第20話 十和田君の隠し事

 ーー十和田シュン。 十和田、十和田。 どっかで聞いたな。 イケメンがいるって妹が言ってて。 つまり俺と十和田の妹とはなんらかの関係性が……。


「あれー? ワタルくん、僕の妹のことを知ってると思ってたんだけど」


 その時ピンときた。先ほどまで一緒に話してた。


「その娘って十和田ミチちゃんのこと?」

「そうそう! やっぱり知り合いだったんだね〜」



 手を合わせて笑いながら話す姿は女の子にしか見えない。

 それからシュンはまじまじと顔を覗き込む。


「ミッちゃんがイケメンって言ってたから相当な人なんだろうって思ってたんだけど……。 はるかに想像を上回るね。」


 ーーナイスリアクション。 すごくキュンとするよ。 女だったらな‼︎


「そうだ。 僕、ワタルくんのお友達になりたいんだ。 みんな優しくしてくれるけど男の人であんまり友達いないし。 だからね、今日、一緒に帰らない?」

「いいよ。 でも俺、今日ショウマと新作ゲームの発売で並ぶ約束してんだ。 それに付き合わせちゃう事になるけどそれでもいいなら……」

「ぜひ! 僕もそのガールやって見たいな!」


 そこで俺は言葉に詰まる。まさか俺らが買おうとしているのがエロゲーだなんて口が裂けても言えない。


「ねえ、ワタルくん。 ワタルくんって普段どういうゲームやるの?」


 ーーはいっ。 僕は神様に見捨てられました。


「ええと。 格ゲーとか、MMORPGとか……。 ところで、シュンは何やんの?」

「ぼ、僕? えっとね。僕はねー……」


 何か様子がおかしい。明らかに隠し事をしている。


「とにかく! 後でゲーム買いに行くの付き合うから! ワタルくんと一緒にゲームさせて!」


 もうすでに日が紅くなりつつある。ちょっと前までは下校時刻でももっと明るかったはずなのに、秋の日はつるべ落としとはよく言ったもんだ。


「ワタルくん。ショウマくん。 今日はヨロシク!」

「よ、ヨロシク」


 どうやらテンションについていけていないショウマ。


「それじゃ行こうか。 ショウマは何回か俺と言ったことあると思うけど、シュンは初めてだよな。 お前可愛いからナンパとかされんなよ」

「もーっ! ワタルくんまで僕のこと女の子扱いして!」


 その時スマホのメッセージに通知が来た。発信源はショウマからだった。


 ーーこんなに近くなのになんでメッセージ?


 その内容を見て理由がわかった。


〈おいワタル。 このシュンって娘、可愛いな。 俺、一目惚れだよ。〉


 ーーはぁ、女ったらしだという一面が垣間見えるな。


〈男だぜシュンは。 この見た目だけど〉


 隣でショウマが倒れこむ


「ショウマくん⁉︎ どうしたの? 具合悪い?」


「なんでもねぇ、大丈夫だ……。 にしてもよぉ、お前男なのにその格好って、ガチ天使かよ……」


 ガクっ


「死んだ。 ショウマくんが息を引き取ったよ!」


 俺はショウマの耳を引っ張って連れて行く


「変な茶番はいいからはよ行くぞ」

「イデデデデッ‼︎ わーった、分かったから放せって!」


 電車で二駅飛ばし、いわゆるヲタクの聖地と呼ばれる場所に来た。


 ーー漫画の中でも秋葉原駅はまんまだったからな。


「こちらー! 【ももラビ】新作の販売最後尾となっていまーす! 間も無く販売が始まりますので、お早めにお並びくださーい!」


 威勢のいい男の人の呼びかけが聞こえた時、シュンは動いた。


「ワタルくん。 もしかしてもしかして、今日の目的ってももラビ買いに来ること? 僕すっごいファンなんだ‼︎」


「てことはシュン、おめえ……」


 ショウマが拍子の抜けた声を出す。


「エロゲーとか、やるの?」


 シュンはモジモジしながら答えた。


「みんなにはずっと内緒にしてた。 中学の時は、いとこのにーちゃんがよくくれたのをやってて、それが友達に見つかって、学校中に広まって……」


「そうか、それ以上は話さんでいい」


 ショウマが肩を組む。


「俺たちもお前の同士だから」


 シュンの目は涙で潤んでいた。


「うぅっ。 ありがとう。 ありがとう2人とも……」


 少し遠くから販売開始まで後10分でーすと声が聞こえる。


「ほら、念願のエロゲーも変えることだし、ここで嬉し泣きしてたら、手に入れた時泣けなくなるぞ?」

「そうだね……。 そうだ、この後僕の家で一緒プレイしない?」

「おっ、いいなぁ! 俺、シュンの持ってるエロゲーも色々と物色してえからよ」


 ショウマはそう言って舌舐めずりした。

 ようやく手に入ったももラビの新作。それを家宝のようにバックに入れてシュンの家へ向かう。


「少し散らかってるけど気にしないでー」


 そうは言っていたものの、


「何これすげー綺麗じゃねえか!」


 ショウマが感心の声を出す。

 確かに綺麗だ。本や漫画はきっちりと本棚にしまわれ、机、椅子、テレビ、ベッドの必要最低限の物とプラスで数多のゲーム会社のゲームが並べられている。


「そうだ、ショウマくん僕の持ってるエロゲー見たいって言ってたよね。」


 シュンがクローゼットの中から取り出したのは大きなダンボール3つだ。


「これ、まだお母さんとお父さん。 ミッちゃんに言ってないんだ。 見つかっちゃったらどうしよう」

「そんなら、俺が家で預かっててやろうか?」


 ショウマが久々に頼もしいことを言った。


「ホント? いいの? よかった〜バレる前にショウマくんがいてくれて」

「それじゃあ始めようか。 ももラビ」


 とうとう俺はもどかしくなって急かした。


「そうだね」


 そう言ってゲーム機の電源を入れた。







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