第21話 ルピの本業

 はあっはあっと息を切らしながら家へ向かう。


 ーーコノミに事前に説明しとけばよかった。コノミの事だからきっと許してくれるとは思うけど、あいつも心配性だからな……


 時計の針が7時30分を指す頃にようやく家に着いた。


「ん? 何だこれ?」


 玄関の前にダンボール箱が置いてあった。

〈ルピへ、他のヤツは絶対に開けんなよ‼︎〉

 そう赤字で乱雑に書かれていたダンボールはいかにも怪しげで、ゆっくりと持ち上げて軽く振ってみる。

 あまり大きい音はしないが、カサカサと紙が擦れるような音がする。


 ーーとりあえずルピに確認してもらうか。


 部屋に入ると、ルピは何やらルンルンしている。


「どうした? ルピ。気持ち悪いぞ」

「どうしたって、今日は神さまから贈り物が届く日なんですよ〜♪」


 大体察しがついた。


「ところでご主人。 その箱は何すか?」

「玄関に置いてあった。 多分お前の言ってる……」


 言い終わらないうちにダンボール箱は俺の手からルピの手へ移っていた。


「このきったねぇ字、まさに神さまのものっすよ‼︎」


 ルピが飛び上がって喜んでいる最中、コノミがドアを開けて入って来た。


「おにーちゃん。 おかえり。 おべんと洗っちゃいたいから勝手に出しちゃうね」

「ええよー。 いっつもありがとな」


 ルピの喜びの舞が終わったようで、開封に取り掛かる。ルピがダンボールを開けたと共に、俺の肩に手が置かれる。


「どうした? コノミ」


 コノミは表情一つ変えず、


「おにーちゃん。 コレ、ナニ?」


 手にしていたものは先ほど買ったばかりの

 ももラビ最新作だ。パッケージにはたくさんの可愛い女の子。裏面にはエゲツないほど堂々と描かれたソッチ系のイラスト。


「アア。 イヤ、コノミ、チョットマッテクレ……。 オレモホラ、オトコダカラサ……」

「おにーちゃぁん……。 チョット来て?」

「ひ、ヒイイイィィィィ」


 廊下に連れ出され、コテンパンに説教される。


「こういうえっちいゲームはしちゃダメ。 そもそもおにーちゃんには私がいるんだからいちいちこういうゲームしなくても、私に言ってくれれば……」

「分かった。 悪かったからから許してくれ」


 コノミは少々考え、


「分かった。 許してあげる。 でも、このゲームはぼっしゅーです。」

「ぼっしゅーでも何でもするがよい。 俺はこれから妹一筋だぜ!」


 コノミはうつむく。


「あれれー? 我が妹よ、お顔が真っ赤っかだぞ〜? 熱でもあるんじゃないかなぁ」

「もう! うるさい! 私だっておにーちゃん一筋だから!」


 猛スピードで部屋に帰ってしまった。


 ーーやっぱり妹心ってのは掴めないな。


 部屋へ戻るとルピは純白のベールに包まれていた。とても綺麗で、神々しい。でも中身が中身なゆえ、


「っしゃあー! おにゅうの服ゲットォ‼︎」


 見かけとはかけ離れ、ガッツポーズをとる。


「ルピ? その格好どうした?」

「神さまからの贈り物っすよ! 職業服くれたんすよ!」


 俺も箱の中を漁る。手に何か金属性の冷たさが伝わる。


「ルピ。 この腕輪は?」

「え? 神さま、腕輪まで新しくしてくれたんすか? マジ天使じゃないっすか」


 ルピが腕輪をはめ、ありがてぇー! キンッキンに冷えてやがるぜ! と叫ぶ。


「手紙も入ってたぞー。てか、お前ちゃんと中身全部確認したのか? 今から俺が読み上げてやるから黙って聞いてろよ。」

「オッケーっすよ」

「拝啓 季節も移り変わり、実りの秋がやって来ようとしています。

 ところで、ルピ。 下界での暮らしはちゃんとやれているのか? ご主人様に出会って、ご奉仕できてるか?

 これはほんのささやかな気持ちだが、受け取れ。 職業服は特注のデザイン。 腕輪は最新版。 説明書が入ってると思うからそれまで使い方覚えてねー。 そんじゃあこれからもガンバー。

 敬具」

「なんか、テキトーじゃないっすか? 手紙の内容」

「神さまってこんなんなの?」

「そうっすよ。 チャラいくせして優等生気取ってできますアピールしてくるんすよ。 今時の意識高い系民族と同じでクソ鬱陶しいやつっすね」


 ガッカリだ。もともとあんまり神という存在を認めていなかった俺だが、いたとしてもこんなにチャラいと流石に心配になってくる。

 落ち込んでいる俺の隣でルピが真剣に腕輪の上で紋章を描く。


「説明書通りやっても、どうもうまくいかないんすよねぇ」

「今何やろうとしてんの?」

「この、超次元魔界的爆撃電磁砲ウルトラヘルズバーニングレールガンとかよくわからんやつを……」

「やめとけ、もっと平和主義で行こうな」

「んじゃあ、この錬金術ってのやってみますか。」

「説明書通りやってこうな」


〈① まずは素材を用意します。〉

「人参で大丈夫っすよね」

〈② ①とは違う素材を用意します。〉

「もう、ガン◯ラでいいや」

〈③ 腕輪の上で下記のとうり紋章を描く〉

「こうっすか?」


 突如紫色の光に包まれる。目の前に現れたのは、金でも、銀でもなく、人参色のガン◯ラ

 だった。


「ほら、説明書通りにやってもこう、失敗しちゃうんすよ」

「何をどうしたらこうなるんだよ! それよりもお前のチョイスだよ! 人参とガン◯ラ金属のきの字もねぇじゃねぇかよ」

「いいじゃないっすか、この魔法使うの今回が初めてですし!」

「とは言ってもお前使える魔法と言ったらキューピッドの弓と矢を出していることぐらいだろ?」

「それならご主人は特技の一つや二つ、持ってるんすか?」

「そりゃ持ってるぞ。 例えば影絵の鳩とか上手に作れるし、あとは……」

 1つしか、ないな。

「ないじゃないっすか。 だから特技のないもの同士頑張ろうっすよ」

「お前と一緒にされたくねぇ‼︎」





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