でよければいつでも」
それから、何かあるたびにショウコと雪凪は約一時間話をした。
ショウコは退院して体調が安定した頃から、リワークへ通所を開始。
そんなリワークでの様子を報告してくれたり、最近の体調面や、一人息子のことをたくさん話してくれた。
雪凪は、そんなショウコの話をうまく傾聴、共感し、労う。
体調は少しずつ右肩上がり。薬の量もどんどん調整され、最終的には軽い睡眠薬と不安時の頓服のみまで減らすことができた。
それから無事に仕事へ復帰。
店舗をこれまでとは違う店舗へ移り、リハビリ勤務を経て、少しずつ感覚を取り戻していった。
雪凪との面接もいったん終了し、小山田に体調や最近の様子を報告するようになっていた。
そして完全に復帰後、一年を過ぎた辺りから、前店での顧客が新しい店舗に流れたことや新規の顧客の獲得が順調に進み、一気にその店舗内での売り上げナンバーワンに輝く。
「ショウコ、すごいじゃないか。本当に接客業向いているよな」
「ふふふ。ありがとう、あなた。すごく働きやすいお店なの。本当にみんなのおかげ。ありがとう」
とある休日、夫婦でコーヒーを飲みながらそんな話をしていた。
「ねぇあなた。相談してもいいかな?」
「なんだい?」
「私ね、空いた時間を使って資格を取ろうと思ってるの」
「へぇ。ちなみに何の資格?」
「えへへ。カウンセラーの資格」
あなたたちが私にしてくれたように。
私もしんどい気持ちを抱えた人たちを助けたい。
同じように出来るかは分からないけれど、私はあなたたちにたくさんのことを学ぶことができた。
それを――、たくさんの人に伝えたい。
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