第17話 現実世界も試練の連続
「ワタル君。 きっと助けてくれるって。 私、待ってた」
涙を拭いながらマユミは微笑む
「ハナカ。 いや、マユミ。 俺達これからどうすればいいのかな。」
三次元ずっと今までのような生活を送るか。それとも二次元で新しい生活を送るか。その選択は2つに1つといっても過言ではないだろう。
「ワタル君の好きにしていいよ。」
「マユミは俺について来てくれるのか?」
「もちろん! 命の恩人だもの!」
「それじゃあ……」
ーーおそらく、こっちで今まで通りの生活を送るのがベストなんだろう。けど、二次元ではこっちよりも俺らの事を待っている人がいる事は事実だ。だとしても、向こうで暮らした場合、こっちの世界はどうなるんだ?こっちで暮らした場合、向こうの世界はどうなるんだ?
思考が頭の中をぐるぐると回る。どの選択肢を選んだとしてもリスクは付き物であろう。
そこで俺が出した決断。それは
「3日間。 3日間だけこっちで生活しよう。 それで決めるんだ。 たとえ君と俺が同じ答えにならなくったって構わない。 それじゃあ、 ダメかなぁ……。」
「ワタル君がそれがいいって言うんなら私はそうするだけだよ。」
「……。ありがとう」
それから少し黙り込んで再び口を開く。
「それとさ。 ここでは、その……。 ワタル君じゃなくて、サカキ君って呼んでくれるかな……。」
「あ、そうだよね!」
そんな些細な会話が楽しくて、面白くて、2人でクスクスと笑い合った。
※
翌日、俺は普通に今まで通り学校に行った。
「おいサカキ! お前この1年間どうしてた!」
朝礼で俺の復帰を報告し終えた後の休み時間、ヤマトが涙目で近付き俺の胸ぐらを掴んだ
「おいぃ、ちょっと待てよ。 暴力じゃ何にも解決しねーから……。 な? 一旦落ち着こう。な?」
「電話して来た時……」
「へ?」
「電話して来ただろ! 5月の初めに。」
「あぁ、そのことね……」
「あの後のこの9ヶ月間の間に何があった?」
俺はそれに応えることができず、ただ足元を見つめた。
「そうか、お前はそんな風にして人が心配する気持ちを踏みにじるんだな?」
バン!
ヤマトが机を叩き、大きな音が教室全体に響く
「ならいいよ! 俺らの関係は白紙に戻るんだ!もう何もない。 何もないんだよ! 俺らの間には‼︎」
クラスメートの視線が痛い。
始業のチャイムが鳴り、
「みんなー。 席に着けー。」
事情など知らない先生が入って来る
「まずはサカキ。復帰おめでとう。それともう1つ、みんなにお知らせがある。」
先生が教室の戸を開け、
「入りなさい」
その声に従って教室に足を踏み入れたのは マユミだった。
ーーえ? マユミ、なんで学校に?
よろしくお願いしますから入ったマユミの自己紹介は、クラスメートの声に掻き消されそうだ
「え? マジかわいいじゃん。」
「どっから来たんだろう」
クラスは騒然とし、落ち着きがなかった。
マユミが口を閉じ、自己紹介も済んだかなと思いきや
「ちなみに、私はサカキのお知り合いでして。」
ガタッ
「ちょっと待てマユミ‼︎」
「あら、どうして?いいじゃない自己紹介なんだし」
「良いも悪いも、そんなこと言われたら今まで入院してた事をみんなにうたがわれ……」
またもや全員の視線が集まる。
「え? どういう関係?」
「まさかサカキ、入院とか言って実はマユミさんと……。」
あれ?なんかデジャブだぞ?この感じ。
ふとヤマトを見ると、彼は呆れた顔をして顔を正面に戻した。
「ちーなーみーに! 私とサカキ君は病院で知り合った関係だから。 サカキ君の入院は事実です。」
ーーおお!かばってくれるのか……。
俺は席に座り、ハァと短いため息をつく。
「それじゃあ、マユミさん。 あそこの窓側の空席に座ってください。」
マユミが隣に!というように上手くはできておらず、あいにく俺はクラスのド真ん中だ。
それから1日中、ヤマトは機嫌悪いし、マユミはみんなの注目の的だしで俺は誰とも話す事なく終わった。
「サカキ君帰ろー!」
ーーようやく話せるうううう!!!!!!
膝を折り、手をに付け、その上に頭を乗せるこれはいわゆる 土下座 のポーズである。
「ぜひ! ぜひご一緒させていただきます。」
「うん、そのキャラきもいから止めようね。」
跪いていた俺はすぐさま立ち上がり、小走りでマユミの元へと向かう。
「サカキ君ってさぁ……。 友達いないの?」
唐突な質問に身動きさえ取れなくなった。
「誰とも話してなかったじゃない。 それともあれ? 久々で緊張したとか?」
俺は上を見上げて呟く
「俺ってやっぱ、駄目だなんだよなぁ……」
「何が?」
「喧嘩したんだ。 お前が教室に入って来る直前までしてた。」
「そっか、それでなんだ」
2人の空気が気まずくなる。
駅について一緒に電車に乗る。二駅またいで一緒に降りる。2人で家の玄関まで来て
「いつまでついて来てんだよ! 早く家に帰れよ!」
「もう! 鈍感だなあ。 フツー、ツッコミ入れるまでこんなにかかる?」
マユミはやれやれと呆れた風に見せ、
「要件から言うと、泊めさせていただきたいのですよ。 サカキ君の家に」
「んー。 分かった。 空いてる部屋いくつかあるからテキトーに寝て」
「えぇ? そこでナンデヤネン‼︎ ぐらいあっても良いんじゃ」
「こっちはなぁ、天使を家に居候させてるんだぞ?そんな程度じゃ驚ろかねぇよ」
そう言いながら鍵を開けてドアを引く。
「ようこそ、正真正銘の我が家へ」
マユミは家に入った瞬間、
「サカキ君! サカキ君の部屋はどこ?」
「ん? ついて来なよ」
若干の違和感を覚えつつも、部屋へ案内する。
「ここだけど……。」
マユミは問答無用と言わんばかりに部屋を物色し始める。
「な、何してんの⁉︎」
「そんなの決まってるじゃない!エロ本探しよ‼︎」
「持ってねぇし‼︎ ちょっ! やめろ」
「あった! なになに? ロ◯巨◯の中◯し触手プ◯イ?」
何枚かペラペラとめくり、
「サカキ君、意外と良い趣味してるね!」
グッと親指を立てたハンドサインをされた。
「そんなこと言われても全然嬉しくねぇよ‼︎」
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