知られざるゆうえんち

けものフレンズ大好き

知られざるゆうえんち

 これは『無事セルリアンを倒せたアンドかばん何の動物か分かっておめでとうの会』のときのお話……。


「ビーバー殿ただいまであります!」

「おかえりなさい、どうだったっすか?」

「カワウソ殿は非常に楽しい方だったであります。食事が終わったらまた遊ぶであります!」

「そうっすか。良かったっすね」

「あ、かばん殿の挨拶が始まるみたいであります」


 ・・・・・・。


「結局博士達が強引に終わらせてしまったっすね。かばんさんちょっと可哀想だったっす」

「ごちそうさまであります!」

「プレーリーさんも話ながら食べてたんっすね。俺っちはまただ食べてないから遊んでくると良いっすよ」

「それでは行ってくるであります!」

 走ってまたカワウソちゃんの元にいったプレーリーちゃんを、ビーバーちゃんは優しく見送ります。

 少し寂しい気もしますが、大親友のプレーリーちゃんが楽しめていることを素直喜びました。


「俺っちはあっちの方に行ってみるっすかね」

 初めてのカレーを食べ終えたビーバーちゃんは、どちらかといえば静かな方へ行きます。

 おとなしいビーバーちゃんでは、カワウソちゃん達につきあえそうにありません。

 そこではちょうどオオカミちゃんが、キタキツネちゃんに漫画を披露しているところでした。

 人見知りをするビーバーちゃんでしたが、どうしても気になったので、そそくさと邪魔にならないように向かいの席に座ります。

「おや、新しいお客さんかな?」

「あ、ビーバーっす。えっと……」

「タイリクオオカミだよ。セルリアンのときはお互い自己紹介する余裕もなかったね」

「ぼくはキタキツネ。それよりはやくはやくー」

「おっと、ファンを待たせては悪いね。それでは改めて。『ホラー探偵ギロギロ』出来たてほやほやの新作だよ――」


「まさかあんな結末になるとは想像もしなかったっす……」

「うん……」

 2人は余韻に浸りうっとりしています。

「喜んで貰えて幸いだよ。ところで読んでる間から気になってたんだけど、彼女達は大丈夫なのかい?」

 オオカミちゃんは2人の背後を指さします。

 そこにはジェットコースターのレールらしき物の上でおいかけっこをしているプレーリーちゃんとカワウソちゃんがいました。

「大丈夫じゃないっす! あぶないっす!」

「ネコや鳥のフレンズなら余裕の高さだけど、違うみたいだね」

「とりあえず私達も行った方が良さそうだ」

 3人は慌ててカワウソちゃん達の下に移動します。


「2人とも危ないっすよー!」

「おービーバー殿、それに皆さんも!」

「わーいわーい!」

「全然聞いてる感じじゃないね……」

 オオカミちゃんは呆れます。

「ビーバー殿も登るでありますか? 見晴らしがとってもいいであります!」

「たーのしーよー!」

「だから危ないっすよー!」

 ビーバーちゃんの危機感は2人には全く通じません。

「これはちょっとまずいかもね。念のためアリツさんを呼んでくるよ」

「ありがとうっす!」

「ぼくはどうすればいい?」

「ここで見ていてほしいっす。自分は直接止めに行くっす」

「わかった」

 ビーバーちゃんはキタキツネちゃんをその場に残し、レールを登れそうな所へ向かいます。


「うう、高いっす……」

 そこは実際に立つと想像以上に高い位置にあり、少し歩いただけで足がすくみます。 

 それでも友達のため、ビーバーちゃんは勇気を振り絞りながら進みます。

 プレーリーちゃん達は大分先に進んでいたので、なかなか見つけられません。

 しかも最初の方は手すりがあったのですが、すぐにそれすらなくなりました。

 そのため、ひどく不格好で不安定な体勢になってしまいましたが、それでもビーバーちゃんは進みました。

 

 しかし、一向に2人は見つかりません。

 とうとうビーバーちゃんは、レールが途切れているところまできてしまいました。


 まさか落ちたのではないかと、ビーバーちゃんが真っ青になったとき、その理由が分かりました。

「わーい!」

「待つでありますよー!」

「へへーん捕まえて――あ」

「え?」

 前からではなく、後ろから来たカワウソちゃんに、ビーバーちゃんは思いきりぶつかります。


 そう、2人は途中でレールを降り、さらに登って一周し、のたのた進んでいたビーバーちゃんに追いついてしまったのです。


 突然後ろからぶつかられ、ビーバーちゃんはレールから足を踏み外します。

 ぶつかったカワウソちゃんは体勢を整えなんとかこらえますが、ビーバーちゃんはそのまま――。


「ビーバー殿!」


「よっと――」


 ビーバーちゃんが落ちる寸前、オオカミちゃんが呼びに言ったアリツカゲラちゃんが、見事ビーバーちゃんをキャッチします。

 

それから――。 


「うう、ビーバー殿が無事でよかったであります」

「ごめんなさい」

 ビーバーちゃんのあとに地面に降りた2人が謝ります。

 そもそもビーバーちゃんと違い、元から全く危なげがありませんでした。

「俺っちの方こそ、止めるつもりが自分の方が迷惑かけて恥ずかしいっす」

「そうですよー」

 アリツカゲラちゃんもビーバーちゃんに注意します。

「まあでもそれだけ、ビーバーが2人のことを心配してたんだ。フレンズだし好きなことをするのもいいが、たまには自分を心配している誰かがいることも考えてほしい」

『……』

 オオカミちゃんの言葉に、めずらしく2人はシュンとします。


「……さて、そろそろ行こうか。私達はかばんに渡さなければならない物があるだろう。その時にそんな顔じゃ駄目じゃないか」

「そうでありますな!」

「うん!」

 プレーリーちゃんもカワウソちゃんもすぐに立ち直ります。

「ビーバー殿!」

「はいっす」

 最後にビーバーちゃんも笑顔を作りました。


「それにしても、誰か、ではなくみんなから思われているフレンズはかばんだけかもしれないね。たとえヒトでも一番フレンズらしいよ」


 そして最後にオオカミちゃんが、少しシニカルな笑顔でかばんちゃんの元へと向かいました。


                                  おしまい

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

知られざるゆうえんち けものフレンズ大好き @zvonimir1968

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ