第19話 タダイマと出会い

 左手の人差し指に妙な感覚を覚える。温かくて、何だか少し気持ちいい。


「おにーちゃん。 おにーちゃんの指、ゴツゴツしてて……。」


 ちゅぱちゅぱと何かを吸い上げる様な音がなるごとに、その感覚は強くなっていく。


「おにーちゃん。 私、もっとおにーちゃんに好きになってもらいたい。 隅々まで、余すことなく愛されたいよ。」


 耳に音は入って来るものの、脳がそれを理解しない。


「まだ、帰ってこないよね。」


 ーーんっと、この声は、コノミかなぁ

 ようやく意識が戻って来る。


「一回やってみたかったんだよね。 おにーちゃん。 ごめんね。」


 俺の身体が布団からコノミの上に移る。


「ぁ! おにーちゃんの重みが全部私の体に。おにーちゃんを全身で感じてるよ。 気持ちいいのっ。 もっと、もっとぉ」


 ーーコノミ、ちょっと待って。 怪我するぞ。


 必死に身体を動かそうにも未だに意識が朦朧

 としている。


「おにーちゃんにもっと愛されたい虐めてもらいたい。 気持ちよくしてもらいたい。」


 ガチャ

 部屋のドアが開く。


「コーノーミーちゃん。 ご主人の様子はどうっす……。 って何してんすか⁉︎」

「あっ、ルピちゃん!」

「言わなくても大体内容は分かったっすよ。今助けるっすからね!」


 身体を思いっきり蹴飛ばされ、胸ぐらを掴まれる。


「ご主人! 帰って来て早々何なんすか! す

 るんならミサさんがいるでしょうが!」


 頬を叩かれる


「いってぇな! 何すんだよ!」

「ご主人がコノミちゃんを襲ったからこうしたまでっすよ!」


 ルピは膝立ちでコノミの元まで行き、


「コノミちゃん大丈夫っすか? 怪我とかしてないっすか?」


 コノミの目には光がなく、虚ろなまま呟く


「おにーちゃんに見られた。 起きてたの知らなかっただけ。 おにーちゃん、もう私のこと愛してくれない。」

「ちょっとご主人。 これかなり精神にこたえてるっすよ……。」

「コノミしっかりしろ! そう恥ずかしがることはない。 俺はどんなお前でも愛すって決めた。 それに、俺は前にお前のオナ……」


 言いかけて、コノミの顔が真っ赤になっていることに気づく。


「おにーちゃんのバカっ! それ異常言わないでよ! 恥ずかしい!」


 俺は顔の前で手を合わせ


「コノミ。 ゴメン!」


 コノミはそっぽを向く。


「俺が悪かった。 許してくれ」


 目線だけチラリこちらを見て、


「おにーちゃん。 おかえり」

「た、ただいま。」


 ーーん? 何で今、おかえりなんだ?

 女心はわからないなと小さく息を吐く。

 コノミが俺の元へと近づき、ハグをする


「おかえりなさい! おにーちゃん。 私、ずっと待ってた。」


 俺はその時気付いた。やっぱりこっちの世界で待ってもらっている。こっちの世界を待たせているんだ。


「おにーちゃん。 ご飯作って来るからできるまで待ってて」

「分かった。 楽しみにしてるよ」

 コノミが出て行った後、

「んで、向こうに行ってなんか分かったことあったんすか?」

「いや、特になかったかな」

「なーんだ、こっちでの死=現実世界での死みたいなのは無いんすね。」

「お前そういうギリギリを狙っていくな」


 ルピは少し考え、


「そんじゃあ、こっちでのんびりってのも良いんじゃ無いんすか?」

「んー……。 そうしようかなとも思ったりする。」

「そっすよね。 いっそのことこっちを現実って見なしちゃえばそれもそれでOK何じゃ無いっすか?」

「そうだよな。 俺らがいなくなったらコノミもミサもマキも、みんな寂しがるだろうし。」


 ーーこのこと、ハナカはどう思ってるんだろう。 明日、聞いてみよっかな。


 翌日、学校で朝一番にハナカの席に向かう。


「おっはよー。 ワタル君。 昨日はお家、どうだった?」

「相変わらずだったよ。 ルピはやかましいし、コノミは大人しいし。」

「そっか。 それなら良かったよ。」

「ところでさ、昨日ルピと話し合ったんだけど。 いっそのことこっちで暮らそうかなって思ってるんだ。」

「私も。 私もそう考えてたよ。 向こうに行っても人脈無いし、両親だって家にいない。楽しいことなんてなかった。 そもそも、あそこが私たちの居場所じゃ無いからこっちに来たのかもね。」

「そうだな」


 ニコッと笑って返す。


「ねぇワタル君。 今日もワタル君の家に行ってもいい?」

「いいけど、何か用?」

「ううん、特に無い。 ただ行きたいだけ」

「分かった。 コノミも喜ぶと思う」


 お昼休み、コノミにハナカが来ることを伝えようとコノミのあるクラスに向かう。

 いない。いないのだ。コノミはいっつもお弁当はクラスで友達と食べているのに、いつもコノミといる十和田に話を聞く。


「あのー、十和田ミチちゃんだよね。」


 ビクッとからだを大きく揺らし、


「はっはい。 何でしょうかセンパイ」

「コノミ知らない? いっつもお弁当一緒に食べてるからさ。 きょうはいなくてどうしたのかなって。」

「コノミちゃんなら、さっきの体育で足挫いちゃって……。」


 ーーコノミ、あいつ美人なくせしてドジだからな。


「分かった。 ありがとう。」

「あ、あの。 センパイ!」

「なんだ?」

「い、一緒にご飯、食べませんか?」

「……。え?」

「迷惑だったらすみません。 大丈夫です。 大丈夫ですので。」


 ピューッとどこかへ行ってしまった。


 ーーそういえば、あのミチって子、前に階段から落ちかけてそれを俺がナイスキャッチしたような。 にしても、類は友を呼ぶというは本当のようだ。 まるでアイドルみたいに可愛かったな。 まあ、コノミには負けるけど。


 保健室まで足を運び、コノミの安否を確認する。


「コノミー、大丈夫かー。」

「おにーちゃん。 わざわざ来てくれたの?」

「まあな、愛する妹のためにはこんなこと普通にするって。」

「ありがとう。 私なら大丈夫だから安心していいよ。」

「そうか、それなら良かったよ。 でももし何かあったらにーちゃんのこと呼べよ? すぐ駆けつけてやるから。」

「うん。 それならもっと近くに寄って。」


 コノミの座っている長椅子に腰をかける。

 2人で目を合わせて、コノミがキスをした。それも唇に。


「これはいつもありがとうのキス。 それと次はこれからもよろしくのキス」


 そう言ってもう一度キスをする。


「コノミ、お前最近なんか積極的だよなぁ……。」

「私だってちゃんと大人になってるってとこも、おにーちゃんに見せなくちゃだからね。」


 コノミはそう言ってウインクした。

 予鈴が鳴り、俺はコノミに別れを告げて教室へ駆けた。

 日の当たる窓側の席はどこよりも特別だ。

 夏の終わりが見えてきた最近でも、生命の活力源の自然エネルギーを分け与えてくれている。


 ーーなんていいんだろうか。 隣では美少女アンドロイドも可愛らしい寝息を立てているし、こっちの世界は平和だなぁ。


 ガラガラ

 先生が入ってくる音を聞き、マキが目を覚ます。


「そんじゃあ突然だが、席替えするぞ〜」

「っしゃぁ!」

「次こそはマキさんの隣に……。 ブヒヒ‼︎」

「えー!ハナカと離れるのウチ嫌なんだけどー」


 クラスの中が自然と騒がしくなる。


「ハイハイ、始めるから。 出席番号順に並べー。」

 ーーおいおいおいおい。 マジかよ先生そりゃねえよ。 だって今俺、日々のありがたみを再実感してたところだぞ?


 やがて俺の番が回ってくる。いざ、運命との勝負‼︎


「ぬわーー‼︎」


 真ん中だったらまだ良かった。人の温かみを感じることができるから。だが今回引き当てたのは、こじんまりとした廊下側。それも隅っこ。


 ーー惨敗だ。 てかなんだよ運命との勝負って。 厨二なんて思い出しただけでも恥ずかしいわ。

 サヨナラ。 愛すべき窓側、もう一度会えることを願って……。


 新しい席でも隣は変わらずマキだった。

 ただ、問題なのは前の席の男子(?)生徒だ。髪の毛は後ろで結ばれポニーテールを作り、やたらと顔が可愛い。いわゆる今時の

 オトコの娘というジャンルである。


 ーーこんなヤツ、クラスにいたっけか。


 そのオトコの娘がくるっと振り向き、両手で手を握る。


「君、高橋ワタルくんだね。」

「そうだけど」

「これからよろしくね。 妹がイケメンがいるって言ってて、その人がワタルくんだったんだ〜。」


 一方的に話され反応に困る。自分のコミュ力の低さにはうんざりだ。


「あっ、自己紹介まだだったね。 僕、十和田シュン。 よろしく」






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